「厚生年金10年、国民年金30年」というように、働き方が途中で変わり、加入期間が2つの制度にまたがっている人は少なくありません。自営業からの就職、あるいはその逆で、こうした組み合わせになった場合、将来の年金はどう計算されるのか、不安に感じる人も多いはずです。
結論から言うと、年金を受け取る権利自体には問題ありませんが、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々の計算ルールで積み上がる仕組みです。この記事では、その仕組みと、具体的な金額のイメージを編集部で試算します。
なお、厚生年金の受給額の実態に関する詳しい説明は、下記の記事より一部を引用・参照しています。
1. 「10年+30年」のような組み合わせでも、年金は受け取れるのか
まず、加入期間が複数の制度にまたがっている場合の基本ルールから確認します。
1.1 受給資格期間は「合算」して10年以上あればよい
日本年金機構の資料によると、老齢基礎年金を受け取るための受給資格期間は10年以上で、保険料納付済期間や保険料免除期間などを合算して判定します。この10年という期間は平成29年8月1日に短縮されたもので、それ以前は25年が必要でした。
国民年金の期間と厚生年金の期間は合算の対象になるため、厚生年金10年・国民年金30年という組み合わせでも、合計40年として受給資格期間は十分に満たしています。組み合わせの内訳がどうであれ、合計が10年を超えていれば、まず受給資格そのものを心配する必要はありません。
この改正の背景には、無年金者を減らすというねらいがありました。25年という期間は、途中で就業形態が変わった人や、若い頃に納付が滞った期間がある人にとって高いハードルになっていましたが、10年に短縮されたことで、より多くの人が受給資格を得られるようになっています。
なお、ここでいう「合算」は、あくまで受給資格の有無を判定するための期間の話です。実際にいくら受け取れるかという金額の計算では、次に説明するとおり、老齢基礎年金と老齢厚生年金でルールが分かれます。この2段構えを理解しておくことが、この記事全体の理解の土台になります。
1.2 老齢基礎年金と老齢厚生年金は、別々に計算される
日本年金機構の説明によると、老齢基礎年金は20歳から60歳になるまでの40年間の国民年金の納付月数や厚生年金の加入期間等に応じて計算され、老齢厚生年金は、老齢基礎年金を受け取れる人に厚生年金の加入期間がある場合、老齢基礎年金に上乗せする形で別途計算されます。受給資格を判定する場面では合算されますが、金額を計算する場面では、この2つは別のルールで動く仕組みです。
この2段構えの仕組みは、「1階部分(国民年金)は全期間で共通のルール、2階部分(厚生年金)は加入していた期間だけの個別ルール」と整理すると理解しやすくなります。1階部分の広さは全員共通、2階部分の広さは人によって違う、というイメージです。
2. 老齢基礎年金は、40年分まるごと合算されるので満額
まず、上乗せの土台になる老齢基礎年金から確認します。
2.1 国民年金期間と厚生年金期間、どちらも「保険料納付済期間」として扱われる
厚生年金に加入している間も、自動的に国民年金(第2号被保険者)に加入した扱いになるため、その期間は老齢基礎年金の計算上、保険料納付済期間として扱われます。厚生年金10年・国民年金30年という組み合わせであれば、合計で40年分がまるごと納付済期間となり、令和8年度の満額である月7万608円を受け取れる計算になります。
ここで重要なのは、厚生年金加入中の保険料は、国民年金保険料と厚生年金保険料を別々に納めているわけではないという点です。厚生年金保険料の中に、国民年金分に相当する負担も含まれる仕組みになっているため、厚生年金に加入していた期間について、あらためて国民年金保険料を納める必要はありません。
この仕組みがあるからこそ、厚生年金10年・国民年金30年という組み合わせでも、老齢基礎年金の計算上は「40年分きちんと納めた」という扱いになります。自営業期間と会社員期間が混在していても、老齢基礎年金の満額を諦める必要はないという点は、安心材料として知っておく価値があります。
3. 【編集者の視点】
ここで押さえておきたいのは、老齢基礎年金の満額を受け取るために、必ずしも全期間を国民年金として自分で納め続ける必要はないという点です。厚生年金に加入していた期間も等しく計算対象になるため、働き方が途中で変わったこと自体は、老齢基礎年金の満額受給にとって不利にはなりません。
不安に感じやすいのは、この土台の部分ではなく、次に見ていく上乗せ部分の方です。
4. 編集部試算:厚生年金の上乗せは「10年分」だけ
老齢厚生年金は、厚生年金に加入していた期間の報酬をもとに計算されます。加入期間が10年だけであれば、上乗せもその期間の分に限られます。
4.1 平均標準報酬月額30万円で10年加入した場合の試算
厚生労働省が公開する年金シミュレーターの計算方法によると、老齢厚生年金の報酬比例部分は「平均標準報酬月額×厚生年金の被保険者期間月数×1000分の5.481」という式で簡易的に試算できます。仮に平均標準報酬月額を30万円、加入期間を10年(120か月)とすると、報酬比例部分は年額でおよそ19万7316円、月額に直すとおよそ1万6443円です。
この試算はあくまで簡易的なものであり、実際の年金額は平成15年3月以前・以後の期間の扱いなど、より細かい計算ルールによって変わります。それでも、老齢厚生年金の上乗せが加入期間の長さに比例するというおおまかな感覚をつかむには役立ちます。
また、この試算では平均標準報酬月額を30万円と仮定していますが、実際の金額は現役時代の給与水準によって大きく変わります。標準報酬月額が高い時期が長ければ上乗せは大きくなり、低い時期が長ければ小さくなります。加入期間の長さと、その期間中の報酬水準の両方が、最終的な上乗せ額を左右する2つの軸だと理解しておくとよいでしょう。
4.2 【厚生年金10年加入時の老齢厚生年金試算と老齢基礎年金の内訳】
前提条件:平均標準報酬月額30万円、厚生年金加入10年(120か月)の場合の老齢厚生年金(報酬比例部分)を、厚生労働省の簡易計算式で編集部が試算1/2
出所:厚生労働省「公的年金シミュレーター 留意事項」、日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額」などを基にLIMO編集部作成
- 老齢厚生年金(報酬比例部分・年額の目安):約19万7316円
- 老齢厚生年金(報酬比例部分・月額の目安):約1万6443円
- 老齢基礎年金(40年満額・令和8年度):月7万608円
5. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、「40年間働いた」という実感と、老齢厚生年金の上乗せ額が必ずしも一致しないという点です。厚生年金に加入していたのが10年だけであれば、上乗せもその期間相応にとどまります。逆に言えば、厚生年金への加入期間を延ばせるなら、それだけ上乗せ部分を増やせる余地があるということでもあります。
60歳以降も働き続けて厚生年金に加入する、あるいは繰下げ受給で受給開始を遅らせるといった選択肢は、この上乗せ部分を増やす具体的な方法になり得ます。自分の加入期間の内訳を踏まえたうえで、老後の働き方を考える材料にしてみてください。
特に、自営業からの就職や、就職後の独立といった働き方の転換を経験している人ほど、加入期間の内訳が複雑になりがちです。「厚生年金だった時期」と「国民年金だった時期」を正確に把握しないまま老後を迎えると、想定していたより上乗せ額が少なかった、という事態にもなりかねません。
6. 加入期間の組み合わせパターンで、上乗せ額はどう変わるか
厚生年金の加入期間が長いか短いかによって、老齢厚生年金の上乗せ額がどう変わるのか、パターン別に整理します。
6.1 厚生年金40年フル加入と比べると、上乗せの差は大きい
仮に同じ平均標準報酬月額30万円のまま、厚生年金に40年(480か月)フル加入した場合、報酬比例部分は年額およそ78万9264円、月額に直すとおよそ6万5772円です。厚生年金10年のケース(月約1万6443円)と比べると、月4万9000円以上の差になります。老齢基礎年金の満額部分は共通しているため、この差はそのまま老齢厚生年金部分の差として表れます。
合計額で見ると、厚生年金10年・国民年金30年のケースは老齢基礎年金7万608円と老齢厚生年金約1万6443円を合わせておよそ8万7000円、厚生年金40年フル加入のケースは老齢基礎年金7万608円と老齢厚生年金約6万5772円を合わせておよそ13万6000円です。同じ「40年間、公的年金制度に加入し続けた」という実績でも、その内訳次第で月5万円近い差が生まれる計算になります。
※本記事は、編集部が日本年金機構・厚生労働省が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。
6.2 【厚生年金の加入期間別・老齢厚生年金の月額目安】
前提条件:平均標準報酬月額30万円を共通条件とし、厚生年金の加入期間別に老齢厚生年金(報酬比例部分・月額)を編集部で試算2/2
出所:厚生労働省「公的年金シミュレーター 留意事項」、日本年金機構「老齢厚生年金の受給要件・支給開始時期・年金額」などを基にLIMO編集部作成
- 10年(120か月):約1万6443円
- 20年(240か月):約3万2886円
- 40年(480か月):約6万5772円
7. 自分の組み合わせを確認する方法
最後に、自分の実際の加入期間と見込み額を確認する方法を整理します。
7.1 ねんきん定期便・ねんきんネットで、期間の内訳を確認する
ねんきん定期便やねんきんネットでは、国民年金・厚生年金それぞれの加入期間と、これまでの記録に基づく年金額が確認できます。厚生年金の加入期間が何年何か月あるかを正確に把握することが、上乗せ額のイメージをつかむ第一歩になります。
50歳以上の人に届くねんきん定期便には、現在の加入状況が60歳まで続いた場合の年金見込み額が記載されています。まだ50歳未満の人の場合は、これまでの実績に応じた金額のみが記載されるため、将来の見込みとは分けて捉える必要があります。
7.2 より正確な見込み額は、ねんきんネットのシミュレーションで
特に、これから厚生年金への加入期間を延ばそうか迷っている人にとっては、期間を1年延ばすとどれくらい上乗せが増えるのかを具体的な数字で確認できると、判断材料になります。
この記事の試算はあくまで平均標準報酬月額を仮定した簡易的なものです。自分の実際の標準報酬月額の履歴に基づいた、より正確な見込み額を知りたい場合は、ねんきんネットの年金見込み額試算機能を利用することをおすすめします。
厚生労働省の公的年金シミュレーターでも、条件を入力して大まかな見込み額を試算できます。
なお、関連して国民年金から厚生年金への月の途中の切り替えについても、あわせて確認しておくと理解が深まります。
8. まとめ
- 老齢年金の受給資格期間(10年以上)は、国民年金と厚生年金の期間を合算して判定されます。
- 老齢基礎年金は国民年金・厚生年金の期間を合わせた40年で満額(令和8年度・月7万608円)になります。
- 老齢厚生年金は厚生年金の加入期間分だけが上乗せされ、10年加入の場合は月1万6443円程度が目安です(平均標準報酬月額30万円の場合)。
- 厚生年金への加入期間が長いほど、老齢厚生年金の上乗せ額は大きくなります。
- 正確な見込み額は、ねんきんネットのシミュレーションで確認できます。
「厚生年金10年、国民年金30年」というような組み合わせでも、老齢基礎年金は40年分まるごと計算され、受給資格期間の心配もありません。ただし、老齢厚生年金の上乗せは厚生年金の加入期間に比例するため、期間が短いほど上乗せも小さくなる点は押さえておく必要があります。
自分の加入期間の内訳や、より正確な見込み額を知りたい場合は、ねんきんネットで確認することをおすすめします。
あわせて、国民年金と厚生年金の重複も参考にしてみてください。
9. よくある質問
9.1 Q. 厚生年金と国民年金の加入期間がまたがっていても、年金は受け取れますか。
A. 受け取れます。受給資格期間(10年以上)は国民年金と厚生年金の期間を合算して判定されるため、厚生年金10年・国民年金30年のような組み合わせでも、合計40年として十分に条件を満たします。
9.2 Q. 老齢基礎年金は、厚生年金の加入期間も含めて計算されますか。
A. されます。厚生年金加入中も国民年金(第2号被保険者)に加入した扱いになるため、その期間は老齢基礎年金の保険料納付済期間として計算されます。
9.3 Q. 老齢厚生年金は、国民年金の期間も反映されますか。
A. されません。老齢厚生年金は、厚生年金に加入していた期間の報酬をもとに計算される、別枠の上乗せ部分です。国民年金だけの期間は、この計算には反映されません。
9.4 Q. 厚生年金の加入期間が短いと、年金額はどれくらい変わりますか。
A. 平均標準報酬月額30万円を例にすると、厚生年金加入10年ではおよそ月1万6443円、40年ではおよそ月6万5772円と、加入期間の長さにほぼ比例して上乗せ額が変わります。
9.5 Q. 加入期間の記録に抜けがないか、どうやって確認すればよいですか。
A. ねんきん定期便やねんきんネットで、これまでの加入区分・加入期間の履歴を確認できます。転職や自営業への転向などで加入制度が切り替わった時期がある場合は、その前後の期間がそれぞれ正しく記録されているかを見ておくと安心です。記録に疑問がある場合は、年金事務所に確認することをおすすめします。
参考資料
齊藤 慧

