ミネベアミツミ(6479)という社名から私が思い浮かべていたのは、小さな部品を精密に削り出すメーカーの姿だった。その連想は、半分だけ当たっている。2026年3月期のセグメント別の数字を並べると、最も売っている事業と最も稼いでいる事業が入れ替わっているからだ。株価は2026年8月28日の終値で3,401円、前日と変わらない水準で引けている。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

ココがポイント
  • 2026年3月期のセグメント別営業利益は、売上構成16.9%のプレシジョンテクノロジーズが622億円で最大だった。
  • 売上構成35.5%のセミコンダクタ&エレクトロニクスの営業利益は266億円で、売上と利益の順番が入れ替わっている。
  • 連結の営業利益率6.2%は電気機器の中央値6.7%とほぼ並ぶが、その平均値は利益率22.1%の事業と5%前後の事業の合成である。

1. 売上では最小、利益では最大という二重の顔

まず売上収益から見ていきたい。2026年3月期の連結売上収益は1兆6,643億円だった。

このうちプレシジョンテクノロジーズは2,811億円で、構成比は16.9%。4つの報告セグメントの中で最も小さい。

逆に最大なのはセミコンダクタ&エレクトロニクスで、5,902億円、構成比35.5%。モーター・ライティング&センシングが4,565億円で27.4%、アクセスソリューションズが3,322億円で20.0%と続く。

ここまでの並びだけを見れば、この会社はもう精密部品の会社ではない、という結論になりそうだ。売上の3分の1超は半導体と電子部品の領域が担っている。

ところが営業利益を並べた瞬間、順番がひっくり返る。プレシジョンテクノロジーズの営業利益は622億円。売上で最小の事業が、利益では突出して最大になる。

セミコンダクタ&エレクトロニクスの営業利益は266億円、モーター・ライティング&センシングは269億円、アクセスソリューションズは170億円。売上で3倍以上の開きがある事業が、利益では半分にも届かない。

プレシジョンテクノロジーズという名前が示すのは精密技術だ。その名を冠した事業が、規模ではなく利益率で会社を支えている。これがこの会社の収益構造の骨格である。

2. 営業利益率22.1%と5%前後、同じ会社に同居する二つの経済

数字の落差はセグメント別の営業利益率にそのまま出る。

プレシジョンテクノロジーズの営業利益率は22.1%。これに対しモーター・ライティング&センシングは5.9%、アクセスソリューションズは5.1%、セミコンダクタ&エレクトロニクスは4.5%である。

4つの報告セグメントの営業利益を単純に足すと1,327億円になる。そのうち622億円、およそ47%を、売上構成では6分の1しかない事業が生んでいる計算だ。

1つの会社の中に、利益率が4倍以上違う事業が同居している。量を売って薄く稼ぐ経済と、量は小さくても厚く稼ぐ経済が、同じ連結決算の中で足し算されている。

前年からの動きを重ねると、この構造がさらに立体的になる。プレシジョンテクノロジーズは売上収益が前期比+10.0%、営業利益が+11.8%と、利益の伸びが売上の伸びをわずかに上回った。高い利益率をさらに切り上げている。

一方、セミコンダクタ&エレクトロニクスは売上収益が+16.1%、営業利益が+36.0%と、伸び率そのものは4事業で最も高い。ただし出発点の利益率が低いため、増えた金額は限られる。

伸び率で目を引くのは半導体と電子部品の側、金額で会社を支えているのは精密技術の側。同じ決算資料の中で、二つの読み方が同時に成立している。

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出所:ミネベアミツミ株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:ミネベアミツミ株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

電気機器と聞くと、大量に作って薄く広く稼ぐ産業というイメージが先に立つ。2026年3月期の連結営業利益率6.2%は、電気機器182社の中央値6.7%とほぼ並んでおり、そのイメージにきれいに収まって見える。

だが、その6.2%という平均値は、22.1%の事業と5%前後の事業を足して割った結果でしかない。平均で語った瞬間に、この会社の一番の特徴が消えてしまう。連結の利益率だけを眺めていると、そこに何が入っているのかは見えないままだ。

3. 2026年8月に4,000円台から下げた株価と、PER15.7倍・PBR1.47倍

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

直近1カ月の株価を追うと、2026年7月30日の終値が3,512円。そこから水準を切り上げ、8月5日には4,000円台に乗せて4,096円をつけた。この1カ月では最も高い終値である。

しかしそこが折り返し点だった。8月中旬にかけて3,700円台、3,600円台と段階的に下げ、8月24日には3,344円まで沈む。直近1カ月では最も低い終値だ。

そこからは小さく戻し、8月27日が3,401円、そして8月28日も3,401円と、前日と同じ水準で引けた。起点の7月30日と比べると3%台の下落、8月5日の終値と比べると17%低い水準にある。

なぜ月の後半にかけて水準を切り下げたのか。株価が動く理由は相場全体の地合いや需給が絡むため断定はできないが、いくつか意識されやすい材料は挙げられる。

2027年3月期の会社予想は、売上収益1兆6,900億円で前期比+1.5%、営業利益1,200億円で+15.4%。一方で当期利益は870億円と前期比▲12.2%が見込まれている。増収増益の予想の中に、当期利益の減少が混じっている形だ。

加えて2027年3月期1Qの営業利益は263億円で、通期予想1,200億円に対する進捗率は21.9%。四半期を均等に並べたときの25%をやや下回る。この2点が重なると、上方への期待は積み上がりにくい。

バリュエーションは、2026年8月28日時点でPER15.7倍、PBR1.47倍。PBRは1倍を上回る水準を保っており、株価が資産の帳簿価額を下回るところまでは売られていない。

4. 筆者コメント

印象的なのは、この会社が「平均的な電気機器メーカー」の顔と「利益率22%の事業を抱える会社」の顔を、同時に持っていることだ。

連結の利益率だけを見ている投資家には前者しか見えない。セグメントを開いて初めて後者が現れる。同じ決算資料から、まったく違う会社像が二つ出てくる。

そして厄介なことに、この二つはどちらも正しい。平均は嘘をついていないし、内訳も嘘をついていない。嘘をついているとすれば、平均だけで足りると思い込む読み方のほうだろう。

私はこの手の会社を見るとき、まず「利益はどこから出ているか」を先に確かめるようにしている。売上の並びと利益の並びが一致している会社なら、その手間はいらない。一致していない会社にこそ、決算資料を開く価値がある。

株価の一日の動きよりも、こちらの構造を先に押さえておくことをおすすめしたい。