夏のボーナスや退職金、保険の満期金など、手元にまとまった資金が入ったものの、「どこに置くべきか分からない」「一度に投資するのは怖い」と判断を先送りしていないでしょうか。
野村総合研究所の最新推計(2025年2月公表)によると、純金融資産1億円以上の富裕層・超富裕層は165万3000世帯に達し、全体の約3%を占めるなど、まとまった資産を保有する世帯は増え続けています。しかし、いざ手元の資金を動かそうとすると、「一括で投資すべきか、時期を分けて投入すべきか」という悩みに直面する人も少なくありません。
そこで本記事では、富裕層データの推移や世帯年収ごとの資産内訳を整理したうえで、「1200万円を3カ月・1年・3年に分けて投資した場合の5年後」を独自試算。相場の上昇・下落局面でどのような違いが生じるのかを徹底検証します。さらに、まとまった資金を動かす際に陥りがちな心理的ハードルと、後悔しないための具体的な判断軸をファイナンシャルアドバイザーの視点から解説します。
なお、純金融資産の階層の分け方や、資産を積み上げてきた世帯の特徴に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 純金融資産1億円以上とはどのくらいの世帯か|推計で使われる5つの階層
まとまった資金をどう扱うかを考えるとき、まず手がかりになるのが、世の中でどのくらいの規模の金融資産がどう分かれているかという全体像です。資産を積み上げてきた世帯にどのような共通点があるかについては、LIMOの記事「資産1億円以上の富裕層に共通する3つの特徴!お金が自然と貯まる人の思考と行動【元FP会社職員監修】」でもくわしく取り上げています。
野村総合研究所が2025年2月13日に公表したニュースリリースでは、純金融資産保有額に応じて、世帯を5つの層に分類しています。ここでいう純金融資産保有額とは、預貯金、株式、債券、投資信託、一時払い生命保険や年金保険など、世帯として保有する金融資産の合計額から、不動産購入に伴う借入などの負債を差し引いたものを指します。
1.1 階層別に見た保有資産の規模と世帯数
階層の区切りは、親記事から次のとおり引用します。
- マス層(3000万円未満)
- アッパーマス層(3000万円以上5000万円未満)
- 準富裕層(5000万円以上1億円未満)
- 富裕層(1億円以上5億円未満)
- 超富裕層(5億円以上)
この分類では、純金融資産1億円以上5億円未満の世帯を「富裕層」、5億円以上の世帯を「超富裕層」と定義したうえで、世帯数や保有資産の規模についての推計データが公表されています。呼び名は統計上の区切りであって、生活の中身や暮らし方を表したものではありません。
上位2つの層を足し合わせた世帯数は165万3000世帯で、全世帯に占める割合はおよそ3%と推計されています。この合計は、推計が開始された2005年以降で最多の水準です。それぞれの世帯数についても、2013年以降は増加の傾向が続いていると報告されています。
2. 世帯数と資産総額は2005年からどう動いてきたか|2023年は469兆円
純金融資産1億円以上を持つ世帯について、世帯数と資産総額が長い目でどう変わってきたかを見ていきます。1回きりの数字より、動き方を並べたほうが読み取れることが増えます。
純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数の推移2/3
出所:株式会社野村総合研究所「野村総合研究所、日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯、その純金融資産の総額は約469兆円と推計 | ニュースリリース | 野村総合研究所(NRI)」
- 2005年:86万5000世帯・213兆円
- 2007年:90万3000世帯・254兆円
- 2009年:84万5000世帯・195兆円
- 2011年:81万世帯・188兆円
- 2013年:100万7000世帯・241兆円
- 2015年:121万7000世帯・272兆円
- 2017年:126万7000世帯・299兆円
- 2019年:132万7000世帯・333兆円
- 2021年:148万5000世帯・364兆円
- 2023年:165万3000世帯・469兆円
世帯数も資産総額も、世界金融危機や東日本大震災などの影響を受けて一時的に落ち込んだ時期がありますが、長い期間で見ると増加の方向に動いてきました。とくに2021年から2023年にかけての伸びが目立ちます。この背景には、株価上昇や円安による資産価値の増大などがあったことが、同調査レポートでは指摘されています。
ここで目を留めておきたいのは、2009年と2011年に世帯数と資産総額の両方が前回を下回っている点です。増え続けてきたわけではなく、下がった時期を挟みながら今の水準に至っている、という読み方になります。
2.1 【一覧表】5つの階層ごとの世帯数と純金融資産保有規模(2023年)
- 超富裕層(5億円以上):11万8000世帯・135兆円
- 富裕層(1億円以上5億円未満):153万5000世帯・334兆円
- 準富裕層(5000万円以上1億円未満):403万9000世帯・333兆円
- アッパーマス層(3000万円以上5000万円未満):576万5000世帯・282兆円
- マス層(3000万円未満):4424万7000世帯・711兆円
純金融資産1億円以上の2つの層が持つ資産の合計は、前回調査より約3割ほど増加して469兆円になりました。全世帯の保有資産額の26.1%が、この2つの層に集まっている計算です。世帯数では約3%、資産額では26.1%という開きが、この分布の形を表しています。
3. 調査が名づけた2つの層|「いつの間にか富裕層」と「スーパーパワーファミリー」
今回の調査では、これまでとは経歴の異なる新しいタイプの層の出現が指摘されています。呼び名だけを見ると特別な人たちのように感じられますが、内訳を読むと、勤め先の給与とその運用から資産を積み上げてきた人たちが中心です。
3.1 会社員として資産を積み上げた層と、共働きで収入を伸ばした層
まず「いつの間にか富裕層」は、株式投資などを通じて資産を積み上げた、40歳代後半から50歳代の一般の会社員を中心とする層とされています。金融に関する知識は高い一方で、大口の資金を前提とした専門的な金融商品や高度な資産管理には不慣れな面もある、と指摘されています。
もう一方の「スーパーパワーファミリー」は、都市部に住む年収3000万円を超える共働き世帯に代表される層です。20歳から30歳代の間は教育費や住宅ローンなどの支払いに苦労するものの、昇格・昇給によって40歳前後から資産が急速に増加する傾向があり、高収入を背景に50歳前後で純金融資産1億円以上に到達する可能性が高いとされています。
この2つの層に共通するのは、相続や親の資産に頼らずとも、自分自身のキャリア形成や金融知識によって資産を築いている点です。裏を返せば、まとまった資金を扱う場面は、受け継いだ方だけでなく、働きながら積み上げてきた方にも訪れるということでもあります。
4. 世帯年収別に見た金融資産の中身|預貯金と値動きのある資産の割合
次に、世帯年収ごとに金融資産の中身がどう違うかを見ていきます。2025年12月にJ-FLEC(金融経済教育推進機構)が公表した「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」の結果から、世帯年収別の金融資産内訳に関するデータを確かめます。
4.1 預貯金・債券・株式・投資信託の保有額を年収の区分ごとに並べる
金融資産保有額の全体
全国:1940万円
- 収入はない: 634万円
- 300万円未満: 858万円
- 300~500万円未満: 1431万円
- 500~750万円未満: 1755万円
- 750~1000万円未満: 2222万円
- 1000~1200万円未満: 2725万円
- 1200万円以上: 5635万円
- 無回答: -
手元の安定を担う「預貯金」の保有額
全国:745万円
- 収入はない: 385万円
- 300万円未満: 368万円
- 300~500万円未満: 631万円
- 500~750万円未満: 693万円
- 750~1000万円未満: 908万円
- 1000~1200万円未満: 1028万円
- 1200万円以上: 1649万円
- 無回答: -
値動きの幅が比較的小さいとされる「債券」の保有額
全国:78万円
- 収入はない: 7万円
- 300万円未満: 36万円
- 300~500万円未満: 54万円
- 500~750万円未満: 58万円
- 750~1000万円未満: 67万円
- 1000~1200万円未満: 91万円
- 1200万円以上: 343万円
- 無回答: -
値動きを受け入れて収益を狙う「株式」の保有額
全国:433万円
- 収入はない: 33万円
- 300万円未満: 191万円
- 300~500万円未満: 235万円
- 500~750万円未満: 365万円
- 750~1000万円未満: 434万円
- 1000~1200万円未満: 572万円
- 1200万円以上: 1792万円
- 無回答: -
複数の資産に分けて持つ「投資信託」の保有額
全国:216万円
- 収入はない: 153万円
- 300万円未満: 79万円
- 300~500万円未満: 167万円
- 500~750万円未満: 189万円
- 750~1000万円未満: 238万円
- 1000~1200万円未満: 292万円
- 1200万円以上: 682万円
- 無回答: -
「債券・株式・投資信託の合計額」と金融資産全体に占める割合
全国:37.5%
- 収入はない: 193万円(30.4%)
- 300万円未満:306万円(35.7%)
- 300~500万円未満:456万円(31.9%)
- 500~750万円未満: 612万円(34.9%)
- 750~1000万円未満:739万円(33.3%)
- 1000~1200万円未満: 955万円(35.0%)
- 1200万円以上: 2817万円(50.0%)
- 無回答: -
「債券・株式・投資信託」に回している金額そのものは、世帯年収とある程度連動しています。ただし、金融資産保有額の全体に占める割合で見ると、年収が1200万円未満の層ではおおむね30%台に収まっており、年収の高低で大きく開いてはいません。値動きのある資産を持つこと自体は、一部の世帯だけのものではなくなっている様子がうかがえます。
一方で、年収1200万円以上の層は、この割合が50.0%となっており、預貯金と値動きのある資産がおおよそ半々という形になっています。金額でも割合でも差が出るのはこの層で、ここが分布の形をつくっている部分です。
預貯金だけに置いておくか、値動きを受け入れる部分をつくるかは、家計ごとに考え方が分かれるところです。どちらが正しいという話ではなく、暮らし方や保有資産全体のバランス、そしてご自身がどこまでの値動きを受け止められるかを踏まえて決めていく部分になります。
まとまった資金を運用に回す場合と、預貯金に置いた場合とで結果の見え方がどう違うかについてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【月3万円×20年】預金と新NISAの資産差はいくら?「利回り5%の積立投資 VS 金利0.3%の銀行預金」シミュレーションで徹底比較
5. 【独自試算】1200万円を3カ月・1年・3年に分けて入れると、相場の動き方で5年後はどう変わるか
まとまった資金を値動きのある資産に回すと決めたあとに残るのが、どのくらいの期間をかけて入れ終えるか、という問いです。ここでは、金額も入れ先も同じにしたまま、入れ終わるまでの期間の長さだけを変えると、結果がどちら向きに動きうるのかを試算で並べます。どの期間がよいかを示すためのものではありません。
前提は次のとおりです。手元の資金は1200万円とし、入れ終わるまでの期間を3カ月・1年(12カ月)・3年(36カ月)の3通りとします。毎月同じ額を月の初めに入れるものとし、3カ月なら毎月400万円、1年なら毎月100万円、3年なら毎月約33万円です。まだ入れていない資金は増えも減りもしない(金利0%)と置きます。比べるのは、いずれも起点から5年後(60カ月後)の金額です。税金・手数料は考慮していません。
相場は2通りを仮に置きます。ケース1は、60カ月を通じて年率5%で値上がりが続いた場合。ケース2は、24カ月目の末に一度だけ30%値下がりし、それ以外の期間は同じ年率5%だった場合です。年率5%も30%の下落幅も、計算のために仮に置いた数字であり、こうなると見込んでいるわけではありません。月ごとの利回りは、年率をそのまま12で割るのではなく、(1+年率)の12分の1乗から1を引いて求めています(年5%の場合は約0.4074%)。
5.1 ケース1|値上がりが続いた場合の5年後(元本1200万円)
- 3カ月で入れ終えた場合:約1525万円
- 1年で入れ終えた場合:約1498万円
- 3年で入れ終えた場合:約1428万円
この置き方では、入れ終わるまでの期間が短いほど金額が大きくなります。早く入れた分だけ、運用に回っている期間が長くなるためです。3カ月と3年の差は約97万円でした。
5.2 ケース2|途中で値下がりがあった場合の5年後(元本1200万円)
- 3カ月で入れ終えた場合:約1068万円
- 1年で入れ終えた場合:約1048万円
- 3年で入れ終えた場合:約1135万円
同じ3通りでも、順番が入れ替わりました。3年かけた場合が約1135万円で最も大きく、3カ月が約1068万円、1年が約1048万円と続きます。3年かけた場合は、下がったあとの12カ月分がまだ入れ終わっておらず、その部分を下がった水準で入れることになったためです。
一方で、3カ月と1年はどちらも下落の前に入れ終わっている点は同じで、両者の差は下落までに運用に回っていた期間の長さから生じています。分ける回数を増やせばそれだけ有利になる、という単純な関係にはなっていません。
そしてケース2では、3通りとも5年後の金額が元本1200万円を下回りました。期間を分けて入れても、値下がりそのものを避けられるわけではありません。値動きのある資産に回す以上、価格変動リスクは残り、元本割れとなる可能性もあります。
2つのケースを並べると、期間の長さという条件を1つ動かしただけで、結果はどちら向きにも動きました。どちらのケースに近い動き方になるかは、あらかじめ分かるものではありません。この試算が示しているのは、期間の長さが結果に効くという関係そのものであって、どの期間が有利かということではないという点はご留意ください。なお、ここでの金額はいずれも仮に置いた条件のもとでの目安であり、将来の金額を約束するものではありません。

