8月下旬に水準が切り替わった株価と、PER42倍という現在地

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

直近1カ月の終値を並べると、8月の前半と後半でまるで別の銘柄のように見える。

2026年8月上旬は1,900円台から2,000円台での小動きが続いた。8月10日の1,905円は、この1カ月で最も低い終値である。

変化は8月下旬に起きた。8月25日の2,091円から、8月26日は2,591円、8月27日は3,000円へと2営業日で4割超切り上がった。この3,000円が直近1カ月で最も高い終値だ。

そこからは上げ幅を吐き出す動きになる。8月28日は2,830円、8月31日は2,658円、9月2日は2,474円まで戻され、9月3日に2,611円へ反発した。起点の8月5日は1,949円だったので、1カ月で+34.0%である。

バリュエーションも同じだけ動いた。9月3日時点のPER(株価収益率)は42.04倍、PBR(株価純資産倍率)は1.62倍。会社が公表した2027年3月期の予想1株当たり当期純利益は62.12円で、この予想を前提にすれば、いまの株価は1年分の利益の40倍を超える水準に置かれている。

化学という業種でこの倍率が付くのは、実績よりも先の姿を織り込む動きが強まったからだと考えられる。ただし地合いも需給も絡むため、上げの理由を一つに決めつけるのは避けたい。

2026年3月期通期は営業利益+52.4%。増益を作ったのは何か

直近の通期実績は、株価の動きよりずっと前から形が変わっていた。

2026年3月期の売上高は357億円で前期比+6.3%、営業利益は34億円で+52.4%。経常利益は32億円で+414.8%、当期純利益は25億円で+217.4%と、利益側の伸びが売上の伸びをはるかに上回った。

利益はなぜ伸びたのか。会社によると、人的投資に伴う費用や研究開発費、新基幹システムの稼働に関連する費用は増えている。それを上回ったのが、売上の増加に加え、原料市況の影響を受けた高額在庫による利益圧迫要因の解消と、ベトナム子会社の本格稼働に伴う費用負担の減少だ。

販売数量は前期比+2.8%にとどまる。数量が押し上げたというより、原価と費用の重さが軽くなった期だったと整理できる。

経常利益が4倍を超えたのは別の事情による。ベトナム子会社への貸付金と、それに相対する子会社側の借入金など外貨建て資産に起因する為替差損益の影響だ。前期は営業利益22億円に対し経常利益が6億円しか残らなかったが、今期は34億円に対して32億円。稼ぎがほぼそのまま下の段まで通った。

収益性を業種と並べると、営業利益率9.7%は化学の中央値6.9%を上回る。一方でROE(自己資本利益率)6.6%は中央値の6.6%とほぼ同じで、自己資本比率57.5%は中央値64.6%を下回る。稼ぐ力は平均より厚いのに、資本効率は平均どまりという組み合わせだ。

過去5期を並べて見える山と谷、そして戻り

単年の増益率は、前の年が悪ければいくらでも大きく見える。だから5期に伸ばして眺めたい。営業利益は2022年3月期が37億円、2023年3月期が53億円、2024年3月期が24億円、2025年3月期が22億円、そして2026年3月期が34億円である。

営業利益率で追うと、12.8%、15.1%、6.9%、6.8%、9.7%。2023年3月期に山を付け、続く2期で半分以下に落ち、直近で戻したという形だ。

興味深いのは売上高との対比である。売上高は2023年3月期の357億円と2026年3月期の357億円がほぼ重なる。同じ売上規模で、営業利益は53億円から34億円へ、6割強の水準にとどまっている。

ROEも12.1%から3.2%、2.2%を経て6.6%という軌跡をたどった。売上が元の水準に戻っても、利益と資本効率は戻り切っていない。原料市況と為替、そして先行投資の重さが、利益の振れをここまで大きくしているのだろう。

裏を返せば、この会社の利益は数量の増減よりコスト側の要因で振れやすい。直近の増益をどう評価するかは、その振れが一巡したと見るかどうかにかかる。

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出所:第一稀元素化学工業株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:第一稀元素化学工業株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

減益を見込む通期計画を、1Qが追い越している

足元の四半期は、その問いに一つの手がかりを与えている。

2027年3月期1Qの売上高は101億円、営業利益は11億円、経常利益は14億円、当期純利益は9億円。前年同期は売上高81億円、営業利益5億円で、当期純利益は損失だったから、売上は+24.9%、営業利益は+119.4%の伸びになる。

ところが会社の通期計画は強気ではない。2027年3月期の予想は売上高370億円で+3.5%、営業利益30億円で▲13.8%、当期純利益15億円で▲40.3%という増収減益である。

この計画に1Q実績を当てると、営業利益の進捗は38.4%、当期純利益の進捗は63.5%に達する。1Qの標準的なペースは25%なので、利益はかなり先行して積み上がっている。

減益計画の前提が保守的だったのか、それとも1Qに一過性の追い風があったのか。そこは短信の数字だけでは切り分けられない。ただ予想1株当たり配当は30円と前期の28円から引き上げられており、会社の姿勢そのものは後ろ向きではない。

いずれにせよ、冒頭で触れたPER42倍はこの減益計画を分母にした倍率である。分母が動けば、同じ株価でも見え方は変わる。

筆者コメント

なぜこの局面で、株価がこれだけ動いたのだろうか。

私が引っかかるのは、上げ幅の大きさよりも、上げる前の水準の低さである。

2026年3月期は営業利益が5割増え、当期純利益は3倍を超えた。それでも8月上旬の株価は1,900円台にとどまっていた。回復した業績が、値段の側にはほとんど反映されていなかったことになる。

そう考えると、8月下旬の急な切り上がりは、まったく新しい材料が出たから起きたというよりも、置き去りにされていた業績の変化がまとめて評価された動きだった、とも読める。

もっとも、株価が動いた理由を後から一つに絞るのは乱暴だ。相場全体の地合いも需給も絡む。同じ材料でも、水準が低いところから動くときと高いところから動くときでは、値幅がまるで違う。

だからこそ見ておきたいのは、いまの株価が会社の減益計画を分母に置いた倍率で語られている、という点だろう。決算のたびに分母が書き換わる可能性がある銘柄では、倍率だけを固定して眺めても足元が定まらない。