5. 売上の65%が生む利益。3事業の温度差はどこから来るのか
ここからは、連結の数字を事業ごとに割ってみる。2026年3月期のセグメント別の姿は次のとおりだ。
エモーショナルバリューソリューション事業は売上高2,180億円で構成比64.9%、営業利益285億円、営業利益率13.1%。売上は前期比+11.1%、営業利益は同+28.7%と伸びた。ウオッチ事業と和光事業を抱える、この会社の顔にあたる部分である。
デバイスソリューション事業は売上高598億円で構成比17.8%、営業利益38億円、営業利益率6.4%。売上は前期比+7.1%、営業利益は同+37.4%と伸び率は高いが、利益率の水準は低い。この事業では減損損失9億円も計上されている。
システムソリューション事業は売上高550億円で構成比16.4%、営業利益55億円、営業利益率10.0%。売上は前期比+9.5%、営業利益は同+6.0%で、3事業のなかでは最も伸びが緩やかだった。のれん償却額9億円が乗っており、M&Aを織り込んで組み立てた事業であることがうかがえる。残りの「その他」は売上高22億円、営業利益2億円と小さい。
並べてみると、主柱の位置は疑いの余地がない。エモーショナルバリューソリューション事業だけで営業利益285億円。連結の営業利益308億円と並べれば、利益の重心がどこにあるかは明白だ。
そして「連結営業利益率9.2%」という数字の正体もここにある。13.1%の事業、10.0%の事業、6.4%の事業を、64.9%対16.4%対17.8%の比率で抱えている。この混合から全社共通の費用が差し引かれた結果として、連結の9.2%が出てくる。業種の中央値と重なって見えるのは、単一の収益構造がそこにあるからではない。
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出所:セイコーグループ株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成
6. 海外売上比率50.0%と自己資本比率45.8%。成長の資金はどこから来ているのか
成長の中身をもう一段見ておく。海外売上高の割合は2026年3月期の47.6%から、2027年3月期1Qで50.0%に届いた。1年前は国内が過半を占めていた会社が、四半期ベースでは国内と海外が同じ重さになったということだ。
これは追い風でもあり、感応度の上昇でもある。海外比率が5割に達すれば、為替と海外景気の変動が連結業績にそのまま乗る。前期の平均レートと1Qの平均レートを比べれば、円安方向に進んだぶんが円建ての数字を押し上げたことになる。会社の説明でも、前期の営業外収支は円相場の大幅な変動による為替差益の計上等により改善したとされている。
資金の出どころも確かめておきたい。2026年3月期の営業CF(営業活動によるキャッシュフロー)は367億円、投資CFは▲147億円、財務CFは▲204億円だった。営業で稼いだ現金で投資を賄い、残りを借入の返済や配当に充てている。外部から資金を引いて成長させている姿ではない。
一方で資本構成は業種のなかでは軽くない。2026年3月期末の自己資本比率は45.8%、2027年3月期1Q末は46.7%である。精密機器38社の自己資本比率の中央値は68.4%で、そこから20ポイント以上下にいる。
ただ、自己資本比率が低いことをそのまま財務の弱さと読むのは早い。この会社は営業CFで投資を賄えており、財務CFはマイナスで推移している。負債を使いながら資本効率を確保する設計とも受け取れる。財務の安全性を評価するなら、自己資本比率1本ではなく、流動比率や有利子負債の水準、キャッシュフローの安定性まで含めて見る必要がある。
還元の姿も添えておく。2027年3月期の予想年間配当は1株105円で、2026年3月期の実績を株式分割の影響で調整した82.5円から増える見込みだ。予想EPSに対する配当性向は3割程度で、精密機器38社の中央値35.8%に近い水準にある。派手ではないが、業種の標準からは外れていない。
7. 筆者コメント
セグメント資産と営業利益を同時に並べると、この会社の設計が見えてくる。
デバイスソリューション事業のセグメント資産は806億円。この資産が生む営業利益は、資産に対して5%に届かない。システムソリューション事業は資産481億円で11%台、エモーショナルバリューソリューション事業は16%台である。売上の構成比と、資産の重さは同じ順番で並んでいない。
デバイスは装置産業型の性格が強い。減価償却費34億円に対して設備投資26億円を投じており、稼働率が利益を左右する構造だ。売上構成比では2割に届かない事業が、資産では相応の重さを占めている。
ここに、この銘柄を読むときの落とし穴がある。時計とインバウンドの物語で説明を済ませると、資本が重い部分を見落とす。前期は減損損失も出ていた。景気が下を向いた局面で先に痛むのは、利益率の低い装置型の事業だ。
連結の増益率だけを追うのではなく、事業別の資産と利益をセットで並べる。この癖をつけておくことを、決算資料の読み方としておすすめしたい。
参考資料
8.1 免責事項
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石津 大希