公的年金の金額は年度ごとに見直されており、2026年度は4年度連続の増額改定となりました。8月は偶数月にあたり、改定後の金額が振り込まれる月でもあります。

一方、現役世代のなかには、月ごとに手取りが一定にならない働き方をしている方もいらっしゃいます。収入が下がった月に、それまで決めていた毎月の積立額をどうするか。相談の場では、減額してよいものか判断がつかないまま、そのまま無理を重ねてしまうという声をよくうかがいます。

この記事では、老後の収入の土台になる公的年金について、2026年度に示された金額と、実際に受け取られている厚生年金の水準を確認します。そのうえで、積立額を設定し直すときの考え方を整理していきます。

松本 真奈
積立額を下げてよいかというご相談をいただくとき、金額の話から入ると答えが出にくくなります。相談の場では先に、老後にどれだけの収入が見込めるのかという土台のほうを確かめるようにしています。土台の高さがわかると、毎月いくら積み上げる必要があるのかという問いに戻ってこられるためです。まずは公的年金がどのように組み立てられているかから見ていきましょう。

なお、公的年金の仕組みや平均受給額に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。

【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!私的年金の見直しで押さえておきたいポイント
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【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説
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1. 毎月1万7920円は収入が変わっても同じ|国民年金と厚生年金で保険料の決まり方が違う

毎月の積立額を設定し直すときに手がかりになるのが、老後にどこまで公的年金でまかなえるのかという見通しです。その見通しを立てる前に、公的年金がどう組み立てられているかを押さえておきましょう。

制度の中身については、LIMOの記事「【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説」から要点を引用して確認します。

公的年金制度は、しばしば「2階建て構造」に例えられます。これは、日本の年金制度が「1階」の国民年金(基礎年金)と、「2階」の厚生年金という2つの制度で構成されているためです。

1階部分の国民年金は、原則として日本国内に居住する20歳以上60歳未満のすべての人が加入対象で、保険料は所得にかかわらず一律(2026年度は月額1万7920円)。保険料を40年間(480カ月)すべて納付すると、満額(2026年度は月額7万608円)を受け取ることができます。2階部分の厚生年金は、会社員や公務員のほか、パートタイマーなどで特定適用事業所に勤務し一定の要件を満たす人が国民年金に上乗せして加入します。保険料は収入に応じて変動し、受給額は加入していた期間や納付した保険料額によって個人差が生じます。

ここで注目したいのは、1階と2階で収入の変動の届き方が異なる点です。1階の保険料は所得にかかわらず一律ですので、収入が下がっても上がっても金額は変わりません。左右するのは納めた月数だけです。一方、2階の保険料は収入に応じて変わり、受け取る金額も加入期間と納付した保険料額によって動きます。

つまり、収入が下がった時期があると、その分は2階部分の年金額に反映されていきます。ただし、下がった月がそのまま将来の年金額を大きく削るのかというと、影響の大きさは加入期間全体のなかでどれくらいの比重を占めるかによって変わります。数カ月の変動と、長期にわたる変動とでは、意味あいが違ってくるということです。

松本 真奈
収入が下がった月があると、将来の年金が大きく減ってしまうのではないかと心配される方がいらっしゃいます。2階部分が加入期間と報酬の積み重ねで決まるのは事実ですので、心配そのものは的外れではありません。ただ、年金額は数十年分の積み重ねで決まるものですので、一時期の変動が全体に占める比重はそれほど大きくならないという見方もできます。大枠としては、1階は納めた月数、2階は期間と報酬の積み重ねで決まる、と押さえていただければ十分です。

2. 4年連続の増額改定で示された金額|国民年金の満額は月7万608円、夫婦2人分では月23万7279円

年金の金額は、賃金や物価の動きをもとに毎年度見直されます。2026年度分は前年度より国民年金(基礎年金)が1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%の増額となり、プラスの改定は4年度連続です。

  • 国民年金(老齢基礎年金(満額)):7万608円(1人分 ※1
  • 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分※2

※1 昭和31年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金(満額1人分)は、月額7万408円(対前年度比+1300円)です。
※2 男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準です。

この2つの金額は、単位のとり方が異なります。7万608円は1人分の月額であるのに対し、23万7279円は夫婦2人分の月額です。しかも、40年間就業したという前提を置いて計算されたものですので、そこから外れる働き方をしてきた方の実際の金額は、この水準とは別のものになります。積立額を決める材料として使うときは、この前提の違いを外さないようにしたいところです。

1階部分だけの場合はどうでしょうか。国民年金は満額(※3)でも月額で約7万円です。受給開始を後ろ倒しにする繰下げ受給(※4)を上限の75歳まで使ったとしても、月額13万円には届きません。

※3 国民年金(老齢基礎年金)の満額:国民年金保険料を480カ月納付した場合に、65歳から受け取れる年金額
※4 繰下げ受給:老齢年金の受給開始年齢を66歳~75歳までの間に後ろ倒しする制度。「繰下げ月数×0.7%」の増額率が適用され、75歳で受給開始した場合の増額率は84%。

松本 真奈
モデルとして示された金額を見て、自分はここまで届かないと感じられる方は少なくありません。ただ、23万7279円は夫婦2人分ですし、一定の働き方を前提に置いた金額です。ご自身の見込み額と並べるなら、まずは単位をそろえるところからになります。そのうえで、増額改定という言葉についても、暮らしにかかる費用が同じように動いている可能性を合わせて見ておくと、実感とのずれが小さくなるように思います。

3. 平均月額という1つの数字では測れない|厚生年金の受給額はどこまでばらついているか

制度の説明から、実際に受け取られている金額に目を移します。厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金の男女全体の平均月額は「15万289円」です。なお、この金額には1階部分の国民年金(老齢基礎年金)の月額部分が含まれています

3.1 この15万289円が何を指しているのか

15万289円は、2階部分だけを取り出した金額ではありません。1階の国民年金と2階の厚生年金を合わせた受取額の平均です。前の章で確認したとおり、1階の満額は2026年度で月7万608円ですので、そこから上に積み上がっている部分が、現役時代の報酬と加入期間によって動くことになります。

したがって、この平均のなかには、1階だけの方に近い水準から、2階が厚く積み上がった水準までが同居しています。平均に自分を当てはめて積立額を決めると、実際の見込み額とずれてしまうことがあるのはこのためです。

3.2 1万円刻みで並べた受給権者数

平均という1つの数字の内側に、どのくらいの広がりがあるのかも見ておきましょう。受給額を1万円刻みで区切ったときの人数は、次のとおりです。

厚生年金の受給額ごとの受給権者数2/2

厚生年金の受給額ごとの受給権者数

出所:厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

  • 1万円未満:4万3399人
  • 1万円以上~2万円未満:1万4137人
  • 2万円以上~3万円未満:3万5397人
  • 3万円以上~4万円未満:6万8210人
  • 4万円以上~5万円未満:7万6692人
  • 5万円以上~6万円未満:10万8447人
  • 6万円以上~7万円未満:31万5106人
  • 7万円以上~8万円未満:57万8950人
  • 8万円以上~9万円未満:80万2179人
  • 9万円以上~10万円未満:101万1457人
  • 10万円以上~11万円未満:111万2828人
  • 11万円以上~12万円未満:107万1485人
  • 12万円以上~13万円未満:97万9155人
  • 13万円以上~14万円未満:92万3506人
  • 14万円以上~15万円未満:92万9264人
  • 15万円以上~16万円未満:96万5035人
  • 16万円以上~17万円未満:100万1322人
  • 17万円以上~18万円未満:103万1951人
  • 18万円以上~19万円未満:102万6888人
  • 19万円以上~20万円未満:96万2615人
  • 20万円以上~21万円未満:85万3591人
  • 21万円以上~22万円未満:70万4633人
  • 22万円以上~23万円未満:52万3958人
  • 23万円以上~24万円未満:35万4人
  • 24万円以上~25万円未満:23万211人
  • 25万円以上~26万円未満:15万796人
  • 26万円以上~27万円未満:9万4667人
  • 27万円以上~28万円未満:5万5083人
  • 28万円以上~29万円未満:3万289人
  • 29万円以上~30万円未満:1万5158人
  • 30万円以上~:1万9283人

月1万円未満から月30万円以上まで、受け取っている金額はかなり広い範囲に散らばっています。この広がりは、現役時代の報酬や加入期間の違いがそのまま形になったものです。【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!私的年金の見直しで押さえておきたいポイントでも、受給額ごとの人数が一覧で示されています。

ご自身の見込み額は、ねんきん定期便やねんきんネットで確かめられます。その金額と、老後に想定する生活費との差がわかれば、毎月いくら積み立てるかという問いに、平均ではなく自分の数字で向き合えるようになります。

松本 真奈
積立額を決め直すご相談で、平均の数字がそのまま目安として使われている場面によく出会います。ただ、分布を見ていただくとわかるように、平均の前後に人が集まっているというより、広い範囲に散らばっているというのが実際のところです。ご自身がどのあたりに位置しそうかは、ねんきん定期便の数字を見ないとわかりません。積立額の話に入る前に、まずその1枚を手元に置いていただくと、金額の議論がぐっと具体的になります。

実際に年金を受け取っている世代の家計がどのようになっているのかについてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
「ふつう」のシニアは年金を月いくらもらってる?60歳代以上の平均額と、無職世帯のリアルな家計収支を公開

4. 【独自試算】上限いっぱいで始めて5年で止まった場合と、抑えた金額で20年続けた場合の到達額

積立額を下げることは、計画がうまくいかなかった証拠なのでしょうか。ここでは1つの試算として、始めた金額と続いた期間の組み合わせを変えると20年後の到達額がどう動くのかを並べてみます。

前提は次のとおりです。

  • 観察する期間:20年(240カ月)
  • 想定利回り:年3%。月利は年利を12で割るのではなく、1.03の12分の1乗から1を引いた約0.2466%を使用
  • 毎月末に一定額を積み立て、分配金などは再投資されるものとする
  • 積立を止めたあとも、それまでの残高は取り崩さずに同じ利回りで置いておくものとする
  • 税金・手数料・物価の変動は考慮しない

この前提で、3つのケースを比べます。

  • ケースA:無理のある金額で始めて途中で止まった場合。月6万円を5年間積み立て、その後は積立を止めて15年間そのまま置く(元本360万円)→ 約604万円
  • ケースB:最初から続けられる金額に設定した場合。月2万円を20年間積み立てる(元本480万円)→ 約654万円
  • ケースC:始めた金額を途中で下げて続けた場合。月6万円を5年間積み立てたあと月2万円に下げ、残り15年間続ける(元本720万円)→ 約1056万円

ケースAとケースBを比べると、到達額の差は約50万円でケースBのほうが大きくなりました。ただし、投じた元本の差は120万円あります。差し引きで見れば、早い時期に入れたお金のほうが長く運用に回るぶん、1円あたりの働きは大きかったことになります。上限いっぱいで始めること自体に意味がなかったわけではない、という読み方ができます。

目を引くのはケースCです。5年目で月6万円から月2万円へ下げていますが、到達額は約1056万円と、止めてしまったケースAの約604万円を約452万円上回りました。下げたあとも積み上げが続いたぶん、元本そのものが大きくなったためです。

この3つを並べると、20年後の到達額を分けたのは「いくらで始めたか」よりも「どれだけ続いたか」だったと整理できます。減額は、積み立てを止めないための調整という位置づけで見ることもできる、ということです。

一方で、この試算はどの金額が正解かを示すものではありません。利回りは一定として計算していますが、実際には価格が上下し、途中の残高は増えたり減ったりします。また、積立を止めたあとに残高を取り崩さないという前提を置いていますので、生活のために取り崩す必要が生じた場合は結果が変わります。無理のない金額は、収入の安定度や当面の支出の見通しによって人それぞれです。

※上記は一定の利回りが続いたと仮定した場合の目安であり、将来の運用成果を示すものではありません。実際の運用では価格が変動し、元本割れとなる可能性があります。税金・手数料は考慮していません。金額はいずれも概算です。

熊谷 良子
収入が下がった時期に積立額をどうするかというご相談では、金額を動かすこと自体に抵抗を感じていらっしゃる方が多いように思います。一度決めた金額を守れないと、計画そのものが崩れるように感じられるのかもしれません。ただ、この試算で見えているように、20年後の到達額を左右していたのは続いた期間のほうでした。もう1つ、判断の材料になりそうな点があります。積立額を下げるという選択肢のほかに、積み立てをいったん休むという選択肢や、支出の側を見直して積立額を維持するという選択肢も並んでいます。どれを選んでも将来の金額は変わりますので、比べるべきはどれが正しいかではなく、どれなら続けられるかという点になります。なお、値動きのある資産には元本割れとなる可能性があり、制度の要件や税制の扱いは改正で変わることがあります。手続きに進む前には、契約先の窓口や関連する部署にご確認いただくと、あとの判断がしやすくなります。