「年金にも税金がかかるの?」という疑問は、年金を受け取り始める時期が近づくと多くの人が抱くものです。結論から言えば、年金にも所得税がかかる場合がありますが、一定額までは税負担が生じない仕組みになっています。この記事では、国税庁の公表資料をもとに、その具体的なラインを編集部で試算します。
現役時代の所得税とは異なる控除の仕組みも、あわせて確認していきます。確定申告そのものが不要になるケースについても整理します。
「いくらまでなら税金がかからないのか」を、実際の数字で確認していきましょう。特にこれから年金の受給を始める人や、繰下げ受給を検討している人にとっては、税負担の見通しを立てるうえで欠かせない知識になります。
1. 年金にも税金がかかる。ただし一定額までは非課税
まず、年金にかかる税金の基本的な仕組みを確認します。
1.1 年金は「雑所得」として、所得税の対象になる
会社員時代の給与所得とは異なり、年金は「公的年金等に係る雑所得」という区分で計算されます。給与所得控除ではなく、公的年金等控除という別の控除が使われる点が、現役時代の税金の仕組みとの大きな違いです。控除の名前が違うだけでなく、金額の算定方法自体も異なります。
国税庁によると、公的年金(老齢年金)は税法上「雑所得」として扱われ、所得税の課税対象になります。ただし、年金収入からそのまま税金がかかるわけではなく、「公的年金等控除」という控除を差し引いた金額が所得として扱われます。
国税庁のタックスアンサーによると、65歳以上で公的年金等の収入金額が110万円までは、税負担が生じません。この110万円という数字が、年金にかかる税金を考えるうえでの最初の基準になります。ただし、これはあくまで公的年金等控除だけを差し引いた段階の話であり、実際の非課税ラインはこの先の計算で決まります。
2. 編集部試算:所得税がかからないのは年収205万円まで
ここからが本題です。公的年金等控除に加えて、所得税には「基礎控除」という別の控除もあります。この2つを組み合わせて、実際に税金がかからない年収のラインを試算します。
2.1 公的年金等控除110万円+基礎控除95万円=205万円
国税庁によると、合計所得金額132万円以下の場合、令和7年分の所得税の基礎控除は95万円です。65歳以上・年金収入のみの人であれば、公的年金等控除110万円を差し引いた後の所得に、さらにこの基礎控除95万円が適用されます。
年金収入が205万円のとき、公的年金等控除110万円を引くと所得は95万円になります。ここからさらに基礎控除95万円を引くと、課税所得はちょうどゼロになる計算です。つまり、65歳以上・年金収入のみの単身者であれば、令和7年分については年収205万円までは所得税がかからないという試算になります。
なお、国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」によると、合計所得金額132万円以下の場合の基礎控除額は、令和8・9年分は104万円に引き上げられます(令和10年分以後は99万円)。
同じ条件で令和8年分を試算すると、公的年金等控除110万円+基礎控除104万円=214万円となり、非課税ラインは205万円から214万円に上がる計算になります。
2.2 【65歳以上・年金収入のみの場合の所得税非課税ライン(令和7年分・令和8年分)】
前提条件:65歳以上・年金収入のみ・単身の場合、国税庁の公的年金等控除110万円と基礎控除(合計所得132万円以下の区分)をもとに編集部で試算1/2
出所:国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」などを基にLIMO編集部作成
- 基礎控除:令和7年分95万円/令和8年分104万円
- 公的年金等控除:110万円(両年分共通)
- 非課税ライン(年金収入):令和7年分205万円/令和8年分214万円
この試算はあくまで年金収入のみで、他に所得がない単身者を前提にしたものです。配偶者控除や社会保険料控除など、ほかの控除が適用できる場合は、非課税ラインはさらに上がります。自分に適用できる控除があるかどうか、あわせて確認しておきましょう。
3. 【編集者の視点】
注意しておきたいのは、この205万円という数字が「所得税」のラインだという点です。住民税の非課税ラインは、これとは別の基準(自治体の級地区分によって異なる金額)で判定されるため、「所得税がかからない=住民税も非課税」とは限りません。
所得税と住民税は、それぞれ別の制度として非課税ラインが設定されている点を混同しないよう注意が必要です。
4. 65歳未満の場合は、控除額が変わる
ここまでは65歳以上を前提にした試算でしたが、65歳未満の場合はラインが変わります。
4.1 公的年金等控除の下限は60万円
国税庁によると、65歳未満の場合、公的年金等控除の下限は60万円です。65歳以上の110万円と比べると、50万円低い水準になっています。これは、65歳未満は本来まだ現役で働いている年代であることを踏まえた制度設計によるものです。
65歳未満・年金収入のみの場合、令和7年分では公的年金等控除60万円を差し引いた「合計所得金額」が132万円以下であれば、基礎控除が95万円適用されます。このため、所得税の非課税ラインは年収155万円(65歳以上の205万円と比べると50万円低い水準)という計算になります。
令和8年分は合計所得金額が489万円以下の場合に基礎控除が104万円に引き上げられるため、非課税ラインは年収164万円になります。
非課税である遺族年金の受給者などが、課税対象となる老齢年金の繰上げを検討する際は、この非課税ラインの差や税負担の影響を踏まえて慎重に判断する必要があります。
4.2 【65歳以上・65歳未満の所得税非課税ラインの比較】
- 65歳以上:公的年金等控除110万円、非課税ラインの目安205万円
- 65歳未満:公的年金等控除60万円、非課税ラインの目安155万円
5. 【編集者の視点】
実務上のポイントは、誕生日を迎えて65歳になったタイミングで、公的年金等控除の額が自動的に切り替わるという点です。年の途中で65歳になった場合、その年の控除額の扱いがどうなるかは、確定申告の際に注意が必要な論点になります。
判断に迷う場合は、税務署や税理士に確認するか、国税庁の確定申告書等作成コーナーを使って試算してみることをおすすめします。誕生日前後の年は、特に念入りに確認しておくとよいでしょう。
6. 確定申告そのものが不要になるケースもある
最後に、税金がかかる・かからないとは別の論点として、確定申告の要否を確認します。
6.1 年金収入400万円以下なら、申告不要になる場合がある
国税庁によると、次の3つすべてに該当する場合、所得税および復興特別所得税の確定申告は不要です。①公的年金等の収入金額の合計が400万円以下、②公的年金等の全部が源泉徴収の対象、③公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下、というのがその条件です。
この「確定申告不要制度」は、あくまで申告の手間を省ける制度であり、税金そのものがゼロになるわけではありません。年金からはあらかじめ源泉徴収されているため、申告しなくても納税自体は完了している扱いになります。制度の名前だけで判断せず、中身を正しく理解しておくことが大切です。
6.2 確定申告不要でも、住民税の申告が必要な場合がある
ここで見落としやすいのが、所得税と住民税で申告の要否が別々に判断されるという点です。公的年金等に係る雑所得のみがある人でも、源泉徴収票に記載された控除以外の各種控除を追加で受けたい場合や、年金以外の所得がある場合は、住民税の申告が別途必要になります。
「所得税の確定申告不要制度を使ったから、住民税の手続きも何もしなくていい」と思い込んでしまうと、必要な申告を見落とすことになりかねません。控除を追加したい事情がある年は、お住まいの市区町村の窓口に確認しておくと安心です。制度が2つに分かれている以上、それぞれ個別に確認する意識を持っておきましょう。
※本記事は、編集部が国税庁が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。
7. 年金以外に収入がある場合は、ラインが変わる
ここまでの試算は「年金収入のみ」を前提にしたものでした。パート収入や不動産収入など、年金以外の所得がある人は、この非課税ラインをそのまま当てはめることはできません。
7.1 合計所得金額で判定するため、他の所得と合算される
所得税の基礎控除は「合計所得金額」に応じて金額が変わる仕組みです。年金以外にパートなどの給与所得がある場合、公的年金等控除を差し引いた後の年金所得と、給与所得控除を差し引いた後の給与所得を合算した金額が「合計所得金額」として扱われます。
この合計所得金額が132万円を超えると、基礎控除の額そのものが段階的に少なくなっていく仕組みになっています。年金とパートを掛け持ちしている人は、年金だけの場合よりも非課税ラインが低くなる可能性がある点に注意が必要です。単純に年金収入とパート収入を足すだけでは正確な判断ができません。
働き控えを意識している人にとっては、この合算の仕組みを理解しておくことが、年間の収入をどこまで抑えるべきかを判断する材料になります。年金額とパート収入の両方を、あらかじめ書き出しておくとよいでしょう。
8. 【編集者の視点】
実務上の防衛策としては、年金以外の収入が発生しそうな年は、事前におおまかな合計所得金額を計算しておくことです。パート先の源泉徴収票や、不動産収入の見込み額を早めに把握しておくと、確定申告の時期に慌てずに済みます。年の途中で収入の見通しが変わった場合も、早めに再計算しておくと安心です。
複数の所得区分をまたぐ計算は複雑になりがちなので、判断に迷う場合は税務署や税理士に相談することをおすすめします。
なお、関連して老後資金の正しい「内訳」と不足額のあぶり出しについても、あわせて確認しておくと理解が深まります。
9. まとめ
- 65歳以上・年金収入のみの単身者は、編集部の試算で年収205万円まで所得税がかからない計算になります。
- 65歳未満の場合は公的年金等控除が60万円と低いため、非課税ラインの目安は155万円です。
- 所得税の非課税ラインと、住民税の非課税ラインは別の基準で判定されるため混同しないよう注意が必要です。
- 公的年金等の収入が400万円以下等の条件を満たせば、確定申告が不要になる制度もあります。
- 確定申告が不要でも、医療費控除など還付が受けられる場合は、申告した方が得になることがあります。
- 確定申告不要制度を使った場合でも、控除の追加や年金以外の所得があれば住民税の申告が別途必要になることがあります。
「年金にも税金がかかるのか」という疑問には、公的年金等控除と基礎控除を組み合わせることで、具体的な非課税ラインとして答えられます。65歳以上なら年収205万円という目安を知っておくことで、老後の資金計画がより立てやすくなります。年齢や収入の組み合わせによってラインが変わる点も、あわせて押さえておきましょう。
自分自身の正確な税額を知りたい場合は、税務署や国税庁の確定申告書等作成コーナーで試算することをおすすめします。年金だけの場合と、他の収入がある場合とで試算結果が変わる点にも注意しておきましょう。
あわせて、年金「平均受給額」の残酷な現実と男女格差も参考にしてみてください。
10. よくある質問
10.1 Q. 年金収入が205万円を少し超えたら、税金が一気に増えますか。
A. 一気に増えるわけではありません。所得税は超えた部分に段階的な税率がかかる仕組みのため、205万円をわずかに超えても、税負担は緩やかに増える形になります。
10.2 Q. 205万円という非課税ラインは今後も同じですか。
A. 変わります。205万円は令和7年分の基礎控除95万円をもとにした試算です。令和8年度税制改正により基礎控除が104万円に引き上げられるため、令和8年分の非課税ラインは214万円になります。
10.3 Q. 公的年金等控除と基礎控除は、両方とも自動で適用されますか。
A. はい。年金からの源泉徴収の計算段階で、これらの控除は基本的に自動的に考慮されます。個別に申請する必要はありません。
10.4 Q. 確定申告不要制度を使わず、あえて申告することもできますか。
A. できます。医療費控除や社会保険料控除など、還付につながる控除がある場合は、確定申告することで税金の還付を受けられる場合があります。
10.5 Q. 所得税がかからなければ、住民税もかかりませんか。
A. 必ずしもそうとは限りません。所得税と住民税は非課税の基準が別に設定されているため、所得税がかからなくても住民税は課税される場合があります。
10.6 Q. 年金以外にパート収入がある場合、非課税ラインはどう変わりますか。
A. 年金所得とパートの給与所得を合算した「合計所得金額」で判定されるため、年金だけの場合より非課税ラインが低くなることがあります。事前に合計所得金額を試算しておくことをおすすめします。
10.7 Q. 65歳になった年は、控除額の切り替えはいつから適用されますか。
A. その年の12月31日時点の年齢で判定されます。年の途中で65歳になった場合でも、その年分については65歳以上の控除額が適用されます。
10.8 Q. 遺族年金や障害年金にも、同じように税金がかかりますか。
A. かかりません。遺族年金・障害年金は非課税所得として扱われ、老齢年金のような課税関係の対象にはなりません。この記事で扱っているのは、老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)に関する課税ラインです。
10.9 Q. 非課税ラインぎりぎりの年金収入の場合、何に気をつければよいですか。
A. ラインぎりぎりの場合は、年金額の改定や他の所得の有無によって、翌年の判定結果が変わる可能性があります。毎年の源泉徴収票で、自分の年金収入と控除額の関係を確認しておくと、思わぬ課税に慌てずに済みます。
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参考資料
齊藤 慧
