16. 利益が出たときの税金だけでなく、損が出た年の扱いまで決めてから動かしたい。IFA橋本 優理が語る、費用・手続き・制度・時期の順に確かめる道すじ

50歳代は、仕事や事業で積み上げてきたお金が、使う予定の決まらないまとまった額として手元に残りはじめる時期です。前半でみたように、その年にいくらの所得があったかは、納める税金の額だけでなく、住民税が課されない世帯にあたるかどうかという判定にも関わってきます。保険代理店で約300組のライフプランニングに携わってきた立場から申し上げると、ご相談で最初にうかがうのは、どの商品なら増えるかではなく、その商品で利益が出た年と損が出た年に、それぞれ何を申告することになるのか、という順番です。増えたときの話は誰でも先に考えますが、決めきれなくなるのは、たいてい減ったときの扱いが分からないままだからです。相談の場では次のような声を耳にします。

16.1 運用に回したい資金はあるのに、税金の話になると手が止まってしまう

50歳代(ご相談者)
「長く仕事を続けてきて、手元にまとまった額の資金が残っています。このまま置いておくのはもったいない気がして、運用に回そうと考えているところです。ただ、投資の口座を開くところからで、何を用意すればいいのかも分かっていません。債券がよいという話も聞きますが、金利がこの先上がるか下がるか分からないと言われると、いま入るべきなのか、待つべきなのかを決めきれません。増えた分にどう税金がかかるのか、逆に減ってしまったときにはどう扱われるのかも、正直よく分かっていません。利息がまた利息を生んでいく形と、そうでない形とで何がどう違うのかも、一度きちんと整理したいと思っています」

相談の場でも、動かせる資金は用意できているのに、税金の扱いが分からないところで手が止まってしまうという方に数多くお会いします。

16.2 【IFA橋本 優理が回答】決めておきたいのは、増えたときではなく減った年の手続き

橋本 優理

投資の世界に確実な正解はありません。
金利についても、過去と将来を並べて見比べることができれば、今の金利が高いか安いかを判断できますが、現実はそうではありません。
まずは、提示されている利率を確認し、元本を割る場面はどんなときか、資産が動く幅はどれくらいかをある程度想定しておくことが大切です。
そのうえで、損が出た年に差し引きや繰越をするなら確定申告が必要になることも押さえておきましょう。

16.3 ポイント1:示された利率の裏にある、元本を割る場面とその幅を先に見る

最初に確かめていただくのは、パンフレットや説明資料に大きく書かれている利率や利回りが、何を引く前の数字なのかということです。同じ「年に何パーセント」という表記でも、そこから差し引かれるものは商品によってまったく違います。貯蓄性のある保険には、万一のときの保障を成り立たせるための費用が中に含まれていますし、契約から間もない時期に解約すると、それまで払い込んだ額を下回る形で戻ってくるのが一般的です。債券は、満期まで持てば決まった利息を受け取り、額面が戻ってくることを前提にした資産ですが、満期を待たずに手放す場合は、そのときの価格での売却になります。投資信託であれば、保有している間ずっとかかる費用があります。外貨で持つ区分であれば、円に戻すときの相場と、両替のたびにかかる手数料の分だけ、受け取る額が動きます。ここで見ていただきたいのは、費用が高いか安いかという評価ではなく、「どういうときに、どれくらいの幅で元本を割ることがあるのか」という一点です。増える幅だけを並べて比べると、どれも似たような数字に見えてきます。減る側の幅まで並べて初めて、その商品が自分の資金に合っているかどうかを判断できます。

16.4 ポイント2:損が出た年に差し引きや繰り越しをするなら、その年に確定申告が要る

次が、手続きの段取りです。投資の口座を開くには本人確認の書類が必要で、マイナンバーカードや運転免許証といった手元にあるもので進められますが、書類のやり取りを含めると、申し込んでから実際に使えるようになるまでには日数がかかります。ここまではどなたにも同じようにご案内する部分ですが、問題はその先です。損が出た年にだけ、手続きがもう一つ増えます。複数の口座で運用していて、片方で出た損をもう片方の利益と差し引きしたい場合や、その年に引ききれなかった損を翌年以降に持ち越したい場合は、金融機関から届く年間の取引報告を添えて、ご自身で確定申告をすることになります。損は、放っておいて自動的に取り戻せるものではなく、申告して初めて計算に入るということです。そして、この申告は手間が一つ増えるだけの話ではありません。申告をすると、その年の所得としてどこまで数えられるかが変わり、住民税が課されない世帯にあたるかどうかの判定や、公的な保険料の額、自治体の制度の対象になるかどうかにも跳ね返ることがあります。差し引きで戻ってくる税額より、判定が動いたことで失うもののほうが大きい、という向きに転ぶこともあり得ます。ですから、損が出た年にすぐ申告すると決めてしまわず、その年のほかの収入と合わせて、どちらが手元に多く残るのかを確かめてから判断していただくようにしています。

16.5 ポイント3:運用益に税金がかからない枠では、その差し引き自体ができない

あわせて知っておいていただきたいのが、運用で得た利益に税金がかからない制度の枠についてです。この枠は、増えた分をそのまま受け取れるという点でたしかに有利で、まとまった資金を長く置いておく先としては第一に検討する価値があります。ただし、税金がかからないということは、裏を返せば、その枠の中で出た損は税金の計算に登場しないということでもあります。つまり、この枠の中で損が出ても、ほかの口座で出た利益と差し引きすることはできませんし、翌年以降に持ち越すこともできません。ポイント2でお話しした、損が出た年の申告という選択肢が、この枠には初めから無いということです。保険で受け取るお金についても同じで、区分そのものが投資の利益とは別に扱われるため、投資の損と差し引きするという考え方が成り立ちません。ここを取り違えたまま、「どこで持っても損は取り戻せる」と思い込んでしまうと、あとで打つ手が無くなります。まとまった資金を分けて置くのであれば、差し引きできる区分とできない区分がどこで分かれているのかを、置く前に一度整理しておいてください。

16.6 ポイント4:利息を再び回す持ち方と、金利が動く要因を並べて時期を決める

最後が、いま動かすか、もう少し待つかという時期の判断です。ここで効いてくるのが、受け取った利息をそのまま使ってしまうのか、もう一度運用に回していくのかという違いです。利息を受け取るたびに手元に入る形は、使い道が決まっているお金には向いていますが、置いておく期間が長くなるほど、利息が次の利息を生んでいく形との差は開いていきます。10年、20年という単位で置いておける資金であれば、この差は無視できない大きさになります。もう一方の金利については、これから上がるか下がるかを言い当てることは誰にもできません。国の政策や物価の動き、海外の金利水準といった複数の要因で動くもので、待っていれば有利になるという保証はどこにもないからです。ですからご相談では、当てにいくのではなく、「いま示されている利率が、自分にとって受け入れられる水準かどうか」で判断していただくようにしています。受け入れられる水準であれば、待っている期間の分だけ、利息を再び回す効果を取り逃していることになります。逆に、その水準では動く気になれないのであれば、それは金利の予想ではなく、その商品が合っていないというサインとして受け止めたほうが確かです。

減ったときの扱いまで先に決めておくと、動かしたあとに迷う場面がぐっと減ります。これは一つの考え方であり、どの区分で持つのが適しているか、申告することでどこにどう影響するかは、その年の所得やほかに受け取っているお金、ご家族の状況によって異なります。まずは、いま手元にある資金のうち、何年先まで使う予定がない部分がどれくらいあるのかを書き出してみてください。そのうえで、口座の区分や申告の要否といった具体的な手続きについては、税務の専門家や金融機関の窓口で、ご自身の状況にあてはめて確認しながら進めることをおすすめします。

17. まとめにかえて

神戸市の基準では、ひとり暮らしで年金だけの場合は65歳以上で155万円以下、給与だけなら110万円以下が非課税の目安で、合計所得金額に置き換えると45万円が上限でした。株式の損失を申告して利益と差し引くと税は戻りますが、差し引いたあとに残る利益は判定に入ります。試算では、損失がその年の利益に届くかどうかで判定が動く向きが変わりました。まずは課税証明書で今の区分を確かめ、そのうえで申告の要否を税務署や市区町村の窓口で相談してみてください。

参考資料

橋本 優理