公的年金は偶数月に支払われる仕組みです。次回は10月が年金支給日となります。年金に上乗せされる「年金生活者支援給付金」も同じタイミングで振り込まれるため、通帳の記載を見て「この入金は何だろう」と気づく方もいらっしゃいます。
一方で、現役の世代からは別の相談が寄せられます。手元の預金をどれだけ残しておけばよいのか、そして残した分の外側からどれくらいを資産形成に回してよいのか、という配分の悩みです。急な出費に備える資金の目安が決まらないと、その先の判断も動かせません。
老後の収入の一部になりうる公的な給付を知っておくことは、この配分を考えるうえでの材料になります。この記事では、2026年度の年金生活者支援給付金の金額、受け取れる人の所得の基準、請求の手続き、そして年金額に個人差が生じる理由を順に整理します。
なお、年金生活者支援給付金の制度内容や年金の平均受給額に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 年金に上乗せされる給付金|2026年度は前年度から3.2%の引き上げ
年金生活者支援給付金は、公的年金等の収入金額とその他の所得の合計が一定の基準を下回る方に、公的年金へ上乗せする形で支払われる給付です。制度の全体像については、年金生活者支援給付金とは?2026年最新の対象者・いくらもらえるか・ハガキが届かない理由を徹底解説でくわしく解説されています。
給付は「老齢」「障害」「遺族」の3種類に分かれており、それぞれ対象となる年金の受給者に設けられています。振り込みは公的年金と同じく2カ月に一度で、年金額に上乗せされる形です。金額は公的年金と同様、年度ごとに見直される仕組みになっています。
1.1 2026年度の給付基準額|引き上げ分は6月支給分から反映
2026年度の給付額は前年度より+3.2%の引き上げが決定しており、6月支給分にあたる「4・5月分給付金」から増額率が適用されています。3種類それぞれの2026年度の月額は、次のとおりです。
- 老齢年金生活者支援給付金(月額):5620円(※基準額)
- 障害年金生活者支援給付金(月額):1級7025円・2級5620円
- 遺族年金生活者支援給付金(月額):5620円
このうち老齢年金生活者支援給付金の5620円は、あくまで基準額という位置づけです。実際に振り込まれる額は、保険料を納めた期間などをもとに一人ひとり計算されます。同じ制度の対象になっても、金額がそろうわけではないという点は押さえておきたいところです。
2. 受け取れる人の条件|前年の所得が基準額を下回っているかどうか
3種類の給付には、それぞれ別の支給要件が定められています。共通しているのは、前年の所得が基準額を下回っているかどうかが判定の軸になっている点です。1つずつ確かめていきます。
2.1 老齢年金生活者支援給付金の要件|所得の基準は82万4100円と82万6500円の2本立て
老齢年金生活者支援給付金の対象となるのは、次の要件をすべて満たす方です。
- 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
- 同一世帯の全員が市町村民税非課税
- 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が、昭和31年4月2日以後に生まれた方は82万6500円以下、昭和31年4月1日以前に生まれた方は82万4100円以下(※2)
※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は除く
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で82万6500円を超え92万6500円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で82万4100円を超え92万4100円以下である方には「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される
ここで見ておきたいのは、所得の線が2本引かれていることです。1本目が82万4100円(昭和31年4月1日以前に生まれた方の場合)で、この額以下であれば老齢年金生活者支援給付金の対象になります。2本目が92万4100円で、1本目を超えていてもこの額以下であれば「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される扱いです。
昭和31年4月2日以後に生まれた方の場合は、この2本の線が82万6500円と92万6500円に置き換わります。生年月日によって基準額が変わるため、ご自身がどちらに当てはまるかを先に確かめる必要があります。
なお、この金額は世帯の合計ではなく、受給する本人の前年の公的年金等の収入金額とその他の所得を足した額です。判定に使う所得の範囲や年度ごとの金額は改定されることがあるため、ご自身が対象になるかどうかは、公的機関の情報や年金の窓口で確認していただく形になります。
2.2 障害年金生活者支援給付金の要件|前年の所得491万8000円以下
- 障害基礎年金の受給者である
- 前年の所得(※)が491万8000円以下である(扶養親族等の数に応じて増額される)
※ 障害年金等の非課税収入は除く
2.3 遺族年金生活者支援給付金の要件|前年の所得491万8000円以下
- 遺族基礎年金の受給者である
- 前年の所得(※)が491万8000円以下である(扶養親族等の数に応じて増額される)
※ 遺族年金等の非課税収入は除く
障害・遺族のいずれも、扶養親族等の人数に応じて基準額が増額される仕組みです。3種類に共通しているのは、判定の材料が前年の所得額だという点にあります。
3. 受け取るには請求の手続きが要る|届く書類と返送の流れ
要件を満たしていても、この給付は自動では支払われません。受け取るためには請求の手続きが欠かせない仕組みです。どのような流れになるのかを確かめておきます。
支給対象と判断された方には、日本年金機構から請求に関する書類が送付されます。基本的には、その書類に必要事項を記入して返送するだけで手続きは完了します。
これから老齢年金の受給を開始する方には、受給が始まる3カ月前に届く「年金請求書(事前送付用)」に「年金生活者支援給付金請求書」が同封され(緑色の封筒)、すでに年金を受給中の方にはハガキ形式の請求書が届きます(薄緑色の封筒)。
手元に届いた封筒の色で、どちらの案内かをおおよそ見分けられる形になっています。ご自身で新たに書類をそろえる必要は原則としてなく、届いた書類に記入して返送する流れです。書類が見当たらないまま時間が過ぎてしまうと請求が遅れますので、心当たりのある封筒は開封しておきたいところです。
4. 年金額の幅|同じ年代でも受け取る金額はそろわない
年金生活者支援給付金の対象になるかどうかは、前年の所得によって分かれます。そしてその所得の中心を占めるのは、多くの場合は公的年金です。つまり、年金額にどれだけの幅があるのかを知ることが、そのまま対象になりうる人の輪郭を知ることにつながります。平均的な水準を確かめておきます。
厚生年金の平均年金月額は〈全体〉15万289円、〈男性〉16万9967円、〈女性〉11万1413円(いずれも国民年金の金額を含む)。国民年金は〈全体〉5万9310円、〈男性〉6万1595円、〈女性〉5万7582円です。
年金の受給額はこれまでの加入状況によって決まるため、人によって大きな差が生じる点には注意が必要です。
厚生年金の全体平均は月15万円台で、年額に置き換えるとおよそ180万円になります。この水準であれば所得の基準額を上回りますので、老齢年金生活者支援給付金の対象からは外れる計算です。一方、国民年金の全体平均は月5万9310円で、年額ではおよそ71万円にとどまります。
もっとも、これはあくまで平均という1つの数字にすぎません。現役時代の働き方や加入していた期間によって、実際の金額は上下に大きく散らばります。同じ年代であっても、給付の対象になる方とならない方が分かれるのは、この幅の広さによるものです。
そして、公的年金の額がこれだけ人によって違うということは、現役のうちに自分で用意しておく部分の役割も人によって違うということでもあります。手元にいくら残し、その外側からどれくらいを回すのかという配分の判断が、ここで効いてきます。
世帯の収入がどのあたりで住民税非課税の線に届くのかについてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【住民税非課税世帯】給与・年金の収入基準《ボーダーラインはいくら?》知っておきたい5つの優遇制度!制度の基本とファクトを網羅した完全ガイド
5. 【独自試算】生活費の3カ月分・6カ月分・12カ月分を手元に残すと、20年後の到達額はどう変わるか
手元にいくら残すかという判断は、その外側に回せる金額を決める判断でもあります。生活費の何カ月分を手元に置くかによって、20年という時間を置いたときの結果がどう変わりうるのかを試算してみます。
5.1 3つのパターンに置いた前提
前提は次のとおりです。
- 手元にある預金:400万円
- ひと月の生活費:20万円
- 手元に残す額:3カ月分=60万円/6カ月分=120万円/12カ月分=240万円
- 残りを一括で運用に回す額:340万円/280万円/160万円
- 想定利回り:年3%/期間20年(240カ月)/月利で複利計算
- 手元に残した分は金額が変わらないものとして計算。利息・税金・手数料・インフレの影響は考慮しない
月利は年利を12で割るのではなく、年利から12乗根を用いて求めています(月利=(1+年利)の12分の1乗-1)。年3%の場合、月利は約0.2466%です。
5.2 20年後の金額を並べてみる
運用に回した部分が20年後にいくらになるかは、次のような計算になります。
- 3カ月分を残した場合:運用分340万円→約614万円(手元の60万円と合わせて約674万円)
- 6カ月分を残した場合:運用分280万円→約506万円(手元の120万円と合わせて約626万円)
- 12カ月分を残した場合:運用分160万円→約289万円(手元の240万円と合わせて約529万円)
同じ400万円から出発しても、20年後の合計には約145万円の幅が出る計算です。手元に残す額が小さいほど運用に回る元手は大きくなり、到達額の目安も大きくなります。
ただし、この並びは「手元を薄くしたほうがよい」ことを示すものではありません。手元に残した資金には、急な出費が生じたときに運用中の資産を値下がりした場面で取り崩さずに済む、という役割があります。備えが薄いまま値動きのある資産を持つと、いざというときに不利な時点で現金化することになりかねません。必要な備えの大きさは、収入の安定度、家族の状況、勤務先の制度などによって人それぞれ異なりますので、どのパターンが正解ということはありません。
5.3 差の大きさは想定利回りしだいで変わる
上の約145万円という幅は、想定利回りを年3%と置いた場合の結果にすぎません。同じ前提で想定利回りを年1%に置き換えると、20年後の合計は次のようになります。
- 3カ月分を残した場合:約475万円
- 6カ月分を残した場合:約462万円
- 12カ月分を残した場合:約435万円
この場合、3カ月分と12カ月分の差は約40万円まで縮みます。手元に残す額の違いが結果にどれだけ効くかは、想定した利回りの高さによって変わるということです。利回りを高く見積もるほど、手元に置くか外に回すかの選択が結果を大きく動かすように見えます。
そして、その利回りが実現するかどうかは前もってわかりません。年3%という数字は期間中ずっと同じ利回りが続いたと仮定した目安であり、実際には想定を下回る年も、投じた元本を割り込む局面もありえます。上の数字は、手元に残す額を決めるための材料の1つとして見ていただくものです。
※上記は利回りが期間中一定であると仮定した目安の試算です。実際の運用成果は市場環境によって変動し、想定を下回ることも、投じた元本を割り込むこと(元本割れ)もあります。将来の運用成果を保証するものではありません。税制や制度の取り扱いは改定されることがありますので、実行にあたっては公的機関の情報を確かめたうえで、関連する窓口や専門家にご確認ください。
6. 監修者コメント:手元に残す額に共通の正解はなく、共通しているのは決める順番
手元にいくら残せばよいかという問いには、家計を問わず通用する答えがありません。記事の試算が示しているのは金額そのものではなく、残す額を変えると20年後の景色がどう動くか、という関係のほうです。3カ月分という目安を見て安心する方も、12カ月分でも足りないと感じる方もいらっしゃいます。どちらの感覚も間違いではないと考えています。
目安を考えるときの材料としては、収入の入り方が挙げられます。毎月ほぼ同じ額が入る働き方と、月によって変動する働き方とでは、同じ金額を手元に置いていても心もとなさが違ってきます。また、勤務先の制度や公的な給付でまかなえる部分がどこまであるのかによっても、自分で備えておく範囲は変わります。記事で取り上げた年金生活者支援給付金のように、老後の収入に上乗せされる仕組みを知っておくことも、その範囲を測る材料の1つになります。
順番については、多くのご相談で共通している部分があります。手元に置く額の目安を先に決め、そのうえで外側にある資金の使い道を考える、という順です。逆にしてしまうと、備えの薄さに気づくのが値下がりの場面になってしまうことがあります。
なお、非課税の制度や年金に関わる制度は、対象となる範囲や税制上の取り扱いが改正されることがあります。ご自身のケースでどうなるかは、公的機関が公表している最新の情報を確かめたうえで、関連する窓口や専門家に確認していただく形になります。記事の数字は、考える順番を組み立てるための見取り図として使っていただければと思います。



