5. 増収増益の裏で、当期利益だけが+66.6%と跳ねた理由

連結の決算そのものにも触れておきたい。2026年3月期は売上収益1兆6,643億円で前期比+9.3%、営業利益1,039億円で+10.1%だった。

会社の説明によると、生産性の改善と徹底したコスト削減に取り組みながら、高付加価値製品や新技術の開発と拡販に注力した結果だという。

環境認識としては、米国の関税措置や地政学的なリスクの高まりで先行きの不透明感が増すなか、国や地域ごとに景気のばらつきが見られたとしている。中国では世界的なAI需要を背景に半導体やコンピュータ部品の輸出が堅調だった一方、不動産市場の低迷が長引き景気全体には停滞感が続いた、というのが会社側の整理だ。

ここで目を引くのが、利益段階ごとの伸び率の差である。営業利益が+10.1%なのに対し、税引前利益は1,337億円で+61.9%、親会社の所有者に帰属する当期利益は990億円で+66.6%と跳ねている。

税引前利益は営業利益を298億円上回った。営業段階の外側で発生した収益が、利益の伸びを大きく押し上げたと読み取れる。

この読みは、2027年3月期の会社予想とも整合する。営業利益は1,200億円と+15.4%が見込まれる一方、当期利益は870億円と▲12.2%。営業段階では伸びるのに最終利益は減るという予想は、前期の営業外の押し上げが繰り返される前提を置いていないことの現れだろう。

2027年3月期1Qは売上収益4,265億円、営業利益263億円、当期利益212億円で滑り出した。年間配当は前期の50円から60円へ増える予想となっている。

数字を並べ替えると、この会社の利益は「営業段階の実力」と「営業外の振れ」の二層で動いている。前者を見るならセグメント別営業利益、後者を見るなら税引前利益との差額。見たいものによって、開くページが変わる。

6. 5期の利益率とROEが示す、資本の回し方の変化

もう少し時間軸を伸ばしてみたい。連結の営業利益率は2022年3月期が8.2%、2023年3月期が7.5%、2024年3月期が5.2%、2025年3月期が6.2%、2026年3月期が6.2%と推移している。

売上収益は1兆1,241億円から1兆6,643億円まで5期連続で伸びた。にもかかわらず利益率は2022年3月期の水準に戻っていない。規模の拡大が、そのまま利益率の改善にはつながっていない。

ROE(自己資本利益率)を並べると別の姿が出てくる。13.9%、12.5%、8.1%、8.2%、そして2026年3月期が12.1%。電気機器の中央値7.4%を大きく上回る水準まで戻している。

利益率は中央値並みなのにROEは中央値の1.6倍。この組み合わせを成り立たせているのは、資産の回し方と資本構成の側だ。自己資本比率は49.5%で、電気機器の中央値62.2%より低い。

自己資本比率が低いことを、そのまま財務の弱さと読むのは早計だろう。負債を使って投下資本の生産性を取りにいく形とも読めるからだ。もっとも、その水準が最適かどうかは、金利環境と投資回収のペースを併せて見ないと判断できない。

投資は続いている。2026年3月期の設備投資は964億円、研究開発費は497億円。量を伸ばす事業への投資が止まっていないことは、この数字からうかがえる。

7. 筆者コメント

業界内での立ち位置に照らすと、この会社は「平均的な収益性で、平均より高い資本効率を出している会社」ということになる。

ふつう資本効率が高い会社は、利益率も高いことが多い。ここが噛み合っていないのは、収益性ではなく資本の使い方で差をつけているからだ。

そう考えると、冒頭のセグメントの話と地続きになる。厚く稼ぐ事業を1つ抱えながら、会社全体としては薄利の事業に規模と資本を投じ続けている。利益率の高い事業だけに資源を寄せれば数字は綺麗になるが、この会社はそれを選んでいない。

その選択が正しいかどうかを、外から短期間で判定することはできない。ただ、判定材料はセグメント別の利益率と設備投資の行き先にあると私は考えている。

決算資料を開くときは、連結の一行だけで満足せず、事業ごとの利益率がどう動いたかまで目を向けてほしい。

参考資料

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石津 大希