5. 60歳代に多い「口座がいくつもあり、どこから引き出せばよいか順番を決められない」というご相談。IFA・筒井 亮鳳が伝えたいこと

長く働いてきた方ほど、お金の置き場所は自然に増えていきます。給与が振り込まれてきた銀行の口座、以前に開いたまま使っていない口座、勤務先を通じて積み立ててきた制度の口座、非課税で運用できる制度の口座。増やす時期にはそれぞれに役割がありました。ところが使う時期に入ると、今度は「どこから引き出すのか」を決めなければなりません。ここでは、IFAが日頃の面談でよく受けるご相談のひとつを、個人が特定されないよう内容を一般化したうえで取り上げます。

5.1 60歳代に多いお悩み相談は「口座がいくつもあり、どこから引き出せばよいか順番を決められない」

60歳代(ご相談者)
いくつかの口座に分けて運用を続けてきましたし、今もまとまった資金を動かそうと考えているところです。ただ、これから使っていく段になって、どの口座から引き出せばよいのかが決められません。ひとつに決めてしまうのも不安ですし、そのつど選ぶのも迷いそうで、順番を決めかねています。

複数の口座を持っていること自体は、これまで計画的に準備を重ねてこられた証でもあります。それでも使う段階に入ると、口座の数だけ選択肢が並ぶことになり、かえって決めにくくなるというお声をよくいただきます。どこから引き出しても同じように見えて、手続きの流れや現金が手元に届くまでの時間、あとから見直すときの手間には違いがあるためです。

5.2 【IFA・筒井 亮鳳が回答】どこに何があるかを一覧にし、生活費の受け皿となる口座をひとつ決め、残りは状況に応じて選べる状態にしておく

筒井 亮鳳
「どの口座から使うのが正解か、ひとつ決めなければ動き出せない」と決めつける前に、どの口座に何が置かれているかを一覧にして確かめ、毎月の生活費が出ていく受け皿となる口座をひとつに定め、残りの口座はそのときどきの状況に応じて引き出す先を選べる状態にしておくことが、落ち着いた進め方になります。また、預貯金を一つにまとめてしまうと万が一金融機機関が破綻した場合にも1000万円までは保護される「預金保険制度というものの限度額を超えてしまう可能性もありますので、改めて自分自身の預貯金額がどれくらいあるかも確認しているといいかもしれません。

5.3 ポイント1:どの口座に何が置かれているかを一覧にして確かめる

順番を考える前に、まず手をつけたいのが口座の棚卸しです。相談の場では、ご自身でも把握しきれていない口座が出てくることが少なくありません。給与の振込先として長く使ってきた銀行の口座、住宅ローンの返済のために開いた口座、勤務先を通じて積み立ててきた制度の口座、非課税で運用できる制度の口座。ひとつずつは覚えていても、全体を並べて眺めた経験のある方は多くありません。そこで、金融機関の名前は書かずに「どの種類の口座に、どんな性質のお金が、どのくらい置かれているか」を一枚の紙に書き出してみます。あわせて、それぞれがすぐに引き出せる状態なのか、手続きに日数がかかるのかも書き添えておきます。ここまで並べると、順番を決める材料がそろいます。逆に言えば、この一覧がないまま順番だけを先に決めようとすると、決め手が見つからないまま迷いが続くことになります。なお、制度の口座については、引き出せる時期や手続きの取り扱いが改正によって変わることがあります。最新の内容は公的機関の情報や、口座を開いている窓口でご確認ください。

5.4 ポイント2:毎月の生活費が出ていく受け皿の口座を、ひとつに定める

一覧ができたら、次に決めたいのが「日々の生活費が出ていく口座」です。公的年金の受け取り、水道光熱費や通信費の引き落とし、日々の買い物の支払い。これらの出入りが複数の口座に散らばっていると、残高がいくら残っているのかが見えにくくなります。相談の場では、この受け皿をひとつに寄せるところから整理を始めることがよくあります。受け皿がひとつに定まると、月ごとにどれだけ足りないのかが数えやすくなり、他の口座から補う金額の見当もつけやすくなるためです。ここで押さえておきたいのが、運用しているお金は「引き出そうと決めた日に、すぐ手元に届くとはかぎらない」という点です。売却の手続きをしてから現金として口座に入るまでには日数がかかります。受け皿の口座には、その待ち時間をしのげるだけの残高を置いておくという考え方があります。順番を決めるというのは、どれを先に売るかを決めることだけではなく、こうした時間差を織り込んでおくことでもあります。

5.5 ポイント3:残りの口座は、そのときの状況に応じて引き出す先を選べる状態にしておく

受け皿が定まったあと、残りの口座については、順番を固定しなくてもよい、というのがひとつの考え方です。相談の場で安心していただけることが多いのが、まさにこの点です。複数の口座を持っているということは、そのときどきの状況に応じて、引き出す先を選べる状態にあるということでもあります。値動きのある資産には価格の変動があり、元本割れとなる可能性もあります。取り崩したい時期に価格が下がっていることもあるでしょう。そうした場面で、選べる先がひとつしかなければ、下がったところで売らざるを得ません。けれども選べる先が複数あれば、そのときの状況を見て充てる先を変えるという選び方ができます。口座ごとの実績を見比べるときは、投資信託の運用実績が、かかる費用を差し引いたあとの数字として示されている点も押さえておくと、比べやすくなります。順番をひとつに決め切ることが目的なのではなく、選べる状態を保ったまま、そのつど無理のない先から充てていく。そう捉え直すと、決められないという迷いが、選べるという余地に変わってきます。制度や手続きの取り扱いは改正されることがありますので、具体的な進め方については、公的機関の情報や口座を開いている窓口、関連する部署でお確かめのうえ進めていただければと思います。

どの口座から引き出すのがよいかは、持っている口座の中身と、これからの予定によって変わります。この記事でお伝えしたのは整理の順序ですので、実際の進め方については、状況を確かめながら専門家とご一緒に整えていただければと思います。

6. まとめにかえて

65歳以上の無職世帯では、公的年金を中心とした収入と、毎月の支出との差を、これまで蓄えてきた資産で補っていく形になります。このとき、それまで意識せずに済んでいた「どの口座から引き出すか」という問いが、毎月のように立ち上がってきます。増やす時期には、口座を分けて持つこと自体が備えになっていました。ところが使う時期に入ると、その分だけ選択肢が並ぶことになり、決めかねたまま先送りになってしまうことがあります。

この記事では、どの口座に何が置かれているかを一覧にして確かめること、毎月の生活費が出ていく受け皿の口座をひとつに定めること、そして残りの口座はそのときの状況に応じて引き出す先を選べる状態にしておくことの3点を、相談の現場でよく交わされる整理として取り上げました。順番を決められないという迷いは、選べる先が複数あることの裏返しでもあります。

値動きのある資産には価格の変動があり、元本割れとなる可能性があります。また、制度の口座から引き出せる時期や手続きの取り扱い、税に関する定めは、改正によって変わることがあります。この記事でお伝えしたのはあくまで整理の考え方ですので、最新の内容は公的機関の情報や、口座を開いている窓口でご確認ください。ご自身の状況に沿った判断については、関連する部署や専門家に確かめながら進めていただければと思います。

参考資料

筒井 亮鳳