3. 【3年以内に撤廃】社会保険の「月額8万8000円以上」の賃金要件

最低賃金の引き上げとあわせて確認したいのが、短時間労働者の社会保険の加入要件です。

賃金要件は撤廃されることが決まっていますが、健康保険の被扶養者の収入基準などは別に確認する必要があります。

3.1 撤廃の時期は公布から3年以内

撤廃後は、週の所定労働時間が加入の判定軸になります2/3

短時間労働者の社会保険の賃金要件の撤廃

出所:厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」

社会保険の加入対象になるかどうかを判定する要件のひとつに、所定内賃金が月額8万8000円以上、年収にしておよそ106万円という賃金要件があります。いわゆる「106万円の壁」です。

厚生労働省によると、この賃金要件は2025年6月20日に公布された年金制度改正法に基づき、公布から3年以内に撤廃されることが決まっています。

ただし具体的な実施日は、全国の最低賃金が1016円以上となる状況を見極めて判断するとされており、本記事の執筆時点では公表されていません。

週20時間を月平均の労働時間に換算すると、20時間×52週÷12カ月で約86.67時間です。月額8万8000円をこの時間で割ると時給約1015.38円となり、1円単位では1016円以上が目安となります。

厚生労働省は、この1016円という水準を撤廃時期の判断材料に挙げています。今回の答申では最も低い宮崎県でも1085円となり、全国すべての都道府県が1016円を上回りました。

3.2 週20時間に加え、勤務先や雇用期間などの条件も確認する

賃金要件が撤廃されても、週20時間以上働く人が全員、勤務先の健康保険・厚生年金保険に加入するわけではありません。

短時間労働者については、週の所定労働時間が20時間以上であることに加え、原則として学生ではないこと、2カ月を超えて雇用される見込みがあることなどが必要です。

企業規模要件も残ります。こちらは10年をかけて段階的に縮小・撤廃される予定で、現在は厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業などが対象です。

労使の合意に基づいて適用を拡大した事業所なども含まれるため、勤務先への確認が必要です。

また、勤務先の社会保険の加入対象とならない場合でも、配偶者の健康保険の扶養に入るための収入基準は別にあります。

賃金要件の撤廃によって、年収を確認する必要がなくなるわけではありません。

3.3 住民税のラインは超えやすくなる

社会保険の賃金要件が撤廃されても、住民税の課税・非課税の判定は別に行われます。

例えば、神戸市が公表している2026年度の制度に基づく目安では、扶養親族のいない方で給与収入のみの場合、年収110万円以下が非課税となる基準です。

単身で給与のみなら110万円以下が非課税の目安です3/3

住民税が非課税となる年収の目安(神戸市の場合)

出所:神戸市「いくらまでの収入なら住民税(市県民税)が課税されませんか?」

ただし、非課税となる収入の目安は自治体や本人の状況によって異なります。

また、住民税は前年の所得をもとに計算されるため、最低賃金が上がった月に、その増収分が直ちに住民税へ反映されるわけではありません。収入が増えた年と、その収入に対して住民税が課される年度を分けて確認してください。

4. FPからのアドバイス|10月以降に確認したい3点

制度が変わる時期は、確認する項目も増えます。ここでは、10月以降に確認したいポイントを3つお伝えします。

4.1 勤務先に適用される最低賃金と発効日を確認する

まず押さえたいのが日付です。先ほど見たとおり、都道府県によって発効日が異なります。

勤務先に適用される最低賃金と発効日を確認し、発効日以降の勤務分に正しい賃金が適用されているかを確かめてください。

すでに改定後の最低賃金を上回る賃金が支払われている場合、最低賃金の改定と同額の昇給があるとは限りません。

4.2 勤務時間を変える前に、社会保険の加入条件を確認する

これまで年収を106万円以内に収めるために時間を調整していた方は、賃金要件が撤廃されるとその計算が成り立たなくなります。

撤廃後は、企業規模などの他の要件を満たす勤務先で週20時間以上働いていれば、年収の多少にかかわらず社会保険の対象になります。時間を減らして年収を抑えても、週20時間を下回らなければ結果は変わりません。

判断を変える前に、自分が週何時間働いているかを先に確認してください。時給ではなく時間が基準になるという点が、今回のいちばん大きな変化です。

4.3 手取りで比べる習慣をつける

厚生年金保険への加入は将来の年金額に反映され、勤務先の健康保険では、要件を満たせば傷病手当金や出産手当金も受けられます。

保険料の負担だけでなく、こうした保障も含めて比較することが大切です。

給与明細は、改定後の勤務分が反映されたものを確認してください。住民税への影響には時間差があるため、直近の手取りに加え、翌年度の負担も見込んで家計を考えましょう。

5. まとめ

2026年度の最低賃金の答申額は、全国加重平均で1177円となりました。前年度との差額56円を年間2080時間に当てはめると、額面の給与は年11万6480円増える計算です。

ただし、実際の増収額は勤務先に適用される最低賃金や現在の時給、労働時間によって異なります。

また、短時間労働者の社会保険の賃金要件は、2025年6月の公布から3年以内に撤廃されることが決まっています。週の所定労働時間に加え、勤務先や雇用期間などの条件も確認し、税・社会保険料を差し引いた手取りと保障の両面から働き方を検討してください。

加藤 聖人
最低賃金が上がったときは、時給だけでなく、勤務時間と社会保険の加入条件を一緒に確認することが大切です。扶養の範囲で働いている方は、勤務先の社会保険と、配偶者の健康保険の扶養基準を分けて考えてください。改定後の勤務分が反映された給与明細で手取りを確かめ、今後の収入見込みとあわせて働き方を検討しましょう。

参考資料

加藤 聖人