3. 営業CFが5期で2.3倍。稼ぎ方そのものが変わった

損益よりも大きく形が変わったのは、現金の流れのほうだ。

営業活動によるキャッシュ・フロー、いわゆる営業CFは、2022年3月期の7,299億円から2026年3月期は1兆6,681億円まで拡大した。5期で2.3倍である。

会社は増加の理由を、事業再編等損益などを除いた当期利益の増加と、前受金(契約負債)の獲得による収入の増加としている。

前受金が効くというのは、受注を先に取り、代金の一部を先に受け取る構造が厚みを増したということだ。長期の請負契約が積み上がる事業では、運転資本が現金の出し手ではなく受け手に回る。

投資活動によるキャッシュ・フローは▲3,416億円にとどまった。設備投資額が4,739億円と直近5期で最も大きいにもかかわらず、である。

この結果、フリー・キャッシュ・フロー(営業CFと投資CFを合わせたもの)は1兆3,265億円となった。2026年3月期の上場企業では、トヨタ自動車に次ぐ2番目の大きさである。

M&Aや資産売却に係る部分を除いた経常的なコア・フリー・キャッシュ・フローでも、1兆1,702億円に達する。

重量級のメーカーと聞くと、設備に現金を食われて手元に残らないイメージが先に立つ。だが直近の数字を見ると、その姿は当てはまらない。設備投資を過去5期で最も厚くしながら、なお1兆円規模の現金が残っている。

4. 自己資本比率43.7%は、財務の重さを意味するのか

一方で、貸借対照表の見え方は少し違う。

2026年3月期末の親会社株主持分比率は43.7%で、前年度末の44.0%からわずかに下がった。電気機器の業種中央値62.2%と並べると、かなり低い。

数字だけを取り出せば財務が重いように映る。ただ、中身は逆を向いている。

有利子負債は前年度末から1,970億円減り、1兆90億円となった。これに対して現金及び現金同等物は1兆3,234億円あり、負債残高を上回っている。資本合計に対する有利子負債の比率は0.15倍だ。

では何が総資産15兆412億円を膨らませているのか。買収で積み上がったのれん2兆6,475億円と、受注・売上の拡大に伴う運転資金の増加である。後者は会社自身が総資産増加の理由として挙げている。

つまりこの会社の自己資本比率の低さは、借入の重さではなく、買収した資産と拡大した事業がバランスシートに載っていることの裏返しと読み取れる。債券格付も、ムーディーズがA2、S&PがAである。

ここで一つ、素直には喜べない論点もある。負債をほとんど使わない財務が、資本効率の面で最適とは限らない。

会社はROIC(投下資本利益率)を経営管理指標に据え、リターンが加重平均資本コストを上回る必要があると明記している。その規律を掲げる以上、使える負債枠をどこまで遊ばせておくのかは、投資家として見ておきたい論点になる。

5. 稼いだ現金はどこへ向かったのか。Inspire 2027のKPIと重ねる

財務活動によるキャッシュ・フローは▲9,710億円で、前年度から5,469億円支出が増えた。会社は自己株式の取得による支出の増加と、借入金の純支出額の増加を理由に挙げている。

投資側が▲3,416億円で収まったのは、前年度にあったThales社の鉄道信号関連事業の買収支出がなくなり、当年度は空調事業の合弁会社の株式売却収入が入ったためだという。

つまりこの期の日立は、投資を絞ったのではない。買う動きと売る動きが打ち消し合い、差し引きの投資CFが小さく見えているだけである。

過去5期を並べれば、投資CFが2023年3月期にプラスへ振れた年もある。入れ替えの振幅は、もともと大きい。

実際、直近も動きは活発だ。ドイツのsynvert社を買収し、米国Shermco社の少数持分を取得した。同時に日立建機とAstemoの株式一部譲渡、日立チャネルソリューションズの資本再編を決め、2026年4月には日立グローバルライフソリューションズの家電事業の資本再編も決定している。

会社は資金使途を、成長に向けたM&A、人財への投資、設備投資や研究開発投資、株主還元と示し、コアFCFと資産売却で得た資金をこれらへ配分するとしている。

その配分の結果は、経営計画「Inspire 2027」のKPIにも表れる。2026年3月期の実績は、売上収益の年成長率が8.2%(目標は2024年度から2027年度のCAGRで7〜9%)、利益をどれだけ現金に変えられたかを測るキャッシュフローコンバージョンが103%(2027年度目標は90%超)、ROICが12.4%(同12〜13%)である。

現金の創出と資本効率については、すでに目標圏に入っている。残る宿題はAdjusted EBITA率だ。買収で認識した無形資産の償却費を戻し入れた調整後の利益率で、実績12.4%に対し2027年度目標は13〜15%となる。稼ぐ現金が先に伸び、利益率の底上げが後から追いかける構図といえる。

なお研究開発費は、2022年3月期の3,173億円から2026年3月期は2,903億円へ減っている。売上収益が伸びる中での減少だが、この5期で連結の顔ぶれが大きく入れ替わっている点は差し引いて見る必要がある。

直近の2027年3月期1Qは、売上収益2兆7,096億円、当期利益2,031億円で立ち上がった。通期の売上収益予想は11兆7,000億円で、2026年4月に示していた11兆1,000億円から引き上げられている。

次の2027年3月期上期決算で見たいのは、利益の絶対額よりも、営業CFと前受金がこの勢いを保っているかどうかではないだろうか。

6. 筆者コメント

営業CFの伸びと自己資本比率の低さを並べて見ると、この会社の今の形が見えてくる。

日立は、稼いだ現金を事業の入れ替えに回し続けている会社だ。買った資産はのれんとして残り、売った事業は利益として一度だけ載る。

同じ期に減損と売却益が同居するのは、その副作用だと私は考えている。

だとすれば、単年度の最終利益だけでこの会社を測るのは筋が悪い。買収で積んだのれんが将来の利益として返ってくるのか、それとも減損として戻ってくるのか。

答えは損益計算書の一番下ではなく、キャッシュ・フロー計算書の三つの段の並びに先に現れる。株価の往復も、そこと無縁ではないだろう。市場は入れ替えの途中経過を、まだ一つの絵として値付けしきれていないようにみえる。

決算を追うときは、利益の増減より先に、営業・投資・財務の三つのキャッシュ・フローを横に並べる癖をつけることをおすすめしたい。

参考資料

石津 大希