今年もお盆で実家に帰省し、家族や親族と顔を合わせたという方も多いのではないでしょうか。里帰りのたびに、両親の白髪が増えていることに気づいて、はっとした方もいるかもしれません。
内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、日本人の平均寿命は男性81.1歳・女性87.1歳である一方、日常生活に制限のない「健康寿命」は男性72.6歳・女性75.5歳。両者には男性で8〜9年、女性で11〜12年もの差があります。
「人生100年時代」と聞くと、親子でゆっくり話せる時間はまだ十分にあるように感じますが、家族で落ち着いて将来を話し合える期間は、実は思っている以上に短いのが実情です。
年齢を重ねるにつれ、「実家の財産はどうなっているのだろう」「お墓はこれからどうしていくのだろう」と、気になり始める方も多いのではないでしょうか。
筆者自身はすでに両親を見送っていますが、同世代と話していると、「親の預貯金がどうなっているか全く知らない」「お墓の管理を誰が引き継ぐのか、どう切り出せばいいか分からない」といった悩みを耳にする機会が年々増えています。
9月には秋のお彼岸や敬老の日も控えています。お盆の帰省で感じたことを忘れないうちに、「親と過ごせる時間」の現実と、供養やお墓をめぐる親子の意識、そして将来の備えの土台となる50〜60歳代(二人以上世帯)の最新の貯蓄事情、相続トラブルの実態について整理していきます。
-
平均寿命と健康寿命の差は男性で約8〜9年、女性で約11〜12年あり、家族で落ち着いて話し合える時間は意外と短い
-
60歳代の53.2%が「墓じまい」に関心を持つ一方、親と供養方法を「すでに話し合っている」人はわずか14.6%にとどまる
-
50歳代の金融資産は平均1908万円・中央値700万円、60歳代は平均2683万円・中央値1400万円と世帯差は大きい
1. 人生100年時代で「親と過ごせる時間」は想像以上に短い
50歳代・60歳代はご自身の老後資金作りに追われる一方で、親世代の介護や相続という重いバトンを受け取る人が多い時期でもあります。自分が実家の整理や様々な手続きで大変さを実感したからこそ、「自分の子どもたちには同じ苦労を背負わせたくない」と考える方が増えるのもごく自然なことです。
人生100年時代といわれるようになり、「まだ親は元気だから大丈夫」と感じている方も多いかもしれません。
しかし、政府が公表する平均寿命や健康寿命のデータを見ると、「家族で落ち着いて将来について話し合える期間」は、私たちが思っているほど長くはないことが分かります。
公的データから「話し合える時間」の現実を見ていきましょう。
1.1 データで見る「平均寿命」と「健康寿命」の差
内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、日本人の平均寿命と健康寿命は次のようになっています。
平均寿命
男性:約81.1歳
女性:約87.1歳
健康寿命
男性:約72.6歳
女性:約75.5歳
平均寿命と健康寿命には、男性で約8〜9年、女性で約11〜12年の差があります。
もちろん健康寿命を過ぎたからといってすぐに判断能力が低下するわけではありません。しかし、年齢とともに病気や入院、身体機能の低下などによって、長時間の話し合いや複雑な手続きを進めることが難しくなるケースは少なくありません。
「まだ元気だから大丈夫」と思っている時期こそが、将来について落ち着いて話し合える貴重な時間といえるでしょう。
1.2 お墓・供養・財産の話は「元気なうち」だからこそ決めやすい
お墓をどうするのか、永代供養を希望するのか、それとも先祖代々のお墓を守ってほしいのか。
また、預貯金や不動産、相続についても、本人の希望を直接確認できることは家族にとって大きな安心につながります。
一方で、体調を崩してからでは話題そのものを切り出しにくくなったり、入退院を繰り返すなかで十分な時間が取れなかったりすることもあります。
終活は「人生の終わりの準備」というよりも、残される家族の負担を減らし、自分の希望をきちんと伝えるための準備でもあります。
だからこそ、お盆など家族が集まる機会は、お墓や供養、財産について自然に話し始めるきっかけとして活用しやすいタイミングといえるでしょう。
1.3 「いつか聞こう」は、思っているより早くその機会を失う
日々の忙しさのなかで、「次の帰省のときに聞けばいい」「もう少し落ち着いてから話そう」と先送りしているうちに、病気や入院をきっかけに、思うように話せなくなることがあります。
実際に親を亡くしたあと、「お墓をどうしてほしかったのか」「財産をどのように整理したかったのか」が分からず、家族で悩むケースは決して珍しくありません。
亡くなってからでは、本人の本当の気持ちを確認することはできません。だからこそ、「まだ早い」と思える今こそが、実は最も話しやすいタイミングなのではないでしょうか。
2. 50歳代・60歳代の貯蓄事情|平均額と中央値から資産状況を読み解く
ここからは、セカンドライフが近づく50歳代・60歳代の資産状況について、J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」をもとに確認していきます。
今回は二人以上世帯のデータを紹介しますが、老後資金の準備や終活について考えるうえでは、単身世帯にとっても共通する重要なテーマです。
※ここでいう金融資産には、日常生活の支払いに備える普通預金などは含まれていません。
2.1 50歳代・二人以上世帯「貯蓄の平均・中央値・個人差を見る」
- 金融資産非保有:18.2%
- 100万円未満:6.5%
- 100万〜200万円未満:6.4%
- 200万〜300万円未満:4.1%
- 300万〜400万円未満:3.5%
- 400万〜500万円未満:2.2%
- 500万〜700万円未満:6.7%
- 700万〜1000万円未満:7.7%
- 1000万〜1500万円未満:9.3%
- 1500万〜2000万円未満:6.1%
- 2000万〜3000万円未満:8.1%
- 3000万円以上:18.8%
- 無回答:2.2%
- 平均:1908万円
- 中央値:700万円
老後生活が徐々に現実味を帯びてくる50歳代では、金融資産の平均額は約1900万円となっています。退職後の生活を見据え、計画的に資産形成を進めている世帯が一定数いることが分かります。
一方で、「金融資産非保有」と回答した世帯も18.2%存在しており、およそ5世帯に1世帯は金融資産を保有していないという現実があります。
50歳代は、子どもの教育費が大きな負担となる時期であることに加え、親の介護費用など、自分自身の老後準備以外にもさまざまな支出が重なりやすい年代です。こうした家庭ごとの事情が、資産形成にも影響していると考えられます。
2.2 60歳代・二人以上世帯「貯蓄の平均・中央値・個人差を見る」
- 金融資産非保有:12.8%
- 100万円未満:4.7%
- 100万〜200万円未満:3.9%
- 200万〜300万円未満:3.0%
- 300万〜400万円未満:2.8%
- 400万〜500万円未満:1.8%
- 500万〜700万円未満:6.2%
- 700万〜1000万円未満:6.3%
- 1000万〜1500万円未満:8.9%
- 1500万〜2000万円未満:8.0%
- 2000万〜3000万円未満:12.4%
- 3000万円以上:27.2%
- 無回答:2.0%
- 平均:2683万円
- 中央値:1400万円
60歳代になると、退職金の受け取りなども影響し、50歳代と比べて金融資産額は大きく増える傾向があります。
ただし、平均額である2683万円は、一部の高額資産を保有する世帯によって押し上げられやすい数字です。そのため、実際の資産状況を把握する際には、中央値である1400万円もあわせて確認することが大切です。
「3000万円以上」の金融資産を保有する世帯が27.2%に達する一方で、定年退職を迎える年代になっても12.8%の世帯が「金融資産非保有」の状態です。
老後を迎える年代になれば自然と資産が増えるわけではなく、現役時代からどのように備えてきたかによって、大きな差が生じることがデータからも読み取れます。
3. 筆者からのコメント
人生100年時代とはいえ、内閣府「令和7年版高齢社会白書」を見ると、要介護・要支援の認定を受けている人の割合は、75歳を境に大きく上がっていることがわかります。
65〜74歳では要介護3.0%・要支援1.4%にとどまるのに対し、75〜84歳では要介護11.6%・要支援6.0%、85歳以上では要介護44.5%・要支援14.0%まで上昇します。年齢が上がるほど、複雑な話し合いを避けたくても避けられない体調の変化が起きやすくなる、ということです。
つまり、「まだ元気だから」と感じられる65〜74歳のうちこそ、実は家族で複雑な話し合いができる時間を最も確保しやすい時期だといえます。
お墓や財産の話は、認定率が跳ね上がる75歳を待ってから切り出そうとすると、想像以上にタイミングを逃しやすいテーマです。お盆はすでに過ぎてしまいましたが、9月の秋のお彼岸や敬老の日など、次に家族が集まる機会を、数字が教えてくれる「今」を意識するきっかけにしてみてはいかがでしょうか。
