2026年度の年金額は6月支給分から改定され、老齢年金生活者支援給付金の給付基準額も月額5620円と、前年度より3.2%増額されました。9月にかけては、下半期の働き方や勤め先の制度の切り替わりについて、あらためて考える機会が増える時期にあたります。
勤め先や暮らしが変わるときには、公的な制度でも、自分で積み立ててきたものでも、手続きが要る場面が重なります。この記事では、老齢年金に上乗せされる2つの給付、勤め先や働き方が変わる場面で関わる雇用保険の3つの給付、医療・介護・生活の負担を抑える仕組み、2025年6月に成立した年金制度改正で見直された点を順に整理します。そのうえで、退職した、再就職した、配偶者の状況が変わったといった場面ごとに、確認が必要になる制度がどう入れ替わるのかを独自に整理します。
なお、60歳・65歳以上の方が対象となる公的給付金に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 受給資格ができた時点と、振り込みが始まる時点は分かれている
60歳・65歳以上の方が対象となる公的なお金については、「【2026年最新】60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金一覧!年金上乗せ・雇用保険・医療介護の申請漏れを防ぐ完全ガイド!「知っておきたい」お金の仕組みを徹底解説」でも幅広く整理されています。ここではまず、その手前にある「手続きをしないと受け取りが始まらない」という組み立てを確かめておきます。
1.1 老齢・障害・遺族の年金も「年金請求書」から動き出す
老齢・障害・遺族といった公的年金は、暮らしを支える土台になる制度です。ただし、受給資格ができた時点で振り込みが自動的に始まる仕組みにはなっていません。
受け取りを開始するには、自分自身で「年金請求書」を提出し、請求の手続きを済ませる形になります。この一手間が残っている間は、要件のほうを満たしていても口座には何も入ってきません。
1.2 制度ごとに扱う窓口が分かれているという事情
国や自治体の給付金・補助金も、基本的には申請とセットで組み立てられています。期限に間に合わなかったり、書類が足りなかったりした場合には、受給額が減る、あるいは受け取れなくなるといった不利益が生じる可能性もあります。
ここで押さえておきたいのは、気づきにくさが本人の注意力によるものではないという点です。年金は年金事務所、雇用保険はハローワーク、医療・介護や臨時の給付金は市区町村と、扱う窓口が制度ごとに分かれています。自分に関わるものが一覧で示される仕組みにはなっていないため、どの制度がどこの管轄なのかを知らないままだと、確かめる先にたどり着きにくくなります。
そして、関わってくる制度は年齢や働き方によって入れ替わります。「自分は対象ではないだろう」と手前で判断してしまうより、状況が変わったタイミングで一度たずねてみる、という置き方のほうが確かめやすくなります。
なお、制度の内容は改正されることがあり、要件は人によって変わるため、最新の内容は年金事務所やハローワークなど所管の窓口でご確認ください。
2. 【老齢年金】本体に加わる2つの上乗せ|加給年金と老齢年金生活者支援給付金
老齢年金を受け取っている方のうち、一定の要件に当てはまる場合には、本体の年金へ上乗せされる制度が2つ関わってきます。該当するかどうかはいずれも人によって変わりますので、ここでは仕組みと2026年度の金額のほうを確かめておきます。
2.1 「加給年金」は年下の配偶者や子どもがいるときに加算される
厚生年金に20年以上加入していた方が65歳を迎えた時点で、生計を維持している年下の配偶者や子どもがいる場合に加算されるのが加給年金です。年金版の家族手当にあたる役割のものと説明されます。
加給年金の支給要件として示されているもの
- 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)
- 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)
(※)または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年
年金への上乗せが起きるのは、上記のタイミングで「65歳未満の配偶者」または「18歳到達年度の末日までの間の子、または1級・2級の障害の状態にある20歳未満の子」がいる場合です。
一方で、配偶者の側が老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上あるもの)や退職共済年金(組合員期間が20年以上あるもの)を受給する権利を持っているとき、あるいは障害厚生年金・障害基礎年金・障害共済年金などを受給しているときには、配偶者加給年金額が支給停止となる取り扱いです。
2026年度に示されている加給年金の額
2026年度の年額として示されている加給年金の年金額は、次のとおりです。
- 配偶者:24万3800円
- 1人目・2人目の子:各24万3800円
- 3人目以降の子:各8万1300円
これとは別に、配偶者の加給年金額には3万6000円から17万9900円の特別加算額が支払われ、その額は老齢厚生年金を受給中の人の生年月日によって決まります。同じ配偶者分であっても、生年月日しだいで1年あたりの額に幅が出るということです。
配偶者側の年金へ移る「振替加算」
配偶者が65歳になると加給年金は終了しますが、一定の要件を満たす場合には、今度は配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」という形で一定額が引き継がれます。加算の対象が本人から配偶者へ移る、という流れです。配偶者の年齢が上がることで扱いが切り替わるため、家族の状況が変わる場面と結びついた制度でもあります。
2.2 「老齢年金生活者支援給付金」は所得や世帯収入が基準を下回るときに関わる
老齢基礎年金を受け取っている方のうち、所得や世帯収入が一定の基準を下回っている場合に、生活の底上げを目的として支給されるのが老齢年金生活者支援給付金です。年金本体とは根拠となる法律が別に置かれており、「給付金」という位置づけになります。
対象になる人として示されている条件
- 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
- 同一世帯の全員が市町村民税非課税
- 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)である
※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれない
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下である方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される
給付基準額と、実際の額の求め方
老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は、2026年度で月額5620円となり、前年度より3.2%増額されました。実際に支給される額は、この基準額を出発点として、保険料の納付状況等に応じて算出される仕組みになっています(下記①と②の合計額)。
- ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480月
- ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1768円× 保険料免除期間 / 被保険者月数480月
※②で保険料免除期間に乗ずる金額は、毎年度の老齢基礎年金の額の改定に応じて変わります。
基準額がそのまま全員に支払われるのではなく、納付済みの月数がどれだけあるかによって金額が動く組み立てです。世帯の課税状況が変われば対象かどうかも変わりますので、その時点の記録と課税の状況を確かめないと、自分の場合の金額は分かりません。
2.3 受け取り始める時期を後ろにずらすときに重なってくる加給年金の扱い
年金を受け取り始める時期を後ろにずらす繰下げを検討する場面では、加給年金との関係も一緒に見ておきたいところです。老齢厚生年金の繰下げを待っている間は、原則として本来受け取れるはずの加給年金も支給停止となる取り扱いになっています。配偶者の年齢や待機した期間によっては、受け取らずに済ませた加給年金の総額が大きくなり、繰下げによる増額分を圧迫する可能性があります。
一方で、老齢基礎年金のみを繰下げて老齢厚生年金は65歳から受け取るという選び方をした場合は、厚生年金の受給にともなって加給年金を受け取ることが可能とされています(この場合、厚生年金自体の増額はありません)。増額率だけで比べるのではなく、世帯全体で受け取れる総額のほうを並べて考える、という見方もできます。
3. 【雇用保険】勤め先や働き方が変わる場面で関わってくる3つの給付
就労に関連する給付金や手当についても見ていきます。シニアの就労を支える制度は整いつつあるものの、一般的には60歳を境に収入が下がる傾向があります(※)。就職活動や就労の継続が若い頃と同じようには進まないこともあり、健康や家庭の事情から働き方を変える方も、働くこと自体を選ばない方もいます。ここで扱うのは、雇用保険に加入して働いた期間がある場合に関わってくる仕組みです。
※国税庁「令和6年分 民間給与実態統計調査」による年齢階層別の平均給与:50歳代後半男性735万円、女性356万円、60歳代前半男性604万円・女性294万円、60歳代後半男性472万円・女性240万円
3.1 再就職が早く決まった場合の「再就職手当」
早期の再就職を促すために置かれているのが再就職手当です。失業から再就職まで、あるいは失業から事業開始までにかかった期間が短いほど、支給額が多くなる組み立てです。
再就職手当の支給要件として示されているもの
- 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
- 支給要件:対象者が雇用保険の被保険者となる、または事業主となって雇用保険の被保険者を雇用する場合で、基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給
支給残日数によって分かれる給付率
- 手当の額:就職等をする前日までの失業認定を受けた後の基本手当の支給残日数により下記のとおり給付率が異なります。(1円未満の端数は切り捨て)
- 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
- 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」
なお、再就職手当を受け取ったうえで再就職先に6カ月以上雇用され、その6カ月間の賃金が離職前の賃金よりも少ない場合には、「就業促進定着手当」の対象となります。再就職したあと、しばらく経ってから関わってくる制度という位置づけです。
3.2 賃金の減少が起きたあとに関わってくる「高年齢雇用継続給付」
60歳以上65歳未満の方が働き続ける場面で、賃金が60歳到達時よりも減少している場合に支給されるとされているのが、高年齢雇用継続給付です。
高年齢雇用継続給付の支給要件として示されているもの
- 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
- 支給条件:賃金が60歳到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合
支給率は2025年4月1日以降に見直されている
- 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%
ここで示されている10%は上限にあたる数字で、実際の支給率は賃金の低下の度合いに応じて決まる組み立てになっています。また、老齢年金を受給しながら厚生年金に加入して高年齢雇用継続給付を受け取る場合には、在職による年金の支給停止に加え、最大で標準報酬月額の4%(※)に相当する金額が支給停止となる取り扱いがあります。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%
3.3 65歳以降に離職した場合の「高年齢求職者給付金」
65歳以上の方が失業した場面で支給されるとされているのが、高年齢求職者給付金です。
高年齢求職者給付金の支給要件として示されているもの
- 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
- 支給要件:下記の全ての要件を満たした人
- 離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上ある
- 失業の状態にある:離職し「就職したいという積極的な意思といつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)があり積極的に求職活動を行っているにもかかわらず就職できない状態」を指す
被保険者であった期間で分かれる支給日数
- 支給額
- 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
- 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額
受け取り方にも違いがあります。65歳未満の人が受け取る失業手当は、4週間に一度ずつ失業認定を受けたうえで給付されますが、高年齢求職者給付金のほうは一括で支給されます。
3.4 離職した年齢によって、年金との関係が入れ替わる
もうひとつ、金額を考える前に知っておきたいのが、雇用保険の給付と年金の関係です。65歳未満に支給される「特別支給の老齢厚生年金」は、ハローワークで手続きをして雇用保険の基本手当(失業手当)を受給すると、全額支給停止という扱いになります。停止される期間は、求職の申込みを行った日の属する月の翌月から、失業給付の受給期間が経過する月と所定給付日数を受け終わる月のうち、早いほうの月までです。
失業手当の日額より年金のほうが高かった場合には、結果的に受給の総額が目減りするケースもあり得ます。60歳代前半で退職する場面では、基本手当の受給総額と、支給停止される特別支給の老齢厚生年金の総額を並べて比べたうえで判断する、という進め方が考えられます。
一方、65歳到達日以後に退職した場合は「高年齢求職者給付金」となりますが、65歳以降の老齢年金は雇用保険の給付と調整されないため、同時に受け取れるとされています。同じ「退職」という場面でも、65歳の前か後かで扱いが大きく変わるということです。
制度の内容は改正されることがあり、要件は人によって変わるため、最新の内容は年金事務所やハローワークなど所管の窓口でご確認ください。
4. 【医療・介護・生活】自己負担の上限と払い戻し|加入している保険が変わると案内が途切れることがある
医療費と介護費用は、年齢を重ねるほど家計に占める比重が増していく支出です。こうした場面に備えて、公的医療保険や介護保険の側にも、自己負担に上限を置いたり、あとから払い戻したりする仕組みが用意されています。
4.1 ひと月の医療費がふくらんだ場面で関わる「高額療養費制度」
月の初めから終わりまでにかかった医療費の自己負担額が、年齢や所得ごとに定められた「自己負担限度額」を上回ったときに、その上回った分があとから払い戻される仕組みです。
一般的な所得層(70歳未満・年収約370万〜約510万円)にあたる場合、ひと月の自己負担限度額は「約8万5800円+(医療費から28万6000円を引いた額)の1%」が基本とされています。
注意したいのは、手続きを先に済ませていないときの流れです。事前の手続きがないままだと、退院時の窓口でいったん大きな金額を立て替えることになり、払い戻しを受けられるのは3〜4ヶ月後になります。2026年現在では、マイナ保険証を使うか、あらかじめ「限度額適用認定証」を申請しておくことで、窓口での支払いを最初から上限額までにとどめることが可能とされています。
4.2 「高額介護サービス費」で上限が置かれるのは介護サービスの自己負担分
1ヶ月のあいだに介護保険サービスへ支払った自己負担額(1割〜3割)を合計し、所得に応じた上限額を上回った場合に、その超過分が払い戻される仕組みです。
合計する際に見落とされやすいのが、対象に入らないものの範囲です。「介護施設での食費・居住費(部屋代)・日常生活費」や「特定福祉用具購入費・住宅改修費」は、この計算対象から完全に除外されるという扱いになっています。
たとえば「高額介護サービス費があるから、特別養護老人ホームに入っても月額数万円で済む」と見込んで資金を用意していた場合、計算に含まれない食費や居住費が毎月10万円以上乗ってくることになり、手元が足りなくなる要因になりえます。上限が置かれているのは介護サービスの自己負担分だ、という区別が要ります。
4.3 「高額医療・高額介護合算療養費制度」は年単位で医療と介護をまとめる
世帯で支払った医療費と介護費用の自己負担額を、毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間で足し合わせ、基準額を上回った場合に払い戻しを受けられる仕組みです。
集計の区切りが年ごとに置かれている分、日々の暮らしのなかでは意識に残りにくい仕組みですが、支給の対象となる世帯には、原則として医療保険者のほうから案内が送られてきます。ただし、計算期間の途中で保険の異動があった場合は事情が変わります。「75歳になり後期高齢者医療制度に移行した」「退職して会社の健康保険から国民健康保険に切り替わった」といったケースでは、データが分断されるために案内が届かず、以前の保険者へ自ら申請して合算手続きを行わないかぎり、時効(2年)で消滅してしまうことがあると説明されています。加入している保険が変わる場面では、案内が来ないこと自体は対象外である証明にはならない、と押さえておきたいところです。
4.4 「臨時給付金・自治体の支援」は住民税非課税世帯が対象になる
政府や自治体からは、物価高騰への対策として、「住民税非課税世帯」を対象にした7万円や10万円の臨時給付金が支給されることがあります。その時々の補正予算や地方交付金を活用した、一時的な給付という位置づけです。
判定のところで押さえておきたいのが、扶養の状況の扱いです。「住民税が課税されている方(別居の家族などを含む)の税法上の扶養親族等のみで構成されている世帯」については、世帯分離をして住民票上は非課税の単身世帯になっていたとしても、給付の対象外(不該当)とされます。住民票のうえでどういう世帯になっているかではなく、税法上の扶養状況のほうが判定に影響してくるということです。
4.5 世帯の形を変えるときは、負担が増える側も並べて見る
医療や介護の軽減制度をめぐっては、「世帯を分ければ住民税非課税世帯になり、上限も下がって臨時給付金の対象にもなる」という理解が先に立ってしまうことがあります。ただ、世帯分離を行った結果、会社の健康保険の扶養から外れて国民健康保険料と介護保険料が単独で請求され、かえって年間の負担が増えるという場合もあります。
軽減の制度は、税金や社会保険料の負担がどう動くかとセットで見ておくと、判断の材料がそろいます。世帯の形が変わる場面は、確かめる項目がいくつも同時に動く場面でもあります。
5. 2025年6月に成立した年金制度改正|遺族厚生年金の見直しと在職老齢年金の基準額
働き方や家族構成が多様になっていることに合わせて年金制度を整えることが、2025年6月に成立した「年金制度改正法」の大きな狙いのひとつに置かれています。盛り込まれたのは、いわゆる「106万円の壁」の撤廃に関連する社会保険の加入要件の拡大や、遺族年金に関する見直しといった内容です。
5.1 男女差の解消に向けて示された遺族厚生年金の見直し
現在の遺族厚生年金のしくみには、受給者が男性か女性かによって、次のような差がありました。
現行の遺族厚生年金の組み立て
- 女性
- 30歳未満で死別:5年間の有期給付
- 30歳以上で死別:無期給付
- 男性
- 55歳未満で死別:給付なし
- 55歳以上で死別:60歳から無期給付
男女で扱いが分かれてきたこの部分の見直しは、2028年4月から施行される予定とされています。
2028年4月から施行が予定されている要件
男女それぞれについて、「原則5年間の有期給付」の対象となるための要件が細かく定められました。
- 女性:施行直後(2028年4月)に原則5年間の有期給付の対象となるのは、「18歳年度末までのこどもがいない、2028年度末時点で40歳未満の方」です。(※既に遺族厚生年金を受給している方や、2028年度に40歳以上になる女性は見直しの影響を受けません。)
- 男性:新たに5年間の有期給付を受けられるようになるのは、「18歳年度末までのこどもがいない60歳未満の方」です。
- こどもがいる場合:18歳年度末までのこどもがいる場合は、こどもが18歳年度末になるまでは現行制度と同じであり、見直しの影響はありません。こどもが18歳になった後、さらに5年間は増額された有期給付および継続給付の対象となります。
5.2 拡充が示された有期給付・継続給付の中身
金額の水準と要件という点では、支えが要る状況にある方への給付についても、具体的な内容が示されました。
- 有期給付の増額:有期給付には新たに「有期給付加算」が上乗せされ、現在の遺族厚生年金の額の約1.3倍となります。
- 継続給付(5年目以降の給付継続)の要件:5年間の有期給付終了後も、障害状態にある方や収入が十分でない方は、引き続き増額された遺族厚生年金を受給できます。単身の場合、就労収入が月額約10万円(年間122万円)以下の方は継続給付が全額支給され、概ね月額20〜30万円を超えると全額支給停止となります。
今回の改正には、遺族基礎年金の見直しもあわせて盛り込まれています。同一生計にある父または母が遺族基礎年金を受け取れなかったケースについても、2028年4月からは、こどもが単独で遺族基礎年金を受け取れるようになるとされています。
5.3 65万円へ引き上げられた在職老齢年金の基準額
一方で、働きながら年金をもらうと年金が減額される「在職老齢年金」の仕組みについては、就労意欲を阻害しているとの指摘を受け、減額される基準額が65万円に引き上がりました。働きながら年金を受け取るという場面に、直接関わってくる見直しです。
これらは施行の時期が先の内容を含みます。制度の内容は改正されることがあり、要件は人によって変わるため、最新の内容は年金事務所やハローワークなど所管の窓口でご確認ください。
どのくらいの金額を受け取っている人が多いのかは、【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!私的年金の見直しで押さえておきたいポイントで確認できます。
6. 勤め先や暮らしが変わるときは、公的な制度と自分で積み立ててきたものの手続きが重なる
ここまで見てきた制度に共通しているのは、関わってくるかどうかが「そのときの状況」で決まるという点です。60歳を迎えて賃金が下がった、退職した、再就職した、65歳になった、配偶者が65歳になった、加入している健康保険が変わった。そうした場面のたびに、確かめる先も、対象になり得る制度も入れ替わっていきます。ひとつ覚えれば済むという形にはなっていません。
そして、確かめる項目が増えるのは公的な制度だけではありません。勤め先が変わる場面では、自分で積み立ててきたものについても、そのまま続けるのか、勤め先の制度のほうへ移すのかといった届け出が求められる場合があります。公的なお金と自分で積み立ててきたものは、管轄も書類も別々ですが、「暮らしが変わったときに手続きが要る」という点では同じ時期に重なってきます。
なお、自分で積み立てるもののうち、運用の要素を含むものには価格変動リスクがあり、受け取る時点の値動きによっては元本割れとなる場合もあります。金額があらかじめ決まっているのか、そのときの状況によって変わるのかという違いも、公的な給付と並べて見るときの区別のひとつになります。
確かめる先は分かれています。公的な制度については年金事務所・ハローワーク・市区町村が窓口になり、自分で積み立ててきたものについては勤め先の担当窓口や、制度を実施している機関が確かめる先です。どちらも、変わったときに一度たずねてみる、という動き方は共通しています。
7. 働き方が変わる場面で寄せられることの多い3つの質問
ここでは、退職や再就職の前後で挙がりやすい質問を3つに絞って整理します。当てはまるかどうかは一人ひとりの状況で変わってきますので、最終的な判断については所管の窓口で確かめていただく前提としてお読みください。
7.1 配偶者の社会保険の扶養には、失業手当の受給中でも入れるのか
分かれ目になるのは、失業手当(基本手当)の「日額」です。失業手当は非課税ですので所得税の計算には入りませんが、健康保険の扶養審査のほうでは「収入」として厳格にカウントされます。日額が60歳未満で3612円(年収換算130万円未満)、60歳以上で5000円(年収換算180万円未満)を超えている場合には、手当を受給している期間中、配偶者の扶養に入ることはできず、自分で国民健康保険に加入して保険料を支払う必要があります。
7.2 役所から案内が届かない場合は、対象ではないということなのか
そうとは限りません。年金生活者支援給付金のようにハガキが届くものもありますが、加給年金、高年齢雇用継続給付、失業手当などは、すべて「自己申告(申請主義)」です。条件を満たしていても役所から案内は来ません。自分で年金事務所やハローワークに出向き、対象になるかどうかをたずねるところから手続きが始まります。
7.3 失業手当と特別支給の老齢厚生年金、選ぶならどちらになるのか
答えを出すには、個別の「年金額」と「失業手当の日額・給付日数」を並べて比較計算する必要があります。現役時代の給与が高く、失業手当の日額が高い人であればハローワークで手続きをしたほうが多くなりますし、逆に給与が低めで年金加入歴が長い人の場合は、失業手当を受けずに年金をもらい続けたほうが、トータルの受取額が多くなることもあります。退職前の段階で最寄りの年金事務所に年金見込額を出してもらい、ハローワークの失業手当計算ツール等で試算してみる、という進め方が考えられます。
8. 【独自試算】退職・再就職・65歳到達など、場面が変わるごとに確認が必要になる制度はどう入れ替わるか
ここまで見てきたとおり、公的なお金は、いつでも同じものが対象になるわけではありません。そこで、この記事で扱った制度だけを使って、「働き方や家族の状況が変わる場面」ごとに、確認が必要になる制度と確かめる先がどう入れ替わるかを並べてみます。金額の大小を比べるものではなく、場面と制度の対応を整理するための試算です。
前提は次のとおりです。ここに挙げた制度に該当するかどうかは、年齢・雇用保険の被保険者期間・厚生年金の加入期間・配偶者の状況・世帯の課税状況などによって、人それぞれ変わります。場面に当てはまれば受け取れるという意味ではなく、「その場面では、この制度が関係してくる可能性があるので確かめる対象になる」という並べ方をしています。離職や退職そのものを避けるべきものとして扱う趣旨ではなく、健康や家庭の事情で働き方を変える選び方も同じように含めています。
- 扱う制度は、この記事で取り上げたものに限る(記事に出てこない制度は含めていない)
- 金額はこの記事に示した2026年度などの数字をそのまま置く。試算のために新たに置いた金額はない
- 受給の要件・期限・手続き先は、この整理では確定したものとして扱わない
場面A:60歳を迎え、賃金が下がった状態で働き続けることになった
- 確認の対象になり得るもの:高年齢雇用継続給付(60歳以上65歳未満、雇用保険の被保険者期間5年以上、賃金が60歳到達時の75%未満という条件が示されている。支給額は最高で賃金額の10%相当額、2025年3月31日以前に要件を満たす人は15%)
- 同時に見ておきたいもの:老齢年金を受給しながら厚生年金に加入して受け取る場合、在職による支給停止に加え、最大で標準報酬月額の4%(同じく2025年3月31日以前に要件を満たす人は6%)が支給停止になる取り扱い
- 確かめる向き:ハローワークと年金事務所の両方にまたがる
場面B:60歳代前半で退職し、失業手当の手続きを考えている
- 確認の対象になり得るもの:雇用保険の基本手当(失業手当)
- 同時に見ておきたいもの:基本手当を受給すると、その期間は65歳未満に支給される「特別支給の老齢厚生年金」が全額支給停止となる取り扱い。日額と年金額の関係によっては、受給の総額が目減りするケースもあり得るとされている
- あわせて動くもの:健康保険の扶養(60歳以上は日額5000円、年収換算180万円未満が目安として示されている)
- 確かめる向き:ハローワーク、年金事務所、健康保険の保険者と3方向に広がる
場面C:65歳到達日以後に退職した
- 確認の対象になり得るもの:高年齢求職者給付金(被保険者であった期間が1年未満なら30日分、1年以上なら50日分の基本手当相当額。一括で支給される)
- 場面Bとの違い:65歳以降の老齢年金は雇用保険の給付と調整されないとされており、年金の支給停止という論点が外れる
- 確かめる向き:ハローワークが入り口になる
場面D:離職したあと、早めに再就職が決まった
- 確認の対象になり得るもの:再就職手当(支給残日数が所定給付日数の3分の1以上で60%、3分の2以上で70%という給付率が示されている)
- 半年後にもう一度出てくるもの:再就職先で6カ月以上雇用され、その6カ月間の賃金が離職前より少ない場合の就業促進定着手当
- 確かめる向き:ハローワーク。再就職した時点で終わりではなく、6カ月後にもう一度確かめる場面がある
場面E:自分が65歳になった、または配偶者が65歳になった
- 自分が65歳:加給年金(2026年度の年額で配偶者24万3800円、1人目・2人目の子が各24万3800円、3人目以降の子が各8万1300円。生年月日により3万6000円から17万9900円の特別加算額)、老齢年金生活者支援給付金(65歳以上の老齢基礎年金の受給者という条件)
- 配偶者が65歳:加給年金は終了し、一定の要件を満たす場合に配偶者自身の老齢基礎年金へ「振替加算」として引き継がれる
- 確かめる向き:年金事務所。自分の年齢だけでなく、配偶者の年齢でも切り替わる点が特徴
場面F:世帯の課税状況が変わった、または加入している健康保険が変わった
- 課税状況が変わった場合に確認の対象になり得るもの:老齢年金生活者支援給付金(同一世帯の全員が市町村民税非課税、前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下という条件。給付基準額は月額5620円)、住民税非課税世帯を対象とした7万円や10万円の臨時給付金
- 健康保険が変わった場合:高額医療・高額介護合算療養費制度(毎年8月1日から翌年7月31日までの1年間で合算する制度。保険の異動があるとデータが分断されて案内が届かず、自ら申請しないと時効2年で消滅することがあると説明されている)
- 確かめる向き:市区町村、年金事務所、以前に加入していた保険者と分かれる
場面G:働きながら年金を受け取っている、または家族の状況が変わった
- 働きながら受け取る場合:在職老齢年金(減額される基準額が65万円に引き上げられた)
- 家族の状況が変わった場合:遺族厚生年金(男女差をめぐる見直しは2028年4月から施行される予定とされ、有期給付には「有期給付加算」が上乗せされて現在の額の約1.3倍。継続給付は単身で就労収入が月額約10万円、年間122万円以下の場合に全額支給とされている)
- 確かめる向き:年金事務所。施行が先の内容を含むため、そのときに調べ直す前提で押さえておく
7つの場面を並べてみると、まず見えてくるのは、同じ「退職」という出来事でも、65歳の前か後かで確かめる項目が入れ替わるという点です。場面Bでは基本手当と特別支給の老齢厚生年金の関係が中心になりますが、場面Cではその論点が外れ、高年齢求職者給付金の日数の話に移ります。退職した時期が65歳の前か後かというだけで、確かめる先も、比べる材料も変わるということです。
もうひとつは、場面によっては、ひとつの出来事に複数の窓口が同時に関わってくるという点です。場面Aはハローワークと年金事務所の両方、場面Bはそこに健康保険の保険者が加わります。場面Fでは市区町村と年金事務所に加え、以前に加入していた保険者まで関係してきます。一方で、場面Cや場面Dのようにハローワークが入り口になるもの、場面Eや場面Gのように年金事務所で確かめられるものもあります。制度ごとに管轄が分かれているため、確かめる先がいくつになるかは場面によって変わります。
そして、場面Dのように、その場では終わらず、あとからもう一度出てくるものもあります。再就職手当を受け取ったあと、6カ月経ってから就業促進定着手当の話が出てくる形です。手続きが済んだ時点でその場面が閉じるとは限らない、という並びになっています。
この整理から読み取れるのは、制度を先に全部覚えておくよりも、場面が変わったときに「今はどの制度が関係する時期なのか」を確かめるという順番のほうが、実際には追いかけやすいということです。そして、この考え方は公的な制度だけのものではありません。勤め先が変わる場面では、自分で積み立ててきたものについても届け出が要る場合があり、同じ時期に手続きが重なります。
なお、この整理は記事に示した情報をもとに場面と制度を対応させたものであり、受給の要件・期限・手続き先を確定させるものではありません。制度の内容は改正されることがあり、要件は人によって変わるため、最新の内容は年金事務所やハローワークなど所管の窓口でご確認ください。


