9月は、夏の賞与の使い道をひととおり決め終える時期にあたります。手元に残った分をどこに置くかで、迷ったままの方もいます。
2024年に制度が大きく変わってから、非課税で投資できる口座を開いたという方は増えました。ただ、開いたところで止まっている方も少なくありません。理由をうかがうと、多くの場合は「非課税だと聞いたけれど、それが自分にとって何円分の話なのかを見たことがない」というところに行き着きます。
ご相談では、枠の大きさや対象になる商品までは調べたというお声を数多くいただきます。そこで手が止まるのは、制度の説明が「税がかからない」という言い方で終わっていて、金額に置き換わっていないからです。この記事では、50歳から毎月5万円を15年積み立てた場合の試算をたどりながら、増えた分に税がかからないという一点を、金額の形にしていきます。
なお、新NISAの制度の内容と、毎月5万円を15年運用した場合の試算に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 「新NISA」で押さえておきたい6つの決まりは、非課税の効き方とどうつながるのか
個人の資産づくりを後押しする目的で2014年に始まったNISA(ニーサ)は、2024年に制度が大幅に改正され、「新NISA」として新しくなりました。名前だけを見ると枠の話ばかりに見えますが、決まりの一つひとつは「増えた分をどう扱うか」につながっています。
50歳から毎月5万円を積み立てた場合に、利回りごとの到達額がどう分かれるのかは、【新NISA】毎月5万円を15年運用するといくら?50歳から始める利回り別シミュレーションでくわしく解説しています。
1.1 2024年に決まった6つの点を、増えた分の行き先という角度から並べ直す
新しくなった制度の主な特徴は、次の6点にまとめられます。
- 非課税で保有できる期間に上限がなくなりました。
- 「つみたて投資枠」と「成長投資枠」を同時に利用できます。
- 年間の投資上限額は、つみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円です。
- 生涯にわたる非課税保有限度額は合計1800万円で、そのうち成長投資枠は最大1200万円まで利用でき、売却すれば枠が復活します。
- つみたて投資枠では、「長期の積立・分散投資」に適していると国が認めた投資信託などが対象です。
- 成長投資枠では、上場株式や投資信託など、より幅広い商品に投資ができます。
この6点のうち、金額に直結するのは1つ目と4つ目です。持ち続けられる期間に区切りがないということは、増えた分を長く置いておけるということにあたります。1800万円という上限は、非課税で扱える増え分の土台がどこまでかを示しています。
投資というと、まとまった資金が要るという印象を持たれることもあります。ただ、最近では500円や1000円といった少額から始められる商品も増えました。この制度を通せば、そうした小さな金額からでも投資信託や株式の運用を始められます。
金額が小さいうちは、非課税であることの効き目も小さくなります。逆にいえば、続けて増え分が積み上がるほど、この決まりは金額として表れてきます。次の章からは、その増え分が実際にどれくらいの規模になるのかを見ていきます。
2. 50歳から毎月5万円を15年続けると、元本と増えた分はどう分かれるのか
ここでは、次の前提でこの制度を使って積立投資を行った場合に、どの程度の資産形成が見込めるのかを確かめます。
- 50歳から65歳までの15年間で老後の資金を準備する
- 毎月の積立金額は5万円とする
- 投資信託の利回りは、安定運用を想定して年1%~5%で試算する
2.1 想定利回り1%から5%までの到達額を、元本900万円と比べて確認
想定利回りごとの資産評価額は、元本900万円に対して次のようになります。
- 年1%の場合:970万円
- 年2%の場合:1047万円
- 年3%の場合:1131万円
- 年4%の場合:1223万円
- 年5%の場合:1324万円
15年で積み上げる元本は900万円です。評価額からこの900万円を引くと、増えた分は年1%で約70万円、年5%で約424万円という幅になります。同じ月5万円を続けても、増えた分だけを見れば6倍ほどの開きが出るということです。
非課税という決まりが働くのは、この増えた分に対してです。元本の900万円は、もともと自分が出したお金なので、税の対象にはなりません。つまり、制度の効き目の大きさは、70万円から424万円という幅のほうに連動します。
ただし、この幅は上向きだけに開くものではありません。投資には元本割れの可能性があり、期待できるリターンが高いほど値動きの幅も大きくなります。増えた分がゼロに近ければ、非課税であることの効果もそこで止まります。
3. 「3000万円」を15年で用意しようとすると、毎月の積立額はどこまで必要になるのか
老後に要る金額は人によって違いますが、ここでは目標を3000万円に置いて考えます。50歳から65歳までの15年でそこに届かせるには、毎月いくら積み立てることになるのかを確かめます。
3.1 想定利回り5%・15年という条件で、月4万円から8万円までの到達額を確認
毎月の積立額を変えたときの資産評価額は、次のとおりです。
- 月4万円の場合:1059万円
- 月5万円の場合:1324万円
- 月6万円の場合:1589万円
- 月7万円の場合:1854万円
- 月8万円の場合:2119万円
※想定利回りは年5%で計算
毎月8万円まで積み立てても、15年後の資産額は2119万円にとどまり、目標の3000万円には届きませんでした。ここから先、毎月の積立額をさらに引き上げるのは、家計への負担が重くなります。
加えて、利回りは約束されたものではありません。想定どおりに増えない年が続くことも考えに入れておく必要があります。
この結果が示しているのは、老後に向けた準備はなるべく早く始めたほうが、月々の負担を抑えたまま目標に近づけるということです。運用にあてられる期間が長いほど、増えた分が積み上がる余地も広がります。非課税という決まりの効き目も、この期間の長さに沿って大きくなっていきます。
4. 少額から始めて積立額を足していく形では、増えた分はどこまで伸びるのか
最初は小さく始めて、家計に余裕が出たところで積立額を上げたい、という考え方もあります。その場合は、収入の増え方に合わせて計画的に金額を足していく進め方が取れます。
たとえば、毎月1万円から始めて、5年ごとに2万円ずつ積立額を上げていくとします。この形で25年続けると、積み立てた元本は合計1500万円になります。
年利3%で運用を続けられた場合、最終的な資産総額は約1958万円となり、元本の約1.3倍にまで増える計算です。増えた分でいえば、約458万円がここに乗ることになります。
この進め方のよいところは、無理のない金額から入れるため、長く続けやすい点にあります。始めのうちは負担を抑え、収入が増えた時点で金額を足していくことで、暮らしへの影響を小さくしたまま資産を積み上げていくことが見込めます。
長い時間をかけた資産づくりで効いてくるのは、途中でやめずに続けられるかどうかです。まずはご自身ができる範囲の少額から始め、家計に余裕が出てきたら金額を見直す。この柔軟さのほうが、着実な積み上げにつながります。
5. 非課税であることの価値は、どんな形で手元に残るのか
ここまで、制度の決まりと、毎月5万円を15年続けた場合の試算、目標額から逆算した積立額、そして少額から積み増していく進め方を見てきました。
この制度の中心にあるのは、運用で増えた分に税がかからないという一点です。ただ、これは自動的にお金が増える仕組みではありません。増えた分が出て初めて、その増えた分が減らされずに残るという形で表れます。
試算が示していたとおり、同じ条件で始めても、想定利回りや毎月の積立額が違えば、最終的な資産額は大きく変わります。短い期間で大きな目標に届かせようとすると、毎月の負担が重くなります。長い目で取り組めば、家計に無理のない範囲で積み上げていけます。
そして、増えた分の大きさが変われば、非課税という決まりの効き目も変わります。次の章では、その効き目を金額に置き換えてみます。投資には元本割れの可能性があることを踏まえたうえで、自分のペースで続けられる形にしておくことが、資産づくりの土台になります。
毎月の金額をぐっと小さくした場合に、積み上がる形がどう変わるのかは、【新NISA】月5000円の積立は意味ない?老後不安を解消するシミュレーション結果にまとめています。
6. 【独自試算】増えた分に税がかからないという決まりは、金額にすると何円分になるのか
記事の試算では、増えた分が年1%で約70万円、年5%で約424万円という幅になりました。この増えた分が課税される口座で出た場合、いくらが差し引かれるのかを計算してみます。差し引かれない額が、そのまま非課税であることの価値にあたります。
前提条件
- 増えた分にかかる税率は20.315%として計算する(所得税・復興特別所得税・住民税を合わせた割合)
- 元本900万円・15年という前提は、記事の試算のまま使う
- 増えた分は、記事に出てきた評価額から元本900万円を引いた額とする
- 売買にかかる手数料や、保有している間にかかる費用は考えない
- ほかの口座での損益と通算する場合や、確定申告をする場合の扱いは考えない
- 税率も非課税の扱いも制度として定められたもので、今後変わる可能性がある。ここでの金額は目安として置く
①記事に出てきた増えた分に、20.315%をかけた場合の税額
- 年1%で増えた分70万円のとき、14万2205円
- 年2%で増えた分147万円のとき、約29万8631円
- 年3%で増えた分231万円のとき、約46万9277円
- 年4%で増えた分323万円のとき、約65万6175円
- 年5%で増えた分424万円のとき、86万1356円
②増えた分が1000万円まで積み上がった場合
- 1000万円×20.315%=203万1500円が、課税される口座であれば差し引かれる計算
- 手元に残るのは、1000万円-203万1500円=796万8500円
- この制度の枠の中で持っていれば、203万1500円は差し引かれずに残る
③②の203万1500円を、毎月5万円の積立に置き換えると
- 203万1500円÷5万円=40.63で、およそ40カ月分(3年4カ月分)の積立額にあたる
増えた分が70万円で終われば、非課税であることの価値は約14万2000円です。424万円まで伸びれば約86万1000円、1000万円まで積み上がれば約203万1000円になります。制度そのものは同じでも、金額として表れる大きさは、増えた分の大きさに沿って動くということです。いずれも上の前提で置いた目安であり、値動きによっては増えた分が出ないこともあります。税の扱いはご自身の所得や口座の区分で変わりますので、実際の計算は口座を開いている金融機関や税務署の窓口で確かめてください。
7. 【監修者コメント・村岸理美】20.315%という割合は、元本ではなく増えた分にだけ効く
今回の試算で最も注目していただきたいのは、20.315%という割合がかかる相手が、積み立てた元本ではなく増えた分だけだという点です。記事中の試算のように、元本900万円は同じでも、増えた分が70万円なのか424万円なのかで、差し引かれる額は14万2205円から86万1356円まで開きます。同じ制度を使っていても、効き目の大きさがこれだけ動くという関係を、まず押さえていただきたいところです。
適用の条件も添えておきます。試算で置いた203万1500円は、増えた分が1000万円に達し、その全額が課税される口座で生じた場合の金額です。生涯にわたる非課税保有限度額は1800万円と定められていて、これを超えて投じた分は課税される口座での運用になりますから、増えた分のすべてが非課税で扱われるとは限りません。20.315%という割合も税制として定められたもので、今後の改正で変わる可能性があります。CFPとして家計相談を受けるなかでも、この割合を固定されたものと受け止めたまま計画を立てているケースを見てきました。
ファイナンシャル・プランナーとしてお伝えしたいのは、非課税という言葉を「割引」ではなく「増えた分が減らされない」という形で受け取っていただきたいということです。増えなければ効き目は出ませんし、投資には元本割れの可能性もあります。ご自身が毎月いくらを何年続けられるのか、その数字を先に書き出してみましょう。そのうえで、税の扱いや枠の細かい条件については、口座を開いている金融機関や税務署の窓口で確認していただくことが大切です。


