お盆や秋の連休の帰省をきっかけに、離れて暮らす親の衰えに気づいたという方は少なくないのではないでしょうか。
実際、老人ホーム紹介サービスを手がける株式会社LIFULL seniorの調査では、お盆休み中を100%とした場合、その翌々週には老人ホームへの問い合わせ件数が128.8%、約3割も増えるというデータがあります。
そんな中、厚生労働省が2026年8月31日に公表した最新の「令和7(2025)年雇用動向調査結果の概況」は、仕事と介護の両立が限界に達し、志半ばで職場を去る労働者が後を絶たない「介護離職」の深刻な実態を改めて突きつけました。
退職直後に多くの人を苦しめるのが「経済的負担」です。
無収入になる一方で、健康保険は任意継続を選ぶと在職中に会社と折半していた保険料分がなくなり実質2倍の負担になり、年金も厚生年金から「国民年金」への切り替えにより、収入がなくなっても毎月定額の保険料(令和8年度は月額17920円)を納める義務が生じるからです。
しかし、あまり知られていませんが、「やむを得ない理由」による介護離職は、ハローワークの判定により雇用保険上の「特定理由離職者」に区分され、国民健康保険料や国民年金保険料の大幅な軽減・免除を受けられる救済措置が用意されています。
本稿では、最新統計が示す介護離職の実態をもとに、介護離職者が知っておきたい「社会保険料を劇的に抑える軽減制度」の仕組みと、具体的な申請手続きを解説します。
1. 厚労省統計が示す「50代後半」に忍び寄る介護離職の危機
まず、最新の統計から、介護離職がどの世代に集中しているのかを確認します。
厚生労働省「令和7(2025)年雇用動向調査結果の概況」によると、2025年1年間の離職者数は全体で705万2600人でした。
このうち、転職や独立など個人的な理由で離職した人の割合は全体の74.3%(男性70.3%、女性78.0%)にのぼります。
ここで注目したいのが、個人的理由の中でも「介護・看護」を直接の原因として離職した人の割合です。
離職者全体に占める介護・看護理由の割合は0.9%(男性0.5%、女性1.2%)にとどまりますが、年齢階級別・男女別に見ると、特定の世代・性別に危機が集中していることがわかります。
1.1 では、年代別・男女別の内訳は?
- 45~49歳:女性2.0%/男性0.7%
- 50~54歳:女性1.7%/男性1.5%
- 55~59歳:女性4.5%/男性0.9%
- 60~64歳:女性2.3%/男性0.3%
とりわけ「55~59歳」では女性が4.5%であるのに対し男性は0.9%と、女性の割合が男性の5倍近くにのぼります。
同年代の女性離職者のうち実に22人に1人が、介護・看護のために退職を余儀なくされている計算になり、他の年代や男性と比べても、この世代の女性に危機が集中していることが際立ちます。
50代後半は、組織の中核を担うキャリアの充実期であると同時に、親世代が急激に介護を必要とし始める時期と重なります。
このタイミングで仕事との板挟みとなり、突発的な介護離職へ追い込まれるビジネスケアラーが急増しているのが実態です。
もっとも、親の衰えに気づいてすぐに離職を決断する必要はありません。
育児・介護休業法では、対象家族1人につき通算93日まで、最大3回に分割して「介護休業」を取得できると定められています。
この93日間は本人が直接介護をするための期間というより、ケアマネジャーの選定やデイサービス・ショートステイの手配など、仕事と介護を両立させる体制を整えるための準備期間と捉えるのが実務的です。
まずは会社の制度を確認するとともに、お住まいの地域の「地域包括支援センター」へ相談し、公的サービスを組み合わせながら働き続ける道を探ることが、突発的な介護離職を避ける現実的な備えになります。
2. 介護離職は本当に「自己都合」評価になるのか
それでも、努力を尽くした末に離職という決断に至るケースもあります。
介護離職の多くは、書類上「自己都合退職」として処理されてしまいます。
しかし、やむを得ない事情による介護離職は、雇用保険上、正当な理由のある自己都合離職である「特定理由離職者」として認定され、実質的に給付面で優遇される仕組みがあります。
ハローワークの判定基準では、「常時本人の看護を必要とする親族の疾病、負傷等のために離職を余儀なくされた場合のように、家庭の事情が急変したことにより離職した者」は、特定理由離職者と認められるとされています。
ここで見落としやすいのが、この基準に「同居」という条件は含まれていない点です。
離れて暮らす親であっても、常時看護や介護が必要な状態にあり、そのために離職せざるを得なかったことが客観的に認められれば対象になり得ます。
実務上は、会社の介護休業や短時間勤務といった両立支援制度を利用してもなお就業の継続が困難だったことなど、両立に向けた努力を尽くした上での限界であるかどうかが総合的に判断されます。
この認定を受けると、失業手当の給付制限期間(2ヶ月)が免除されるほか、交付される「雇用保険受給資格者証」(または受給資格通知)の離職理由コード欄に「33」(被保険者期間が12ヶ月未満の場合は「34」)が記載されます。
事業主からの働きかけによる退職(コード31)や事業所移転に伴う退職(コード32)とは区分が異なり、介護など家庭の事情によるやむを得ない自己都合退職は、通常このコード33・34に整理されます。
このコードが、次章で解説する国民健康保険料の軽減を申請する際に欠かせない情報となります。
3. 筆者からのコメント:「すぐに離職を考えないで!」介護経験者からのコメント
私自身、かつてビジネスケアラーとして仕事と家族の介護の板挟みになり、両立に深く苦慮した一人です。
「仕事は辞めたくない、でも介護の手も抜けない」というジレンマに、毎日心が押しつぶされそうでした。
よく「職場の両立支援制度や理解が大事」と言われますが、実際のところ、職種や働き方によってどこまで柔軟に動けるかは、本当に人それぞれだと感じています。
ちなみに、介護休業を取得した場合は、要件を満たせば雇用保険から休業開始前賃金の67%が「介護休業給付金」として支給される制度もあります。
すぐに離職という決断をする前に、まずは在職中に使えるこうした制度から確認してみるのも一つの方法です。
もし今、ご自身の職場で「介護休業」や「介護休暇」といった制度が活用できそうで、配置転換などでどうにか両立の道が探れる状況であれば、どうかまずは「やれるだけのことをやってみよう」と、周囲を頼りながら試してみてほしいと思います。
