1. 16%高で始まり、11,810円で天井を打った1カ月
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出所:各種資料をもとに筆者作成
株価の道筋から確かめる。直近1カ月の起点は8月7日の終値9,170円で、これがこの1カ月で最も低い終値でもある。
そこから流れが一変した。翌営業日の8月10日の終値は10,670円。前営業日から16%高い水準へ一気に切り上がっている。この期間で最も大きな1日の変化だ。
この急伸は、2027年3月期1Qの内容が意識された結果である可能性が高い。もっとも株価は決算だけで動くものではなく、相場全体の地合いも重なる。単一の要因に絞り込むことはできない。
その後は10,500円から11,300円あたりを行き来し、8月31日に11,810円へ。この1カ月で最も高い終値である。ところが9月に入ると4営業日続けて下げ、9月4日には10,140円まで押し戻された。8月31日の水準からは14%の下落幅にあたる。
そして9月7日の終値は10,980円。前営業日から8%高い水準へ切り返した。起点の9,170円と比べれば+19.7%で、1カ月では2割の上昇である。
この日のPER(株価収益率)は32.05倍、PBR(株価純資産倍率)は4.72倍だった。前営業日はそれぞれ29.60倍・4.36倍で、1日でバリュエーションが一段切り上がっている。精密機器という業種のなかでは高い水準といえる。
2. 営業利益+88.8%。1Qだけで通期予想の4割弱を稼いだ
株価を動かした中身に入る。2027年3月期1Qは、売上高990億円(前年同期比+28.5%)、営業利益154億円(同+88.8%)、経常利益164億円(同+94.3%)、親会社株主に帰属する四半期純利益111億円(同+76.3%)、EPS(1株当たり利益)136.99円だった。売上が3割弱伸びる間に、営業利益は9割近く伸びている。
何が伸びたのか。会社の説明によると、エモーショナルバリューソリューション事業でウオッチ事業が国内・海外とも売上高を大きく伸ばし、和光事業も好調に推移した。デバイスソリューション事業の売上高も前年同期を大きく上回り、システムソリューション事業も前年同期を上回っている。営業利益はエモーショナルバリューソリューション事業が牽引し、デバイスソリューション事業も増益となったことで、前年同期から72億円増加した。
地域別の内訳も出ている。国内売上高は495億円(同+21.2%)、海外売上高は495億円(同+36.7%)で、海外売上高割合はちょうど50.0%。国内と海外が同額で並ぶ節目に到達した。1Qの平均為替レートは1米ドル159.6円、1ユーロ185.4円である。
コストも増えている。販売費及び一般管理費は323億円(同+17.4%)で、広告宣伝販促費や人件費の増加が押し上げた。それでも販管費の伸びが売上の伸びを下回ったため、利益は増幅して残った。営業外損益も持分法による投資利益の増加などで前年同期から7億円改善している。
通期予想は売上高3,750億円(前期比+11.7%)、営業利益410億円(同+32.8%)、経常利益415億円(同+25.3%)、当期純利益280億円(同+27.4%)、EPS342.5円。1Qの進捗率は売上高で26.4%だが、営業利益では37.6%、当期純利益では40.0%に達する。利益は年度の前半に寄っているか、あるいは通期予想に上積みの余地があるか、どちらかの姿を示していると読み取れる。
3. 連結営業利益率9.2%が業種中央値とちょうど重なるという事実
1期前に戻る。2026年3月期通期は、売上高3,356億円(前期比+10.2%)、営業利益308億円(同+45.4%)、経常利益331億円(同+59.5%)、当期純利益219億円(同+65.1%)だった。この期も大幅な増益である。
会社の説明では、国内向けのウオッチ事業と和光事業が堅調な個人消費とインバウンド需要を背景に売上を大きく伸ばし、デバイスソリューション事業は小型電池を中心に伸長した。システムソリューション事業も多角化やストックビジネス拡大への取組みにより前年度を上回っている。国内売上高1,757億円(同+5.7%)、海外売上高1,598億円(同+15.4%)で、海外比率は47.6%だった。平均レートは1米ドル150.8円、1ユーロ174.8円である。
損益の下の方にも動きがある。販管費は前年度比85億円の増加で、うち広告宣伝販促費は10%以上増えた。特別利益として固定資産売却益5億円、特別損失として減損損失や事業構造改善費用など合わせて18億円を計上している。増益の年に構造改善費用を出しておくのは、余裕のある期に前倒しで処理する動きと読み取れる。
ここで一つ、数字の座り方を確かめておきたい。2026年3月期の連結営業利益率は9.2%である。精密機器に分類される38社の営業利益率の中央値は9.2%。ぴったり重なる。ROEの中央値9.2%に対して、この会社の資本効率も似た並びにある。
老舗のブランドを持つ会社と聞けば、高い利益率を思い浮かべる人も多いのではないだろうか。ところが連結の数字は、業種のちょうど真ん中に座っている。ブランドの強さは売上の大きさや価格の維持力に現れても、連結の利益率には必ずしもそのまま出ない。この会社の場合、利益率の異なる複数の事業を抱えていることが効いている。株価が1カ月で2割動く一方で、収益性の水準そのものは業種の標準的な位置にある。この二つは矛盾せず、同時に成立している。
4. 筆者コメント
印象的なのは、増収率と増益率の開き方だ。売上が3割弱伸びる間に、営業利益は9割近く伸びた。この開きの正体は営業レバレッジである。
精密機器38社の粗利率の中央値は42.7%。この業種はもともと固定費を先に置いてから売上を積む構造にある。売上が伸びた年には利益が増幅して届き、伸びなかった年には固定費が利益を削る。増益率の大きさそのものは、必ずしも収益力の恒久的な改善を意味しない。
もう一つ効いているのが為替の前提だ。円安の水準が前期より進んだ局面では、同じ数量でも円建ての売上と利益は膨らむ。裏を返せば、前提が戻れば同じ構造が逆に働く。
だからこの決算は、事業の強さと前提の追い風が混ざった数字として読むのが妥当だろう。次の四半期では、販管費の伸び率が売上の伸び率をまた下回るかどうかに目を向けたい。そこがレバレッジの持続性を測る物差しになる。