複数の証券会社で株式投資をしている会社員の中には、確定申告のたびに「今年は申告が必要なのか」「口座ごとの利益や損失は、どう数えればいいのか」と迷う人が少なくありません。
証券会社ごとに源泉徴収される特定口座は、実は口座同士の損益が自動的に相殺されるわけではありません。他の口座と損益を通算したいなら、確定申告という手続きを自分で行う必要があります。
また、株で損失が出た年ほど、確定申告をした方が得になるケースがあることは、あまり知られていません。
この記事では、国税庁の一次資料と確定申告の実際の統計データをもとに、確定申告が必要になるライン、複数口座の数え方、そして具体的な申告のやり方まで整理します。
1. 株式投資の利益・損失、そもそも確定申告が必要なのはどんなとき?
まず、口座の種類によって申告の要否がどう変わるのか、基本を整理しておきます。
1.1 特定口座(源泉徴収あり)は原則申告不要
特定口座で源泉徴収を選択している場合、上場株式等を譲渡するたびに、譲渡益に相当する金額に15.315%(他に住民税5%)の税率を乗じた所得税および復興特別所得税が源泉徴収されます。
この口座内だけで手続きが完結するため、原則として確定申告は不要です。
1.2 源泉徴収なしの口座・一般口座は「20万円」がライン
一方、源泉徴収を選択していない特定口座や一般口座で得た利益は、証券会社が損益を計算はしてくれるものの、税金は源泉徴収されません。
給与を1か所から受けている給与所得者の場合、給与所得・退職所得を除く各種所得の合計額が20万円を超えると、確定申告が必要になります。
NISA口座内の譲渡益・配当は非課税のため、そもそも申告の対象に含まれません。単元未満株や成長投資枠の基本的な仕組みは、株式投資の始め方を整理した記事で解説しています。
2. 複数の証券口座があると見落としやすい「口座ごと」の壁
ここからは、意外と知られていない実務の落とし穴を掘り下げます。まずは、複数の証券会社を使っている人が誤解しやすいポイントからです。
2.1 源泉徴収口座は「口座ごと」に完結する仕組み
国税庁のタックスアンサーには、源泉徴収口座内の上場株式等の譲渡所得について「口座ごとに、申告するまたは申告不要とすることの選択をすることができます」と明記されています。
つまり、A証券とB証券のどちらも源泉徴収ありの特定口座であっても、それぞれの口座は独立して扱われる仕組みになっています。
2.2 他の口座と損益を相殺したいなら、確定申告が必要
同じページには、こう続きます。「源泉徴収口座内の上場株式等の譲渡による所得について、他の口座の上場株式等の譲渡損益と相殺する場合...には、確定申告をする必要があります」。
A証券で利益、B証券で損失が出ていても、放っておけば口座同士の損益は自動的には相殺されません。相殺(損益通算)したい場合は、自分で確定申告をする必要があります。
2.3 【口座の組み合わせ別・申告要否】
源泉徴収ありの口座のケース
- 1社のみで利益:原則不要
- 複数社で相殺したい:必要
源泉徴収なし・一般口座のケース
- 利益の合計が20万円超:必要
- NISA口座のみ:対象外
例えば、源泉徴収なしの特定口座で12万円、一般口座で10万円の利益が出た場合、合計は22万円になります。
1社だけで見れば20万円以下でも、合計すれば20万円を超えるため、申告が必要になります。
3. 【編集者の視点】
「特定口座におまかせしているから安心」という考え方は、1社だけを使っている場合には正しいのですが、複数の証券会社を使い始めた瞬間に注意が必要になります。
証券会社は他社の口座の状況を知りません。合算や相殺の判断は、投資家自身が確定申告という形で行う必要があります。
実務上の防衛策としては、年末が近づいたら、使っているすべての証券会社の特定口座年間取引報告書を並べて、口座ごとの損益をリストアップしておくことです。
合計が20万円を超えそうか、あるいは損失を相殺できそうかは、この時点である程度見通せます。判断に迷う場合は、確定申告の時期を待たずに、最寄りの税務署や国税局電話相談センターに相談しておくと安心です。
見落としやすいのは、NISA口座の扱いです。NISA口座内の取引はそもそも合算の対象外なので、損益をリストアップする際は、特定口座・一般口座だけを対象に絞り込む必要があります。
また、源泉徴収の有無は年の途中で変更できず、変更するなら年内に手続きを済ませておく必要があります。翌年分から扱いを見直したい場合は、証券会社ごとの設定を早めに確認しておくと安心です。
4. 損失が出た年こそ、確定申告した方が得になる理由
次に、確定申告の実際の統計データから見えてくる、意外な傾向を紹介します。まとまった資金で一括投資する場合の「20万円の壁」については、100万円からの株式投資を扱った記事で試算していますので、ここでは複数口座と損失のケースに絞ります。
4.1 「有所得者は増えているのに、繰越控除の利用者は減っている」
国税庁の確定申告状況データによると、株式等の譲渡所得の申告人員は、令和5年分115万人から令和6年分118万人に増えました。
このうち、実際に利益が出た人(有所得人員)は65万人から74万人へと大きく伸びています。
ところが、譲渡損失を翌年以降に繰り越した人は、令和5年分48万人から令和6年分41万人へと、逆に減っています。
4.2 【申告人員の内訳・2年分の比較】
令和5年分の内訳
- 令和5年分の申告人員:115万人
- 令和5年分の有所得人員:65万人
- 令和5年分の損失繰越人員:48万人
令和6年分の内訳
- 令和6年分の申告人員:118万人
- 令和6年分の有所得人員:74万人
- 令和6年分の損失繰越人員:41万人
有所得人員は1年で約13.8%増えた一方、損失繰越人員は約14.6%減っています。
株で利益が出た人が増えているのは自然な流れですが、損失を確定申告で繰り越している人まで減っているのは、少し気になる動きです。
4.3 損益通算の具体的な効果を試算する
損失が出た年に確定申告をすると、実際どのくらいの効果があるのでしょうか。
例えば、A証券(源泉徴収あり)で30万円の利益が出て、6万945円の税金が源泉徴収されていたとします。
同じ年にB証券で40万円の損失が出ていた場合、確定申告で損益通算をすると、利益と損失は相殺され、課税対象の所得はゼロになります。
源泉徴収されていた6万945円は、確定申告によって全額還付される計算です。相殺しきれなかった10万円分の損失は、翌年以降3年間、繰り越すこともできます。
5. 【編集者の視点】
損をした年に「今年は税金と関係ないから」と確定申告を後回しにしてしまう人は、実は少なくありません。
しかし源泉徴収ありの口座で利益が出て税金を天引きされている以上、損失と相殺する権利を使わなければ、天引きされた税金は戻ってきません。
繰越控除の適用を受けるには、損失が生じた年だけでなく、翌年以降も連続して確定申告書を提出し続ける必要がある点にも注意が必要です。
年の途中で「今年は損が出そうだ」と分かった時点で、年間の損益を一度整理し、確定申告が必要になりそうか当たりをつけておくことをおすすめします。
繰越控除を使っている途中で確定申告をうっかり忘れると、その年で権利が途切れてしまい、それまで積み上げてきた損失が使えなくなってしまう点も見落とされがちです。
損失が出た年の申告は還付を目的とした手続きのため、通常の申告期間より前の1月から提出できます。忘れないうちに早めに済ませておく方が、結果的に手間が少なくて済みます。
6. 「事前準備」を年内に済ませておくべき理由
確定申告そのものは翌年に行いますが、準備の一部は年内に済ませておく必要があります。
6.1 マイナポータル連携には証券会社ごとの期限がある
国税庁の確定申告特集ページでは、マイナンバーカードを使ったマイナポータル連携について案内されています。
この連携を行うと、特定口座等の情報を一括で取得し、確定申告書に金額を自動入力できます。
ただし、連携を使うには、特定口座年間取引報告書の電子交付申請という事前準備が必要です。国税庁の案内では「一部の証券会社等では申告する年分の年末までに行う必要がある」とされています。
つまり、確定申告の準備を「年明けの申告シーズンに入ってから」始めようとすると、証券会社によっては、その年末の申請期限をすでに過ぎてしまっている可能性があります。
証券会社からの案内メールやマイページのお知らせで、電子交付申請の受付期限が告知されていることが多いため、年末が近づいたタイミングで一度確認しておくと安心です。
7. 実際の申告書の組み立て方——必要書類とe-Taxでの入力
最後に、実際に確定申告書を作る際の具体的な流れを整理します。
7.1 必要になる主な書類
株式の譲渡・配当を申告する場合、証券会社から送られる特定口座年間取引報告書が基本の書類になります。
複数の証券会社を使っている場合は、すべての口座の年間取引報告書を用意し、口座ごとの損益を合算します。
配当を申告する場合は、確定申告書等作成コーナーの「配当集計フォーム」を使うと、複数の配当をまとめて入力できて便利です。
7.2 スマホ・e-Taxでの提出が基本の流れに
国税庁は近年、確定申告書等作成コーナーでの入力を案内の中心に据えています。画面の案内に沿って金額を入力すれば、必要な明細書も自動的に作成されます。
申告書の提出自体は、原則として翌年2月16日ごろから3月15日ごろまでの期間に行います。3月15日が土日にあたる年は、翌平日まで期限が延びます。
ただし、還付を受けるための申告(損失の繰越控除など)は、この期間を待たずに翌年1月から提出することができます。
8. 【編集者の視点】
確定申告と聞くと、税務署の窓口に並ぶイメージを持つ人がまだ多いのですが、株式の譲渡・配当の申告は、スマホとマイナンバーカードだけで完結できるよう整備が進んでいます。
実務上つまずきやすいのは、書類の「取りこぼし」です。複数の証券会社を使っている場合、1社分の年間取引報告書だけを見て申告してしまうと、他社の損益が反映されず、正しい税額にならないことがあります。
申告を始める前に、その年に取引したすべての証券会社をリストアップし、年間取引報告書がそろっているかを確認する一手間が、後からの修正申告を防ぎます。
入力方法に迷った場合は、確定申告書等作成コーナーのマニュアルやチャットボット、国税局電話相談センターといった公的な窓口を頼ってください。
配当を複数の証券会社から受け取っている場合も同様です。「配当集計フォーム」を使って一度にまとめて入力しておくと、後から支払通知書を1枚ずつ探し直す手間が省けます。
マイナポータル連携を使わない場合でも、特定口座年間取引報告書のxmlデータを読み込む方法が用意されているため、紙の書類を見ながら数字を手入力する必要は必ずしもありません。
※本記事は、編集部が国税庁が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
9. まとめ
- 特定口座(源泉徴収あり)は原則申告不要ですが、源泉徴収なしの口座や一般口座は、給与所得者の場合20万円を超えると申告が必要です。
- 複数の証券口座を持っている場合、口座同士の損益は自動的には相殺されません。相殺したいときは確定申告が必要です。
- 損失が出た年こそ、確定申告で損益通算や繰越控除を使うと、源泉徴収された税金が還付される可能性があります。
- マイナポータル連携などの事前準備は、証券会社によって年内が期限になることがあります。
株式投資の確定申告は、利益が出たときだけ考えればいい手続きではありません。複数の口座を使い分けるほど、また損失が出た年ほど、申告することの意味は大きくなります。
まずは自分が使っている証券口座の種類と数を洗い出し、年末の時点で年間の損益をざっくり整理しておくことから始めてみてください。判断に迷う点があれば、確定申告の時期を待たずに、税務署や国税局電話相談センターに相談することをおすすめします。
10. よくある質問
10.1 Q. NISA口座で出た損失は、確定申告で他の口座の利益と相殺できますか?
A. できません。NISA口座で生じた譲渡損失は税務上ないものとみなされるため、特定口座や一般口座の利益・配当と損益通算することはできません。
10.2 Q. 株の取得費や手数料は、確定申告で経費にできますか?
A. 譲渡所得の計算では、取得費と委託手数料等を譲渡価額から差し引くことができます。証券会社の特定口座年間取引報告書には、この計算がすでに反映されています。
10.3 Q. 確定申告の期限を過ぎてしまったらどうなりますか?
A. 期限後でも申告書の提出自体は可能です。ただし加算税などが課される場合があるため、気づいた時点で早めに税務署に相談することをおすすめします。
10.4 Q. 特定口座(源泉徴収あり)を使っていても、確定申告した方がいいのはどんな時ですか?
A. 他の口座の損失と相殺したいとき、複数口座の損益を合算して繰越控除を使いたいときなどです。源泉徴収された税金が還付される可能性があります。自分の口座がどのパターンに当てはまるか迷う場合は、年末の時点で口座ごとの損益を一覧にしておくと、申告すべきかどうかの判断がしやすくなります。
参考資料
- 国税庁「No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人」(令和7年4月1日現在法令等)
- 国税庁「No.1476 特定口座制度」(令和7年4月1日現在法令等)
- 国税庁「No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」(令和7年4月1日現在法令等)
- 国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」(令和7年4月1日現在法令等)
- 国税庁「令和6年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」(令和7年5月公表)
- 国税庁「株式の売却をした方や配当等を受け取った方へ」(令和7年分確定申告特集)
LIMO編集部ウェルスマネジメント班
