10. 入り直すたびに医療の保障が重なっていく60歳代。期限のある手続きから先に片づける整理の順番を、ファイナンシャルアドバイザー・長井 祐人が解説
60歳代は、医療の備えを見直す機会が続けて訪れる年代です。若いころに入った契約が満期を迎えたり、更新の案内が届いたり、公的な医療保険で自分が負担する割合が変わったりして、そのたびに何かを足してきたという方が少なくありません。前半でみたように、公的な制度の中には、条件に当てはまっていても自分から申し出なければ使えないものがあり、しかも申し出られる期間が決まっているものと、いつ申し出ても構わないものとが混ざっています。個人のお客様のご相談に応じてきて感じるのは、この年代で問題になりやすいのは備えが足りないことよりも、足していったものが重なったまま気づかれていないことのほうだ、ということです。重なった部分も保険料としては毎月出ていきますから、そのままにしておくと、使う場面の来ない保障にお金を払い続けることになります。相談の場では次のような声を耳にします。
10.1 医療の保障は一通り持っているのに、どこが重なっているのかが分からない

「会社員として働いていて、入院や通院に備える医療の保障と、がんに備える保障の両方に入っています。どちらも、入ったときには必要だと思って自分で決めたものです。
ただ、この年になって証券を並べてみると、同じような場面で受け取れることになっている部分があるように見えます。がんについてはかなり手厚めに持っている状態で、そのぶん保険料も毎月出ていきます。これから先のことを考えると、がん以外の病気で入院したり通院したりすることのほうが起こりやすいのではないかとも思うのです。老後の医療費のことも不安なので保険料は下げたいのですが、どちらかに絞ってよいのか、絞ってしまって大丈夫なのかが、自分では判断できません」
相談の場でも、保障が重なっていること自体には気づいているのに、どこから手を付ければよいのかが決まらないという方に数多くお会いします。
10.2 【ファイナンシャルアドバイザー・長井 祐人が回答】重なりを削る前に、申し出ないと使えないものを数える
高齢になるにつれて、加入している保険の保障が重複しているケースは少なくありません。
保障が重複していると、その分保険料の負担が増え、必要以上の支出に繋がる可能性があります。
まずは現在どのような保障があるのか、保険内容は重複していないか、保険料払込免除特約が付加されていないかを確認し、現在契約している保険を一覧にしてみましょう。
重複している保障や不要な保障があった場合は、現在利用できる公的制度の内容を確認したうえで、見直しを検討しましょう。
また、保障額が現在の生活状況に合っているか、現状の健康状態も併せて確認することがとても大切です。
10.3 ポイント1:払っている保険料を合計し、払い込みが免除になる条件が付いていないかを確かめる
最初にしていただくのは、契約ごとに引き落とされている保険料を合計することです。当たり前のようですが、これができている方はあまり多くありません。契約した時期も引き落としの日も別々ですから、家計の中では別の支出として流れていき、合計の姿を見る機会がないのです。まずは年額に直して、横に並べてください。合計が見えると、どこを軽くしたいのかという話が具体的になります。そのうえで確かめていただきたいのが、それぞれの契約の中に、一定の状態になったらその後の保険料を払わなくてよくなる条件が付いていないか、という点です。この扱いは、条件に当てはまれば自動的に始まるものではなく、こちらから申し出て、状態を証明して初めて適用されるのが一般的です。しかも、申し出られる期間が決められていることがあります。つまり、すでに付いているのに気づかれず、そのまま払い続けているという事態が起こりうるということです。証券の特約の欄に何が並んでいるかを、この機会に一度読んでおいてください。これは期限のある側の手続きなので、後回しにしないほうがよい部類に入ります。
10.4 ポイント2:保障の中身を一枚に並べ、いまの健康状態で入り直せるかを先に見る
次に、中身を場面ごとに並べ替えます。証券をすべて出して、入院したとき、通院したとき、ある病気だと診断されたとき、手術を受けたときという場面を縦に書き、それぞれの場面でどの契約から何が出るのかを横に書いていきます。同じ場面に二つ以上が並ぶところが、重なっている部分です。ここまで見えると、削れそうな場所は自分でも分かります。ただ、分かった時点ですぐに解約しないでください。順番があります。新しく入り直すには、健康状態についての告知が必要になります。いまの状態によっては、希望する内容では入れないことも、条件が付くこともあります。ですから、先に入れることを確かめ、新しい契約が始まってから古いほうを解約する。この順番を守らないと、間に保障のない期間ができてしまいます。そして、この確認そのものにも時間の要素があります。年齢が上がるほど、また持病が増えるほど、選べる範囲は狭くなっていきます。いつでもできると思われがちな見直しですが、実際には早いほうが選択肢が多い側の手続きです。
10.5 ポイント3:一つの病気に厚い形と、広い病気に薄い形の、どちらに寄っているかを見る
重なりが見えてくると、多くの場合、特定の病気に対する備えだけが分厚くなっています。これは判断を誤ったからではありません。その病気が身近に感じられた時期に、そのつど足してきた結果です。ただ、年代が進むにつれて、備えておきたい病気の幅のほうは広がっていきます。いまは、命に関わる代表的な三つの病気をまとめて対象にする形や、それに慢性的な病気を加えて六つの範囲にする形、入院や通院を病名で区切らずに広く対象にする形など、幅で組み立てる考え方も選べるようになりました。重なりを指摘されると、保障を削られるように感じる方がいらっしゃいますが、実際には削るというより置き換えです。一つの病気に厚く積んでいた部分を薄くして、同じくらいの保険料で対象の幅を広げる。そういう組み替え方ができる場合があります。判断の目安になるのは、自分が心配しているのは「その病気になること」なのか、「病気で働けなくなること」なのか、という点です。前者なら厚みが、後者なら幅と、先ほどの払い込みの免除が効いてきます。
10.6 ポイント4:公的な制度で戻る分を数え、期限のないものは持ち帰ってから決める
最後に、いちばん見落とされやすいものを数えます。公的な医療保険には、同じ月にかかった自己負担が一定の額を超えたとき、超えた分があとから戻ってくるしくみがあります。高額療養費制度と呼ばれるものです。これも自分から申請しなければ戻ってこず、申請できる期間が決まっている側の制度です。この土台があることを前提にすると、民間の保障で用意しておきたい額は、かかった医療費の総額ではなく、公的なしくみでは戻ってこない部分に絞られます。差額のベッド代や、通院のための交通費、働けない間に減る収入といった部分です。土台を先に数えてから、上乗せをどれだけ持つかを決める。この順番にすると、手厚すぎたと感じていた部分がなぜ手厚すぎたのかも、はっきりします。そして、ここまで確かめたら、その場で結論を出さないでください。提案の資料を持ち帰り、自分がどうしたいのかを言葉にしてから、次の機会に決めれば十分です。期限のある手続きは先に片づける、期限のないものは持ち帰る。この分け方をしておけば、急いで決めたせいで後悔する、ということが起こりにくくなります。
重なっているとわかった瞬間に解約へ向かいたくなりますが、順番を先に決めておくと、動かしてよい場所と手を付けてはいけない場所がはっきりします。これは一つの考え方であり、公的な制度で戻ってくる額や、入り直せるかどうか、どの組み立てが向いているかは、収入や健康状態、加入している契約の条件によって異なります。まずは手元の保険証券をすべて一か所に集め、年額の保険料と、場面ごとに何が出るのかを一枚に書き出すところから始めてみてください。そのうえで、申請の期限がある制度や特約の扱いについては、加入している保険会社や公的な窓口、専門家に確認しながら進めることをおすすめします。
11. まとめにかえて
申請が要る制度が9つも並ぶと、どこから手をつけるかで迷います。ただ、分け方を一つ決めるだけで、迷う範囲はかなり狭まります。日付が決まっているものと、いつ動いても同じものに分ける。それだけで、いま急ぐ必要があるのはどれなのかがはっきりします。
加給年金は配偶者が65歳になるまでという終わりがあり、雇用保険の3つは離職日と就職日、それに65歳の誕生日が金額を左右します。合算療養費には2年という時効があり、臨時給付金には回ごとの募集期間があります。一方で、高額療養費や高額介護サービス費のように、必要になった月ごとに動けばよいものもあります。手元のカレンダーに近い日付から書き込んでいけば、順番は自然に決まります。制度の当てはめは個々の事情で変わりますので、要件や必要な書類については、年金事務所やハローワーク、お住まいの市区町村の窓口で早めに確認していただくのが確かです。
参考資料
- 【2026年最新】60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金一覧!年金上乗せ・雇用保険・医療介護の申請漏れを防ぐ完全ガイド!「知っておきたい」お金の仕組みを徹底解説
- 日本年金機構「初めて老齢年金を請求するとき」年金請求書(国民年金・厚生年金保険 老齢給付)様式第101号
- 日本年金機構「か行 加給年金額」
- 日本年金機構「加給年金額と振替加算」
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度について」
- 日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「Q&A~高年齢雇用継続給付~」
- 厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
- 日本年金機構「年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整」
- 厚生労働省「再就職手当のご案内」
- 厚生労働省「離職されたみなさまへ<高年齢求職者給付金のご案内>」
- 国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」
- 厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金額をお知らせする『年金額改定通知書』、『年金振込通知書』の発送を行います」
長井 祐人
