5. 1Qの黒字転換と、期初から引き上げられた通期計画
直近決算を確認しておく。2027年3月期1Qは売上高938億円で前年同期比+10.7%、営業利益48億円で同+53.3%となった。
経常利益は42億円で同+1,560.4%。親会社株主に帰属する四半期純利益は25億円で、前年同期の8億円の四半期純損失から黒字転換している。
要因は会社が説明している。情報インフラ・産業機器向けの売上増加や為替差損益の影響などにより、売上高および各段階利益が増加したという。
経常利益の+1,560.4%という数字には注意が要る。増加率がここまで大きくなるのは、前年同期の水準が極端に低かったことの裏返しでもある。伸び率の派手さと利益の絶対水準は、別々に見ておきたいところだ。
通期の計画は、売上高4,240億円、営業利益450億円、経常利益420億円、当期純利益290億円。営業利益は前期比+125.0%を見込む。
見逃せないのは、この数字が期初から動いている点だ。2026年5月の通期決算の時点では、2027年3月期の営業利益を300億円と見込んでいた。それが1Qの時点で450億円へ引き上げられている。
ただし1Qの営業利益48億円は、通期450億円に対して1割程度にとどまる。単純な4分の1のペースには遠く、下期に大きく偏った計画になっている。実現の前提について、会社は自動車の電子化・電動化やAIサーバーなど情報インフラの需要拡大を見込むとし、期中平均為替レートは1米ドル150円を置いている。
6. 投資を止めず、配当も下げなかった5期が残したもの
この会社が谷で何を守ったのかは、配当と資本効率の並びに出ている。
配当は2023年3月期以降、1株90円で据え置かれてきた。2027年3月期の予想も90円である。利益が沈んだ期も、この水準を動かしていない。
結果として配当性向は受動的に膨らんだ。2024年3月期は134.8%、2026年3月期は76.0%。電気機器の業種中央値35.4%と比べれば、還元姿勢の強さというより業績の谷の深さを映した数字だと読むのが素直だろう。
資本効率も同じ谷を通っている。ROE(自己資本利益率)は2022年3月期の20.0%から2025年3月期の0.7%まで落ち、2026年3月期に4.5%へ戻した。業種中央値は7.7%で、まだそこには届いていない。
財務の側も動いた。自己資本比率は56.0%で、業種中央値62.2%より薄い。2026年3月期末の現金は980億円、長期借入金は852億円である。
負債を使うこと自体は、資本効率の観点でむしろ理にかなう選択だ。手元資金を遊ばせたまま自己資本を厚くしておくほうが最適とは限らない。問題は時間のほうにある。借りて建てた設備が利益率に結びつくまでに、この会社は5期を使った。
投資を止めず、配当も下げず、そのために自己資本比率と資本効率を差し出した5期。撤退して創業事業に戻るというのは、言葉の響きよりずっと重い意思決定だったことになる。
7. 筆者コメント
設備投資の推移と配当性向の推移を並べると、この会社が5期のあいだ何を優先したのかが見えてくる。
投資は止めなかった。配当も下げなかった。その両方を通すために差し出したのが、自己資本の厚みと資本効率だ。どれかを削るしかない局面で、削る順番がはっきり決まっていたということである。
この順番は、経営が何を怖がっているかを教えてくれる。能力増強を止めれば、需要が戻ったときに取り分を失う。集中した一本足の事業では、その取りこぼしが致命傷になりうる。だから投資を最後まで守った。そう読み取れる。
裏を返せば、この選択が正しかったかどうかは、まだ答えが出ていない。利益率が業種の中央値を超えてくれば正しかったことになり、超えないまま次の谷が来れば、投資の重さだけが残る。
決算を見るときは、営業利益の増減率よりも、減価償却費と売上高の伸び方を並べてみることをおすすめしたい。集中した会社の体力は、そこにいちばん素直に出る。
参考資料
8.1 免責事項
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石津 大希