触媒が稼ぎ、戦略分野の構成比はまだ動かない
この会社は単一セグメントで開示しているが、用途別の内訳を見ると稼ぎの偏りがはっきりする。
2026年3月期の用途別売上高は、自動車排ガス浄化触媒が224億円で+7.7%、ブレーキや耐火物を含む基盤分野が78億円で+2.4%、ヘルスケアが21億円で+8.4%、エネルギーが16億円で+20.8%、半導体・エレクトロニクスが16億円で▲8.1%だった。触媒だけで全体の6割を超える。
ここで一般的なイメージとのズレが出てくる。電動化が進めば内燃機関向けの触媒材料は構造的に縮む、という見方は業界では珍しくない。ところが実データはそう動いていない。
会社によれば、内燃機関搭載車の販売台数には減少傾向が見られるものの、電動化の進展が想定より鈍化するなかで一部に内燃機関への回帰があり、減少速度は想定より緩やかになった。加えて排ガス規制の強化でハイブリッド車需要が堅調に推移し、特定国からの材料供給に依存しない地政学リスク回避の動きもあったという。
縮むと思われていた分野が全社の増収を牽引し、伸びると期待された分野はまだ小さい。矛盾ではなく、同時に成立している姿だ。
戦略分野の中で明暗が分かれている
成長分野とされる領域も一枚岩ではない。エネルギー用途のうちSOFC(固体酸化物燃料電池)向けは+35.5%の増収となった。会社は、AI市場の成長を背景にデータセンターで高効率かつ安定的な電力供給が可能な電源としての評価が高まったこと、特定国のサプライチェーン混乱で需要が高まったことを理由に挙げている。
一方で二次電池用途は▲2.7%。半導体・エレクトロニクスでは、安価な中国製SiCウエハの市場流入が拡大してサプライチェーン上の位置付けが変わり、SiCウエハ向け研磨材の売上高は▲25.3%まで落ちた。電子部品用途はコンデンサ向けが堅調で+16.1%と伸びている。
会社自身も課題を明示している。戦略分野の売上高は伸びたものの、事業ポートフォリオの転換という観点では売上構成比の大きな変化に至らず、二次電池用途における需要構造の変化への対応が遅れたことを認識しているという。
母数の大きい触媒が同時に伸びれば、成長分野が伸びても構成比は動かない。転換の進み具合を測るなら、成長率より構成比を見るほうが正直だろう。
株主資本コスト7〜8%とROE11%目標、累計356億円の配分計画
中期経営計画「DK-One Next」は2023年3月期から2032年3月期までを対象とする長い計画だ。数字の置き方に、この会社の考えがよく出ている。
会社は自社の株主資本コストを7〜8%程度と認識しており、2032年3月期にROE11%以上、ROIC(投下資本利益率)9%以上を目指すとしている。直近のROE6.6%は、まだその資本コストの下限にも届いていない。
売上の側も同じだ。2029年3月期の売上高目標410億円に対し、2026年3月期の実績は357億円。会社は、利益水準の改善は評価しつつも、事業ポートフォリオの転換を伴う売上成長の実現こそが中期の本質的な目標だとして、売上高目標は変更しないと述べている。
資金の配り方も具体的だ。2026年3月期から2032年3月期までの累計で356億円程度の営業キャッシュ・フローを見込み、戦略分野の増産投資76億円、研究開発投資80億円、基盤投資70億円、M&Aを含む成長投資65億円、株主還元66億円へ配分する方針を示す。4割強が増産と研究開発に振られている計算だ。
還元の側はDOE(株主資本配当率)1.8%を下限、配当性向30%を目標とし、自己資本比率40〜60%を財務健全性の目安に置く。
自己資本比率の目安に上限を切ってあるところは見逃せない。直近の57.5%はそのレンジの上寄りで、業種の中央値64.6%より低い。自己資本を厚く積むこと自体を目的にせず、負債も含めて資本を使い切る前提で設計されている、と読み取れる。
筆者コメント
業種の中での立ち位置に照らすと、この会社の見え方は少し変わる。
化学という括りのなかで、利益率は真ん中より上にある。一方で資本効率は真ん中並みで、会社自身が置く資本コストの下限にも届いていない。稼ぐ力の水準と、その稼ぎを株主資本に返す効率が、同じ会社の中で食い違っている。
理由の一つは、投資が先に立っていることだろう。海外の生産拠点も研究開発も、支出は先に出て成果は後から損益に乗る。中期計画の配分表を見ても、営業キャッシュの4割強が増産と研究開発に向く設計になっている。
つまりこの会社の資本効率は、いま低いというより、まだ回収局面に入っていないと見るのが素直ではないだろうか。
だとすれば、追いかける数字は四半期の利益そのものより、戦略分野の売上構成比のほうだ。会社が本命に据え、しかも自ら「大きく動いていない」と認めた指標である。
成長分野の伸び率は、母数が小さいうちはいくらでも派手に見える。構成比が動き始めたかどうかを決算ごとに確かめる、という視点を持っておくことをおすすめしたい。
参考資料
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石津 大希