給与明細を見ると、毎月「住民税」という項目でお金が引かれていますが、この仕組みに正式名称があることを知っている人は多くありません。「特別徴収」と呼ばれるこの制度は、会社員であれば誰もが関わっているにもかかわらず、いつ決まり、いつから天引きが始まるのか、正確に説明できる人は少ないのが実情です。
この記事では、住民税はいつから天引きされるのかを新卒2年目のケースで解説した記事より一部を引用・参照しつつ、特別徴収という給与天引きの仕組みそのものを、公的資料にもとづき編集部が整理します。
1. 特別徴収とは「会社が代わりに天引きして納める」仕組み
まず、特別徴収がどのような制度なのか、基本を確認します。
1.1 従業員本人ではなく、会社が納税を代行する
特別徴収とは、事業主(会社)が従業員に代わり、毎月の給与から個人住民税を差し引いて、本人の代わりに市区町村へ納入する制度です。所得税の源泉徴収と似た仕組みですが、対象となる税金が住民税である点が異なります。従業員本人が金融機関や役所の窓口に出向いて納税する必要がないため、納め忘れが起きにくいという特徴があります。
所得税の源泉徴収を行っている事業主は、原則として住民税の特別徴収も行う義務があります。アルバイトやパート、役員を含め、原則としてすべての従業員が特別徴収の対象になります。「うちの会社は天引きしていない」という状態は、本来は例外的な扱いにあたります。
1.2 特別徴収の対象にならない、例外的なケースもある
特別徴収は原則としてすべての従業員が対象ですが、例外もあります。給与が毎月支給されない不定期雇用の人や、給与額が少なく住民税額を天引きしきれない人、他の勤務先ですでに特別徴収されている人などは、特別徴収の対象から外れることがあります。この場合、住民税は自分で納付書を使って納める「普通徴収」という別の方法に切り替わります。
2. 通知書はいつ届き、いつから天引きが始まるのか
特別徴収がどのようなスケジュールで進むのかを確認します。
2.1 5月31日までに会社へ通知、6月分の給与から天引き開始
特別徴収の税額は、会社が市区町村へ提出した「給与支払報告書」をもとに、市区町村側で計算されます。従業員が1月1日時点で住んでいる市区町村から、毎年5月31日までに会社へ「特別徴収税額決定通知書」が送付され、これにもとづいて6月分の給与から翌年5月分まで、12回に分けて天引きが行われます。
2.2 【特別徴収の年間スケジュール】
- 1月31日まで:会社が市区町村へ給与支払報告書を提出
- 5月31日まで:市区町村が会社へ特別徴収税額決定通知書を送付
- 6月〜翌年5月:給与から12回に分けて天引き
- 天引きの翌月10日まで:会社が市区町村へ納入
この流れの中で見落とされがちなのが、会社が天引きした住民税を「翌月10日まで」に市区町村へ納入する義務を負っている点です。従業員から見れば給与天引きの一言で終わる話ですが、会社側には毎月の納入という事務負担が発生しています。
3. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、6月に給与明細を見て「住民税が急に増えた(減った)」と感じても、それは前年の所得にもとづく税額が単純に切り替わっただけで、6月の収入自体が変化したわけではない点です。特別徴収は前年所得課税という仕組みの上に成り立っているため、税額の変化は5月分までの旧年度と6月分からの新年度の切り替わりで生じます。
毎年6月の給与明細は、住民税額が変わる月だと覚えておくと、金額の変化に驚かずに済みます。
4. 特別徴収と普通徴収、何が違うのか
会社員以外の人が関わる「普通徴収」との違いも整理しておきます。
4.1 普通徴収は、自分で納付書を使って納める方式
普通徴収は、市区町村から送られてくる納付書を使い、自分で金融機関やコンビニなどで住民税を納める方式です。自営業者やフリーランス、無職の人など、給与からの天引きができない人が対象になります。特別徴収が年12回に分けて天引きされるのに対し、普通徴収は年4回(6月・8月・10月・翌年1月が一般的)に分けて納付する形が多く、1回あたりの金額は特別徴収より大きくなる傾向があります。
4.2 【特別徴収と普通徴収の違い】
前提:一般的な住民税の徴収方法の違いに基づく編集部整理2/2
出所:東京都主税局の公表情報等を基にLIMO編集部整理
- 特別徴収:会社員等の給与所得者が対象、年12回(給与天引き)
- 普通徴収:自営業者・フリーランス・無職等が対象、年4回(自分で納付)
5. 転職・退職のときは、徴収方法の切り替えに注意が必要
最後に、転職や退職のタイミングで特別徴収がどう扱われるかも確認しておきます。
5.1 退職時は、残りの税額をどう扱うか会社に確認する
年度の途中で退職する場合、残りの特別徴収税額は、一括で最後の給与や退職金から徴収されるか、普通徴収に切り替わって自分で納付するかのいずれかになります。
1月から5月の間に退職する場合は、原則として残りの税額が一括で徴収される扱いになっており、6月から12月の間に退職する場合とは扱いが異なります。
転職の場合は、退職前の会社と新しい会社の間で「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を通じて手続きを行えば、特別徴収を切れ目なく継続できます。ただし、この手続きは自動的には行われないため、転職時に人事担当者へ確認しておくことが望ましいとされています。
6. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、退職・転職のタイミングによって、特別徴収の扱いが変わるという点です。何も手続きをしなければ普通徴収に切り替わり、自分で納付書を使って納めることになります。特別徴収を継続したい場合は、退職前に会社へその旨を伝え、必要な手続きが取られているかを確認することをおすすめします。
なお、住民税がいつから発生するのかという基本的な仕組みもあわせて確認しておくと、特別徴収の税額そのものがどう決まるかの理解が深まります。
※本記事は、編集部が東京都主税局が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。
7. 休職・育児休業中は、特別徴収がどう扱われるか
転職・退職以外にも、給与が発生しなくなる場面として休職や育児休業があります。この場合の扱いも確認しておきます。
7.1 給与が支給されなくなると、天引きそのものができなくなる
特別徴収は、毎月の給与から住民税額を差し引く仕組みのため、育児休業や長期の欠勤・休職などで給与の支給が止まると、そもそも天引きする原資がなくなります。この場合、会社は「給与所得者異動届出書」を市区町村へ提出することで、普通徴収に切り替えることができます。切り替え後は、本人が納付書を使って直接納めることになります。
ただし、普通徴収への切り替えは自動的に行われるものではなく、会社側が届出をして初めて成立します。休職や育児休業に入る前に、住民税の扱いがどうなるのか、会社の経理・人事担当者に確認しておくと、納付方法が宙に浮いた状態を避けられます。
7.2 会社が休業前の給与から一括天引きする対応をとることもある
普通徴収への切り替え以外に、休業に入る前の最後の給与や賞与から、休業期間中に見込まれる住民税額をまとめて天引きしておくという対応を取る会社もあります。この場合、休業中に改めて納付の手続きをする必要がなくなる一方、休業直前の手取り額が一時的に少なくなります。
どちらの方法を取るかは会社の運用によって異なるため、休業前にまとめて天引きされるのか、普通徴収に切り替わって自分で納めるのかを確認しておくことが、資金繰りの見通しを立てるうえで役立ちます。
8. 副業などで2か所以上から給与を受けている場合はどうなるか
複数の勤務先から給与を受けている人の場合、特別徴収がどちらの給与から行われるのかも整理しておきます。
8.1 原則として「主たる給与」の勤務先で特別徴収が行われる
2か所以上から給与を受けている場合、住民税の特別徴収は、原則として「主たる給与」の支払いを受けている勤務先で行われます。主たる給与とは、金額や勤務の実態から見て中心的な勤務先を指し、副業先などの従たる給与からは特別徴収が行われないのが基本的な扱いです。
従たる給与(副業がアルバイト等の給与所得である場合)にかかる住民税は、主たる給与の勤務先での特別徴収にまとめて含める扱いが基本で、確定申告で普通徴収を選べる対象には含まれません。一方、副業が事業所得や雑所得(フリーランス収入など)の場合は、その分の住民税だけを確定申告で普通徴収に選ぶことができます。副業をしている人は、自分の副業がどちらの所得区分にあたるのかを、まず整理しておく必要があります。
9. 特別徴収税額決定通知書には何が記載されているか
最後に、会社に届く通知書の中身についても触れておきます。
9.1 6月から翌年5月までの年税額・月割額が記載される
会社に送付される「特別徴収税額決定通知書」には、6月から翌年5月までに徴収すべき個人住民税額(年税額および月割税額)が記載されています。会社はこの通知書の内容にもとづいて、毎月の給与から天引きする金額を決定します。
従業員本人にも、同じ内容が記載された通知書が会社経由で渡される場合があります。給与明細の住民税額と、通知書に記載された月割税額が一致しているかを確認しておくと、天引き額の誤りに早めに気づくことができます。
10. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、副業の内容によって選べる範囲が異なる点です。副業がアルバイト等の「給与所得」である場合、その従たる給与分の住民税も原則として特別徴収の対象になり、確定申告での選択の余地は基本的にありません。一方、副業が事業所得や雑所得(フリーランス収入など)である場合は、確定申告書の住民税に関する事項欄で、その分だけを「自分で納付(普通徴収)」に選ぶことができます。
副業の所得を会社に知られたくないという理由で、給与以外の所得分を普通徴収に選ぶ人もいます。自分の副業がどちらの所得区分にあたるのかを、まず整理しておくことが実務上のポイントです。
11. まとめ
- 特別徴収は、会社が従業員に代わって住民税を給与から天引きし、市区町村に納める仕組みです。
- 会社へは毎年5月31日までに税額決定通知書が届き、6月分の給与から天引きが始まります。
- 会社は天引きした住民税を、翌月10日までに市区町村へ納入する義務を負っています。
- 自営業者等は「普通徴収」で自分で納付し、特別徴収とは納付回数(12回・4回)も異なります。
特別徴収は、会社員であれば意識せずとも関わっている仕組みですが、通知のタイミングや納付のスケジュールを知っておくと、給与明細の金額の変化にも落ち着いて対応できます。
自分の住民税額の詳細については、毎年6月頃に会社から配布される「住民税決定通知書」で確認できます。
12. よくある質問
12.1 Q. 特別徴収とは何ですか。
A. 会社が従業員に代わって、毎月の給与から住民税を差し引き、市区町村に納入する制度です。所得税の源泉徴収と似た仕組みで、住民税を対象にしています。
12.2 Q. 特別徴収はすべての会社員が対象ですか。
A. 原則として対象です。所得税の源泉徴収を行っている事業主は、住民税の特別徴収も行う義務があります。ただし、給与が不定期な人や少額な人など、一部例外もあります。
12.3 Q. 特別徴収の天引きはいつから始まりますか。
A. 毎年5月31日までに会社へ税額決定通知書が届き、6月分の給与から翌年5月分まで、12回に分けて天引きされます。
12.4 Q. 特別徴収と普通徴収は何が違いますか。
A. 特別徴収は会社が給与から天引きして納める方式で年12回、普通徴収は自分で納付書を使って納める方式で年4回が一般的です。自営業者やフリーランスは普通徴収が基本になります。
12.5 Q. 会社は天引きした住民税をいつまでに納めますか。
A. 天引きした月の翌月10日までに、市区町村(または金融機関等)へ納入する義務があります。
12.6 Q. 転職すると特別徴収はどうなりますか。
A. 「特別徴収に係る給与所得者異動届出書」の手続きを行えば、新しい勤務先で特別徴収を継続できます。手続きは自動的には行われないため、転職時に会社へ確認することをおすすめします。
12.7 Q. 退職すると特別徴収はどうなりますか。
A. 残りの税額が最後の給与や退職金から一括徴収されるか、普通徴収に切り替わるかのいずれかになります。1月から4月の退職は原則として一括徴収の扱いです。
12.8 Q. 6月に住民税額が変わるのはなぜですか。
A. 前年の所得にもとづく新年度の税額に切り替わるためです。6月の収入自体が変化したわけではなく、旧年度から新年度への税額の切り替わりが起きる月にあたります。
12.9 Q. 休職や育児休業中は住民税を納めなくてよいのですか。
A. 免除されるわけではありません。給与からの天引きができなくなるため、普通徴収に切り替わって自分で納付するか、休業前の給与から一括で天引きしておくかのいずれかの対応になります。
12.10 Q. 副業をしている場合、住民税はどちらの給与から引かれますか。
A. 副業がアルバイト等の給与所得の場合、原則として「主たる給与」の勤務先で、副業分も含めてまとめて特別徴収されます。副業が事業所得・雑所得の場合は、確定申告でその分だけ普通徴収を選ぶことができます。
12.11 Q. 特別徴収税額決定通知書には何が書かれていますか。
A. 6月から翌年5月までに徴収すべき個人住民税額(年税額および月割税額)が記載されています。会社はこの内容にもとづいて、毎月の給与から天引きする金額を決定します。
12.12 Q. 給与明細の住民税額が間違っている気がする場合はどうすればよいですか。
A. 会社に届く特別徴収税額決定通知書の月割税額と、給与明細の天引き額を照らし合わせて確認します。金額が一致しない場合は、会社の経理担当者や市区町村の税務担当窓口に問い合わせることをおすすめします。
12.13 Q. アルバイトやパートでも特別徴収の対象になりますか。
A. なります。アルバイトやパート、役員を含め、原則としてすべての従業員が特別徴収の対象です。ただし、給与額が少なく住民税額を天引きしきれない場合など、一部例外もあります。
12.14 Q. 会社が特別徴収の手続きを行わないとどうなりますか。
A. 所得税の源泉徴収を行っている事業主は、原則として住民税の特別徴収も行う義務を負っています。手続きを行わない場合、市区町村から指導が入ることがあります。従業員側から会社に確認してみるのも一つの方法です。
12.15 Q. 特別徴収税額決定通知書は従業員本人も見ることができますか。
A. 会社経由で、同じ内容が記載された通知書が従業員本人にも渡される場合があります。給与明細の天引き額と記載内容が一致しているか、確認する習慣をつけておくと安心です。
12.16 Q. 新卒1年目は特別徴収の対象になりますか。
A. なりません。住民税は前年の所得にもとづいて計算されるため、前年に所得のなかった新卒1年目は、原則として2年目の6月から特別徴収の対象になります。
12.17 Q. 特別徴収から普通徴収への切り替えは、いつでも自分の希望でできますか。
A. できません。普通徴収への切り替えは、退職・休職・給与額が少ないなど、会社側が届出を行う一定の要件を満たす場合に限られます。在職中の従業員が単に希望するだけで切り替えることは、原則として認められていません。
12.18 Q. 特別徴収税額決定通知書が会社に届かない場合はどうすればよいですか。
A. 通常は毎年5月31日までに届きますが、万が一届かない場合は、会社の経理担当者から市区町村の税務担当窓口へ問い合わせるのが確実です。給与支払報告書の提出内容に不備があると、通知が遅れることがあります。
12.19 Q. 転職先が特別徴収に対応していない会社の場合はどうなりますか。
A. 会社が特別徴収に対応していない場合、住民税は普通徴収に切り替わり、自分で納付書を使って納めることになります。転職前に、新しい勤務先が特別徴収を継続できる体制かどうかを確認しておくと安心です。
12.20 Q. 特別徴収の仕組みは全国どこでも同じですか。
A. 基本的な仕組みは全国共通ですが、税額そのものは住んでいる市区町村ごとの税率・控除の適用によって変わります。手続きの細かな運用(届出書の様式等)も自治体によって多少異なる場合があります。
12.21 Q. 特別徴収税額決定通知書を紛失した場合はどうすればよいですか。
A. 会社の経理担当者に相談するか、市区町村の税務担当窓口に問い合わせて内容を確認します。従業員本人が個別に再発行を申請できるかは自治体によって異なるため、まずは会社を通じて確認することをおすすめします。
参考資料
齊藤 慧
