4. ROE10.1%と▲3.5%、同じ輸送用機器で分かれた資本効率

ここでホンダ<7267>を隣に置いてみたい。輸送用機器という同じ区分に属し、決算期も会計基準も揃う。トヨタ自動車の対照として、読者が違和感なく受け止められる相手だろう。

売上規模は2倍以上開くので、絶対額を並べても意味は薄い。比率で見ることになる。

2026年3月期のROE(自己資本利益率)は、トヨタ自動車が10.1%、ホンダが▲3.5%。ホンダの売上収益は21兆7,966億円と前期並みを保ったものの、営業損失▲4,143億円、当期損失▲4,239億円で赤字転落した。1株当たり利益も▲106.06円である。

同じ期に、ホンダは6,920億円の減損損失を計上している。赤字の規模と並べれば、この減損が損益に与えた重さは見当がつく。

一過性の色が濃い項目でも、自己資本を実際に削る以上、ROEの分母と分子の両方に効く。単年の資本効率が大きく振れるのは、こうした場面だ。

5. 差は2026年3月期に生まれたわけではない

5期を並べると、別の姿が出てくる。ROEはトヨタ自動車が2022年3月期11.5%、2023年3月期9.0%、2024年3月期15.8%、2025年3月期13.6%、2026年3月期10.1%。ホンダは同じ順に7.2%、6.0%、9.3%、6.7%、▲3.5%と続く。

トヨタ自動車も2024年3月期の15.8%を頂点に、2期続けて低下している。絶対水準は落ちているのだ。

それでも両社の開きは、この5期を通じて一貫して3ポイント以上あった。直近期はそこに赤字が乗って一気に広がっただけで、差そのものは以前からある。

では、その差はどこから出ているのか。ROEは利益率と資産の回転、そして財務レバレッジに分解できる。順に当てていこう。

まず回転だ。2026年3月期の総資産回転率は、トヨタ自動車が0.48回、ホンダが0.65回。輸送用機器の中央値は0.95回だから、両社とも大きく下回る。

自動車メーカーは製造業の代表格として語られやすい。だが金融事業を抱える両社の貸借対照表は、車を作って売るだけの会社とは形が違う。資産を速く回して稼ぐタイプではないのだ。

効いているのは利益率のほうだ。トヨタ自動車の2026年3月期の営業利益率は7.4%で、輸送用機器の中央値5.3%を上回り、上位四分位の6.9%も超えている。ホンダはこの期が営業赤字なので、利益率で並べる土俵に乗らない。

レバレッジも見ておきたい。自己資本比率はトヨタ自動車が37.8%、ホンダが35.3%で、業種の中央値53.2%を大きく下回る。両社とも他人資本を厚く使う構造で、そのぶんROEは押し上げられやすい。

無借金や高い自己資本比率を健全さの証と受け止める感覚からすると、逆向きに見えるかもしれない。ただ金融事業を持つ会社にとって、負債は避けるべきものというより事業の原材料に近い。

時系列に広げると、両社の資本の厚みは逆方向へ動いている。ホンダの自己資本比率は2022年3月期の43.7%から2026年3月期の35.3%まで下がった。同じ5期でトヨタ自動車は38.8%から37.8%と、ほとんど動いていない。

つまりホンダは資本の厚みが薄れていく過程にあり、トヨタ自動車は水準を保ったまま利益率でROEを支えてきた。同じ数字の低下でも、中身の意味は違う。

稼いだ利益をどれだけ社内に残すかも、自己資本の厚みを左右する。トヨタ自動車の2026年3月期の配当性向は32.2%で、輸送用機器の中央値32.2%とほぼ重なる。株主への配分という点では、業種の真ん中に位置している。

6. 業種の物差しに載せると二社の位置が変わる

輸送用機器76社のROE中央値は6.1%、上位四分位は10.1%。トヨタ自動車の10.1%はちょうど上位四分位に並ぶ水準で、業種の中では上位に位置する。ホンダは中央値どころか符号そのものが違う。

ただし、これを「トヨタが優れ、ホンダが劣る」で片づけると読み違える。時点をずらすと順序が入れ替わるからだ。

直近1Qの営業利益率を計算すると、トヨタ自動車が7.9%に対してホンダは8.8%。ホンダのほうが高い。

ホンダの2027年3月期1Qは、売上収益6兆615億円で+13.5%、営業利益5,307億円で+117.4%、親会社の所有者に帰属する四半期利益は4,509億円で+129.3%だった。会社によれば、増収は金融サービス事業や二輪事業の伸び、為替換算の影響などによるもので、営業利益の増益は前年同期のEV関連損失の影響や関税影響などによる。

通期予想も売上収益24兆1,500億円で+10.8%、営業利益6,500億円、当期利益4,000億円と黒字転換を見込んでいる。

つまり資本効率の差は固定されたものではない。単年のROEは、その期に何が乗ったかで大きく振れる。5期の並びで見える構造的な開きと、単年の落差は分けて捉えたい。

7. 筆者コメント

見逃せないのは、ROEという指標が事業の稼ぐ力だけで決まるわけではない点だ。

分母である自己資本は、経営の判断ひとつで動く。トヨタ自動車は2027年3月期1Qに3兆6,568億円の自己株式を取得し、消却も進めた。親会社の所有者に帰属する持分は2026年3月末の39兆9,188億円から、6月末には37兆3,088億円へ縮んでいる。

利益が同じでも、分母が細れば資本効率の数字は上がる。ここに、この指標の厄介さがある。事業の生産性が改善したのか、それとも資本を株主に返しただけなのか、比率の水準だけを眺めても切り分けられない。

だから私は、ROEを見るときには必ず三つに分けて眺めることをおすすめしたい。利益率が動いたのか、資産の回転が変わったのか、レバレッジが効いたのか。どれが動いたかで、その会社に起きていることの意味はまるで違ってくる。

株価が2月末の水準へ戻るかどうかを待つより、この三つのどこが変わるかを追うほうが、会社の姿はずっと正確に見えるはずだ。

参考資料

石津 大希