年金の話題が出ると、現役世代のあいだでは「毎月の手取りから、どのくらいを将来のために回しておけばよいのか」という問いが出てきます。手取りの5%なのか、10%なのか、それとももっと多くなのか。この割合に、すべての家計に当てはまる正解はありません。
ただ、判断の材料はあります。1つは、公的年金として受け取れる金額がどのくらいの水準にあるか。もう1つは、その年金を受け取る期間がどのくらいの長さになりそうか、という点です。
この記事では、厚生年金の平均月額と受給額の分布、平均寿命から見た年金を受け取る期間の長さ、そして長い期間を見込むうえで押さえておきたい認知症と終活のデータを順に確認していきます。
なお、厚生年金の受給額や老後の家計・資産管理に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 手取りから積立額を決める前に|厚生年金の平均月額と受け取る人の広がり
毎月の手取りのうち何割を将来に回すかを考えるとき、先に見ておきたいのが、その将来の収入の土台になる公的年金の水準です。土台が高ければ自分で用意する部分は小さくなり、低ければ大きくなります。
まずは、実際に受け取られている金額がどのくらいなのかを、LIMOの記事「【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説」から要点を引いて確かめます。
厚生年金の平均年金月額は〈全体〉15万289円、〈男性〉16万9967円、〈女性〉11万1413円(国民年金の金額を含む)。
1万円ごとの受給額分布をみると、10万円以上11万円未満が111万2828人と最も多く、次いで11万円以上12万円未満が107万1485人、15万円以上16万円未満が96万5035人と続きます。年金の受給額はこれまでの加入状況によって決まるため、人によって大きな差が生じます。
全体の平均は月15万289円ですが、この金額は国民年金の部分を含んだものです。男性が16万9967円、女性が11万1413円と男女で開きがあるのは、現役時代の収入と厚生年金への加入期間の違いが、そのまま2階部分の金額に反映されるためです。
あわせて見ておきたいのが、1万円ごとの人数分布です。最も人数が多いのは10万円以上11万円未満の111万2828人で、次が11万円以上12万円未満の107万1485人。全体平均の15万289円をはさむ15万円以上16万円未満にも96万5035人が並んでいます。人数の山が1カ所ではなく複数の帯にまたがっているところが、この分布の特徴です。
つまり、「平均は約15万円」という1つの数字だけで自分の土台の高さを見積もると、実際とずれる可能性があります。手取りの何割を積立に回すかを考えるうえでは、平均ではなくご自身の見込み額を、ねんきん定期便やねんきんネットで確かめておくほうが現実に近い出発になります。
2. 平均寿命は男性81.35年・女性87.33年|65歳から年金を受け取る期間を数える
土台の高さの次に確かめておきたいのが、その土台をどのくらいの期間にわたって使うことになるのか、という点です。
厚生労働省が公表する「令和7年簡易生命表の概況」によると、最新の平均寿命は男性が81.35年、女性が87.33年。前年と比較して男性は0.25年、女性は0.20年上回っており、長期的にも大きく伸びています。
この数字を65歳という区切りに置き換えて単純に差し引くと、男性で約16年、女性で約22年という期間になります。ここで1つ補足しておくと、平均寿命は0歳時点の平均余命を示した指標です。65歳まで生きた人の平均余命はこれより長くなるため、実際に年金を受け取る期間は、単純な引き算で出た年数よりも長くなる可能性があります。
それでも、この単純計算だけで20年前後という長さが見えてきます。手取りの何割を積立に回すかという問いは、言い換えれば「20年以上にわたって使うお金を、いまからどのくらいの速さで用意するか」という問いでもあります。割合を大きくすれば準備は早く進みますが、そのぶん現在の生活に使える金額は減ります。
そして、受け取る期間が長くなるほど、資産をどこに置くかという問題だけでなく、その資産をご自身で管理し続けられるかという問題も視野に入ってきます。長寿化のなかで避けて通りにくいのが、認知症への備えです。
2.1 認知症とMCIで約1002万人|65歳以上のおよそ3人に1人という推計
65歳以上のシニア層3603万人を対象にした令和4年度(2022年度)の推計値では、内訳は次のとおりです。
- 認知症: 約443万人(12.3%)
- 軽度認知障害(MCI): 約559万人(15.5%)
認知症と、その前段階とされるMCI(軽度認知障害。日常生活は送れるものの、記憶や判断の面で低下がみられる状態)を合わせると約1002万人となり、65歳以上のおよそ3人に1人が、認知機能に関して何らかのサポートや注意が必要な状況にあると推計されています。
資産の管理という観点でいえば、判断する力が変わっていく可能性を前提に置くかどうかで、準備の中身が変わります。口座や制度をあちこちに分けたまま年数が過ぎると、あとから全体像をたどるのが難しくなります。積立の割合を考える段階から、持ち先の数を絞っておくという考え方もあります。
こうした背景から関心が高まっているのが「終活」です。認知症による資産凍結や成年後見制度については、「【70代の貯蓄・年金・家計のリアル】老後赤字を加速させないためには?投資に頼らない防衛策を徹底解説!」でも取り上げられています。
3. 終活とエンディングノート|年代が上がるほど記入が進みにくくなる実態
長寿化と認知症のデータを踏まえて関心が高まっているのが「終活」です。NPO法人ら・し・さ(終活アドバイザー協会)の「第2回終活意識全国調査報告書【確定版】(2025年7月)」によると、「終活」という言葉の認知度は96.9%に達しています。言葉としてはほぼ行きわたっている一方で、「エンディングノート」については、知られていても実際の記入までは進んでいない状況がうかがえます。
3.1 認知度・所有率・実行率|3つの数字で見る進み具合
- 認知度:60歳代以上で9割を超える。
- 所有率:70歳代以上が24.2%と最も高いが、50歳代以下は1桁台。
- 実行率(持っている人のうち):20歳代が9割以上書いているのに対し、70歳代以上は約5割にとどまる。
認知度から所有率、そして実行率へと進むにつれて、数字は段階的に下がっていきます。とくに目を引くのが実行率の逆転で、所有率が最も高い70歳代以上で、持っている人のうち書けているのは約5割。一方、所有率が1桁台にとどまる20歳代では、持っている人の9割以上が記入まで進んでいます。
年齢が上がるほど書くべき項目が多岐にわたることや、「まだ早い」という心理的な先送り、あるいは健康上の理由などが重なって、筆が進みにくくなっている可能性が考えられます。資産や医療・介護の希望を書き残しておくという意味では、気力と体力に余裕がある時期に着手しておくほうが進めやすい、という見方もできます。
手取りの何割を運用に回すかという話と終活は、離れたテーマに見えるかもしれません。ただ、どちらも「いま持っているものを把握して、書き出しておく」という同じ作業から始まります。積立の割合を決めるためにつくった資産の一覧は、そのまま終活の準備の下地にもなります。
なお、この調査の概要は次のとおりです。
- 調査目的:高齢社会における終活意識の実態を明らかにし、個人が豊かで安心した人生後半期を送るための支援策や啓発活動に役立てる
- 調査対象:20~89歳の男女
- 調査地域:全国
- 調査方法:インターネットリサーチ
- 調査時期:2024年12月4日(水)~12月6日(金)
- 回答者数:2052名
- 割付方法:人口構成比割付(令和2年国勢調査の性年代別人口比率に基づく)
- 調査委託先:株式会社マクロミル
厚生年金を月15万円以上受け取っている人の割合や、私的年金を見直すときの考え方についてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【国民年金+厚生年金】月15万円(年180万円)以上もらう人は何%?平均受給額を一覧で確認!私的年金の見直しで押さえておきたいポイント
4. 【独自試算】手取りの5%・10%・15%を積立に回すと、20年後の到達額はどこまで変わるか
ここからは、手取りに対する積立の割合を変えた場合に、20年後の到達額の目安がどう動くかを試算で並べてみます。あくまで一定の条件を置いた計算であり、どの割合がよいかを示すものではありません。
前提は次のとおりです。毎月の手取りを30万円とし、想定利回りは年3%。期間は20年(240カ月)で、毎月同じ金額を積み立て、運用で得られた分はそのまま再投資するものとします。税金・手数料は考慮していません。月ごとの利回りは、年利をそのまま12で割るのではなく、(1+年利)の12分の1乗から1を引いて求めています(年3%の場合は約0.2466%)。
- 手取りの5%=毎月1万5000円:元本は360万円、20年後の到達額は約490万円
- 手取りの10%=毎月3万円:元本は720万円、20年後の到達額は約980万円
- 手取りの15%=毎月4万5000円:元本は1080万円、20年後の到達額は約1470万円
割合を5%から10%へ引き上げると、到達額の目安は約490万円増える計算になります。10%から15%へ引き上げた場合も、増える幅は同じく約490万円ほどです。毎月の金額に比例して結果も動くため、割合を2倍にすれば到達額の目安もおよそ2倍になる、という関係になります。
一方で、手取りに対する割合を高くするほど、日々の生活に使える金額は減ります。手取り30万円のうち15%を積み立てるということは、毎月4万5000円が生活費から抜けるということでもあります。急な出費に備える資金を別に確保できているか、その状態で20年続けられそうかという点も、割合を決めるうえでの判断材料になります。
なお、ここで示した金額はいずれも、想定した利回りが期間を通じて続いた場合の目安です。実際の運用には価格変動があり、元本割れとなる可能性もあります。将来の金額を保証するものではありません。また、無理のない割合は収入や家族構成、住まいの形によって変わりますので、ご自身の家計に当てはめて考えていただく必要があります。



