長期金利が3%台に乗りました。10年国債の利回りは、2026年10月8日時点で3.09%です。
一方、日経平均の配当利回りは1.68%。債券の利回りが、株式の配当利回りを大きく上回っています。
それなら債券のほうが有利ではないか。そう考えるのが自然です。
ただ、プロが株式と債券を比べるときに使うのは、配当利回りではありません。益利回りという別の数字を使います。そして、そちらで比べると結論が逆になります。
1. 配当利回りで比べると、債券のほうが高い
まず、そのまま比べてみます。2026年10月7日時点の日経平均の指標です。
1.1 利回り
- 10年国債(10月8日) 3.09%
- 日経平均の配当利回り 1.68%
差は1.41%ポイント。債券の勝ちです。
個人向け国債で比べても同じです。10月募集分の税引後利率は、固定5年が1.9044715%、変動10年が1.6335425%。配当利回り1.68%に税金20.315%がかかると1.339%ですから、手取りでは個人向け国債のほうが上になります。
ここまでなら、債券を選ぶ理由がそろっているように見えます。
2. 益利回りで比べると、株のほうが2.59%ポイント高い
では、益利回りとは何でしょうか。
益利回り = 1 ÷ PER
PERは株価が1株当たり利益の何倍かを示す指標ですから、その逆数は、株価に対して企業がどれだけ利益を稼いでいるかを表します。
※PERの読み方そのものは「PER15倍なら割安は本当か?」で解説しました。
日経平均の予想PERは、10月7日時点で17.60倍(加重平均)。先ほどの計算式から、逆数をとると5.68%です。
2.1 利回り
- 日経平均の益利回り: 5.68%
- 10年国債: 3.09%
- 差(イールドスプレッド): +2.59%ポイント
配当利回りでは1.41%ポイント負けていた株式が、益利回りでは2.59%ポイント勝っています。
なお、この「益利回り − 長期金利」を本記事ではイールドスプレッドと呼びます。逆向きに「長期金利 − 益利回り」で定義する流儀もあるので、他の資料と見比べるときは符号の向きにご注意ください。
3. なぜ逆転するのか?利益の約7割が配当されずに残るから
二つの数字の関係を見ると、理由がはっきりします。
配当利回り1.68% ÷ 益利回り5.68% = 約30%。これがいわゆる配当性向です。企業が稼いだ利益のうち、株主に配られるのは3割ほどということになります。
残りの7割はどこへ行くのか。配当されずに企業の内部に残ります。設備投資や研究開発、あるいは自社株買いに使われ、使われなかった分は株主資本として積み上がっていきます。
ここが債券との決定的な違いです。
債券は利付債の際には利子は、受け取って終わりです。 仮に3.09%が利子で支払われるのであれば、全額が手元に来ますが、それ以上は増えません。
株式は、受け取るのが3割で、7割は企業の中で働き続けます。 配当利回りが示すのは受け取る分だけ。益利回りは、受け取らない分まで含めた「稼いだ分」を示しています。
どちらが正しいという話ではありません。受け取る額で比べるなら配当利回り、企業が生む利益で比べるなら益利回り。 問いが違えば、使う数字も変わります。
4. ゼロ金利の頃は、スプレッドが5%ポイント以上あった
いまのイールドスプレッド2.59%ポイントを、どう評価すればよいでしょうか。
比較のために、長期金利が0.6%だった頃を同じPER17.60倍で計算してみます。益利回り5.68%から0.6%を引くと、5.08%ポイント。
いまの2.59%ポイントは、その半分程度です。
長期金利が上がった分だけ、株式の相対的な魅力は確実に縮んでいます。株式を選ぶ理由を説明する必要がなかった時代は終わった、と言えます。
ただし、スプレッドはまだプラスです。益利回りが長期金利と並ぶのは、PERが32.4倍まで上がったときの計算になります。17.60倍とは距離があります。
5. 元機関投資家イズミダの視点
株式と債券を比べるときに、まず決めておきたいことがあります。何を比べたいのかです。
いま使うお金を比較するのであれば、比べるのは受け取る額です。配当利回りと利子を、税引後で並べるということがひとつです。その土俵では、いまは債券が勝っています。
また、将来の資産を増やしたいのなら、比べるのは稼ぐ力です。益利回りと長期金利を並べる。その土俵では、長期金利が上昇したとはいえ、株式が2.59%ポイント上回っています。
同じ二つの金融資産を比べているのに、答え、判断が逆になる。 これは数字が間違っているのではなく、問いが違うだけです。
そのうえで、イールドスプレッドの使い方にも触れておきます。これは水準を当てる道具ではなく、いまの位置を知る道具です。2.59%ポイントが広いのか狭いのかは、過去と比べて初めて意味を持ちます。5%ポイント以上あった時期から半分に縮んだ、という事実のほうが、絶対値より多くを語ります。
そして、スプレッドが縮んだからといって株式を減らすべきだ、という結論にも直結しません。スプレッドは相場を当てるための指標ではなく、いまどちらに傾いた状態で自分が投資しているのかを確かめるための物差しだからです。
株式と債券それぞれの性質については「元機関投資家が教える株式投資と債券投資のメリットとデメリットー知っておきたい12の視点」で整理しました。資産全体のなかで両者をどう置くかは「国の年金運用機関GPIFは、なぜ4資産に25%ずつ分けるだけなのか?」が参考になると思います。
最後に、数字の時点を添えておきます。日経平均の指標は2026年10月7日、10年国債利回りは10月8日の値です。どちらも日々動きますので、ご自身で確かめるときは最新の数字に置き換えてください。
皆さんの資産運用の参考になれば幸いです。