個人の資産形成を後押しするNISAが「新NISA」として新しくなったのは2024年で、2026年の夏で3年目に入りました。8月はまとまった休みを取る方が多く、家計や手元の資産をあらためて見渡す時間をつくりやすい時期でもあります。
そのときに迷いやすいのが、預貯金として置いてあるまとまったお金の扱いです。この記事では、毎月10万円を15年積み立てて、その後15年そのまま持ち続けた場合の到達額と、毎月3万円を40年続けた場合の到達額を確かめたうえで、値動きをどこまで受け入れられるかという考え方、始める年齢による運用期間の違い、取り崩し期の目安として知られる4%ルールまでを整理します。あわせて、手元のまとまった資金を一度に入れた場合と分けて入れた場合で、値上がりが続いたときと途中で値下がりがあったときに結果がどう違うかを試算します。
なお、毎月10万円を15年積み立てた場合や、毎月3万円を40年続けた場合のシミュレーションに関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 毎月10万円を15年入れ続け、その後は動かさずに置いた場合の到達額
毎月10万円を15年積み立てたあと、そのまま15年持ち続けた場合の試算は、「【新NISAシミュレーション】月10万円×15年積立+放置で資産はどう化ける?月3万円の少額戦略も公開」で示されています。まずは、その数字から確かめていきます。
投資には元本割れとなる可能性がありますが、長い期間にわたって積み立てを続けることで、資産形成につながる場合があります。ここでは、つみたて投資枠を使い、金融庁「NISAの活用事例」を参考にした前提で置かれた試算を見ていきます。
1.1 積立15年と保有15年、一律年利3%で置いた場合の到達額
この前提で置かれた最終的な資産額は、約3525万円です。
毎月10万円という金額は、つみたて投資枠で1年間に投資できる上限にあたる水準です。この金額を15年続けると、生涯にわたって非課税で保有できる限度額まで使い切る形になります。
そのうえで、積み立てを終えたあとも15年間そのまま運用を続け、年利3%で資産が増えたと置いた場合に、約3525万円になるという計算です。年利3%は計算のために置かれた前提であり、この利回りが得られることを示すものではありません。
2. 毎月3万円を40年続けた場合の試算|金額と年数の組み合わせで結果は動く
とはいえ、毎月10万円を積み立てるのは負担が大きいと感じる方も少なくありません。そこで、毎月3万円を40年間続けたケースも並べて確かめます。
2.1 毎月3万円で40年、一律年利3%で置いた場合の到達額
この場合の結果は、親記事から次のとおり引用します。
- 約2752万円(元本1440万円)
毎月3万円であれば、家計の見直しによって捻出しやすいと感じる方もいるかもしれません。こちらも年利3%で運用できたと仮定した試算ですが、40年間にわたり元本1440万円を積み立て続けることで、最終的な資産額は約2752万円になる見込みとされています。
毎月の積立額が比較的少なくても、40年という長い時間を確保することで、資産を大きく育てられる可能性があります。金額の大きさだけでなく、どれだけの年数を確保できるかによって、結果の見え方が変わってくるということです。
投資には価格変動のリスクが伴いますが、制度の仕組みを理解しながら使うことで、老後資金づくりの選択肢の一つになるという考え方もあります。
3. 新NISAとは何か|2024年の改正で変わった点をあらためて確かめる
2024年に制度改正が行われた「新NISA」は、投資で得た利益を非課税で保有できる仕組みを大きく拡充したものです。
従来のNISAと比べて年間の投資枠が広がったほか、非課税で保有できる期間も無期限になったことで、長い期間を前提とした資産形成に取り組みやすくなった点が、大きな特徴として挙げられます。
非課税という言葉は、利益に対する税金の扱いに関わる部分です。中身の値動きそのものが穏やかになるという意味ではありませんので、器の話と中身の話を分けて眺めておくと、このあとの判断がぶれにくくなります。
なお、枠の内容や対象となる商品の範囲、税制上の取り扱いは、制度の改正によって変わることがあります。最新の内容は金融庁などの公的機関の情報や、関連する窓口でご確認ください。
4. 入れ方を決める前に|自分がどこまでの値下がりに耐えられるかを確かめる
新NISAなどを使って投資を始めるときに、あわせて意識しておきたいのが「どの程度の値動きまで受け入れられるか」を示す「リスク許容度」という考え方です。
リスク許容度とは、保有している資産が一時的に値下がりしたときに、家計の面や気持ちの面でどの程度まで耐えられるかを示す目安をいいます。「10%下落しても長期投資だから気にならない」という人もいれば、「5%下がっただけで不安になる」という人もいます。
この目安は、主に次のような要素によって変わります。
- 年齢や運用期間:長期間の運用ができる(若い)ほど、一時的な下落から回復する時間を確保しやすい。
- 収入・余裕資金の有無:日々の生活費やいざという時の予備資金が手元にあるほど、リスクに耐えやすい。
- 投資経験・性格:値動きに対する精神的な耐性は人それぞれ異なる。
具体的には、「もし投資資産が20%下落したら、自分の生活や気持ちにどのような影響が出るか」を想像してみると、考える手がかりになります。生活費に支障が出ないか、そのときも保有を続けていられそうか、といった形で確かめる方法です。金融機関が用意しているリスク許容度の診断ツールを使い、自分の傾向を客観的に把握してみるのも一つの方法です。
手元のまとまったお金の入れ方で迷ったときも、この目安が判断の材料になります。値下がりしたときに慌てて売ってしまう、あるいは途中で手が止まってしまうという事態を避けやすくなるためです。
5. 始める年齢で変わる運用期間|複利がはたらく時間の長さを見る
新NISAを使った資産形成では、「毎月いくら積み立てるか」に関心が集まりがちです。ただし、長い期間を前提とした運用では、「何歳から始めるか」も将来の資産額に大きく関わってきます。
その理由は、運用で得た利益がさらに利益を生む「複利」のはたらきにあります。同じ金額を積み立てても、運用にあてられる期間が長いほど、資産が成長する時間を確保しやすくなるためです。
5.1 複利のはたらきは、時間が長いほど大きくなる
資産運用では、運用によって得られた利益をふたたび投資に回すことで、利益がさらに利益を生む効果が期待できます。
たとえば、毎月同じ金額を積み立てた場合でも、運用期間が10年と30年では資産の増え方に大きな差が生じます。長い期間にわたって運用益が積み重なり続けるためです。
そのため、資産形成では利回りや積立額だけでなく、「どれだけ長く運用できるか」も見ておきたい要素になります。
5.2 20歳代から50歳代まで、確保できる年数はどれだけ違うか
仮に65歳まで積立投資を続けるとした場合、始める年齢によって運用期間には次のような差が生じます。
- 20歳から始める場合:45年間
- 30歳から始める場合:35年間
- 40歳から始める場合:25年間
- 50歳から始める場合:15年間
同じ毎月3万円の積立でも、20歳代と50歳代では30年もの差があります。長い期間を前提とした運用では、この年数の差が将来の資産額に大きく影響する可能性があります。若いうちから始めるほど、毎月の積立額を無理に増やさなくても資産形成を進めやすくなる、という関係です。
5.3 何歳からでも、始める価値はある
ただし、資産運用に取り組めるのは若い世代に限られるわけではありません。
実際には、住宅ローンや教育費の負担が落ち着いた40歳代後半から50歳代になって、老後資金づくりを始める方も多くいます。近年は定年の延長や再雇用の制度が広がり、60歳代以降も働き続ける方が増えていることから、運用に取り組める期間も以前より長くなっています。
新NISAでは非課税で保有できる期間が無期限になったため、退職後も運用を続けながら資産を使っていくことができます。
若いうちから始めるほど年数を確保しやすいのは確かですが、資産形成で見ておきたいのは「もっと早く始めればよかった」と振り返ることではなく、「これから始めるかどうか」です。自分に合ったペースで早めに動き出すことが、将来の選択肢を広げることにつながります。
6. 増やしたあとの使い方|4%ルールという取り崩しの目安
新NISAなどの資産形成では「どのように増やすか」に関心が集まりやすいものですが、老後を迎えたあとは「どのように使うか」も同じくらい大きなテーマになります。資産は積み上げるだけで終わりではありません。
現役を引退したあとは、公的年金だけでは足りない生活費を、これまで築いた資産を取り崩しながら補っていく「取り崩し期」に入ります。
家計調査で世帯主が75歳以上の無職世帯(二人以上の世帯)を見ると、年金による収入だけでは毎月の生活費に届かず、平均で約2万7000円を貯蓄の取り崩しで埋めている姿が示されています。
6.1 取り崩しの目安として知られる「4%ルール」
4%ルールは米国で提唱されたもので、資産残高の4%を毎年の目安として少しずつ取り崩していけば、長い期間にわたって資産が尽きにくいとする考え方をいいます。取り崩す金額の目安は、親記事から次のとおり引用します。
- 2000万円 → 年80万円(月約6万6000円)
老後は公的年金が家計の中心的な収入源になりますが、それに加えて毎月数万円を資産から補う形で考えると、将来の生活設計を思い描きやすくなります。
6.2 一度に使わず、少しずつ取り崩していく考え方
老後資金は、まとまった金額を一気に使うのではなく、毎月一定額を少しずつ取り崩していくのが基本的な考え方とされています。
- 年金不足分だけ補う
- 医療費や介護費に備える
- 相場下落時の売却を避ける
といった目的に合わせやすくなり、資産を持たせられる年数を延ばすことにもつながります。平均寿命が延びるなかでは、「どれだけ増やせるか」だけではなく、「どれだけ長く持たせられるか」という視点も大切になってきます。
6.3 そのまま当てはめるには注意も必要
ただし、4%ルールは海外市場の長期データをもとにした考え方であり、日本でも同じように通用するとは限りません。実際には、
- 年金額
- 持ち家か賃貸か
- 医療・介護費
- 夫婦か単身か
などによって必要な生活費は大きく変わります。そのため、「4%なら大丈夫」と考えるのではなく、自分の家計で毎月どの程度不足するのかを把握しておくことが大切です。
6.4 増やすだけでなく、使いながら守るという見方へ
資産形成では、何に投資するかに関心が集まりがちです。しかし老後が近づくにつれて大きくなるのは、「資産をどう取り崩し、どう長持ちさせるか」という問いのほうです。
新NISAは資産形成を後押しする制度ですが、最終的に老後の生活費としてどう使うのかまで見据えることで、より現実的な計画につながっていきます。
7. 始める前に押さえておきたい点|対象商品の広がりと損益通算の扱い
新NISAを使うときは、制度の利点だけでなく、事前に理解しておきたい点にも目を向けておきたいところです。
新NISAは、年間投資枠の拡充や非課税期間の恒久化によって、従来より使いやすい制度へと変わりました。一方で、長い期間にわたる運用を前提とするため、自分のリスク許容度を把握し、将来どのタイミングで資産を取り崩すのかも考えておく必要があります。
投資を続けていると、相場が大きく下落する局面に出あう可能性もあります。実際に株式市場は長期的には成長を続けてきましたが、その過程では何度も急落を経験してきました。そのため、価格変動リスクを理解したうえで、「値下がりしたときにどう行動するか」をあらかじめ考えておくことが大切です。
また、何を選ぶかも押さえておきたい点の一つです。金融庁が公表している「つみたて投資枠対象商品届出一覧」によると、対象は継続的に見直しや追加が行われており、現在は300本を超える商品が対象となっています。選択肢が豊富だからこそ、人気があるからという理由だけで決めるのではなく、長い期間持ち続けられるか、自分の方針や目的に合っているかを確かめながら選ぶという考え方があります。
あわせて、NISA口座には通常の課税口座とは違う税制上の扱いもあります。その一つが「損益通算」を使えない点です。ほかの口座で出た利益と、NISA口座のなかで生じた損失を相殺する、という処理はできません。
加えて、損失を翌年以降へ持ち越せる「繰越控除」も利用できません。こうした税制上の取り扱いは改正によって変わることがありますので、実際に手続きを進める前に、国税庁などの公的機関の情報や関連する窓口でご確認ください。
8. 手が止まったときに|今日からできる3つの段取り
制度の仕組みや注意点は分かったものの、具体的に何から手をつければよいのか迷ってしまう、という声をうかがうことがあります。
最初から完璧を目指さず、小さく動き出してみるという進め方もあります。ここでは、今日から取りかかれる3つの段取りを挙げます。
8.1 段取り1:金融機関を決めて口座を用意する
まずは、非課税で運用できる制度の口座を開くところからです。取扱本数や手数料の水準、使い勝手は金融機関によって違いがありますので、いくつか見比べたうえで決める形になります。スマートフォンと本人確認書類があれば、オンラインで手続きを進められるところも増えています。
8.2 段取り2:生活に響かない金額で試してみる
最初から上限や高めの目標を置く必要はありません。日々の暮らしに支障が出ない範囲の金額から始めて、値動きのある資産を持つ感覚に慣れていく、という進め方もあります。金額はあとから増やすことも減らすこともできます。
8.3 段取り3:設定したあとは、見る回数をあらかじめ決めておく
自動での積立の設定が終わったら、日々の値動きや評価損益を頻繁に見にいくのは控えめにしておく、という考え方があります。長い期間を前提とした運用で結果を左右しやすいのは、一時的な値下がりに動揺して途中でやめてしまうことだからです。月に1度、年に2度といった形で見る回数を決めておくと、値動きとの距離を保ちやすくなります。
想定利回りごとの到達額は、【新NISA】毎月5万円を15年運用するといくら?50歳から始める利回り別シミュレーションで確認できます。
9. 【独自試算】手元の300万円を一度に入れた場合と12カ月に分けた場合、値上がりが続いたときと値下がりがあったときで5年後はどう違うか
ここまでは、毎月一定額を積み立てていく形を前提に見てきました。一方で、すでに手元にまとまったお金がある場合には、それを一度に入れるか、何回かに分けて入れるかという迷いが出てきます。そこで、同じ金額を2通りの入れ方で投じたと仮定し、値動きの異なる2つの相場で5年後の目安がどうなるかを並べてみます。どちらの入れ方がよいかを示すためのものではありません。
前提は次のとおりです。
- 手元の資金は300万円とし、どちらの入れ方でも投じる合計額は同じとする
- 入れ方A:開始の時点で300万円をまとめて投じる
- 入れ方B:毎月25万円ずつ12カ月に分けて投じる(投じるまでの待機分は値動きしないものとする)
- 評価するのは、いずれも開始から5年後(60カ月後)の時点とする
- 月ごとの利回りは、年率をそのまま12で割るのではなく、(1+年率)の12分の1乗から1を引いて求める
- 税金・手数料は考慮しない
相場の置き方は2通りです。相場①は「値上がりが続いた場合」として、5年を通じて年率5%で推移したと置きます。相場②は「途中で値下がりがあった場合」として、最初の12カ月は年率マイナス20%で下がり、13カ月目からの48カ月は年率5%で推移したと置きます。いずれも計算のために仮に置いた数字であり、相場の見通しを示すものではありません。
9.1 相場①:値上がりが続いた場合の5年後
- 入れ方A(一度に300万円):約383万円
- 入れ方B(12カ月に分けて):約374万円
差は10万円弱で、一度に入れたほうが多く残る計算になりました。値上がりが続いた相場では、早く入れた分だけ運用に回っている期間が長くなるためです。分けて入れた場合は、あとから入れる分の買値が高くなっていくことになります。
9.2 相場②:途中で値下がりがあった場合の5年後
- 入れ方A(一度に300万円):約292万円
- 入れ方B(12カ月に分けて):約324万円
差は約32万円で、こんどは分けて入れたほうが多く残る計算になりました。下がっている期間に買う分があるため、平均の買値が下がる形になるためです。なお、入れ方Aは5年後の時点でも投じた300万円を下回っており、元本割れの状態が続いている計算になります。
9.3 分けて入れても、値下がりそのものは避けられない
ここで確かめておきたいのが、相場②の途中経過です。下落が終わった12カ月後の時点で見ると、入れ方Aは約240万円、入れ方Bは約266万円でした。入れ方Bはこの時点で300万円をすべて投じ終えていますので、どちらの入れ方でも投じた金額を下回っています。
「分けて入れれば値下がりを避けられる」と受け止められることがありますが、そうではありません。分けて入れても、すでに買った分は相場が下がれば同じように値下がりします。入れ方の違いによって変わるのは、買う時期がばらけることで、ある時点での落ち込み方が緩やかになりやすいかどうか、という部分です。価格変動のリスクや元本割れの可能性そのものは、入れ方を変えても消えません。
9.4 どちらが有利かではなく、下がったときに続けられるかで考える
2つの相場を並べると、多く残るほうが入れ替わりました。値上がりが続いた相場では一度に入れたほうが、途中で値下がりがあった相場では分けて入れたほうが、それぞれ結果が大きくなっています。どちらの相場になるかは事前には分かりませんので、この試算からどちらの入れ方が有利かを決めることはできません。
そのため、判断の軸として置きたいのは、有利かどうかではなく、下がったときに自分が続けられるかどうかという点です。相場②の12カ月後のように、投じた金額を下回る状態を目の前にしたときに、慌てて売らずにいられるか。その答えは入れ方によっても、金額の大きさによっても変わってきます。手元の資金を一度に入れる形が気持ちの負担になりそうであれば、分けて入れる形を選ぶ理由になりますし、その逆もあります。
なお、ここで示した金額はいずれも、置いた前提のとおりに推移した場合の目安です。年率5%やマイナス20%は計算のために仮に置いた数字であり、この水準になることを示すものではありません。実際の運用には価格変動があり、元本割れとなる可能性があります。将来の金額を保証するものでもありません。また、無理のない金額や適した入れ方は、収入や家族構成、そのお金を使う時期によって変わりますので、ご自身の状況に当てはめて考えていただく必要があります。


