スーパーの野菜売り場に並ぶしいたけやしめじ、えのきたけ。これらが「林産物」に分類されていることをご存じでしょうか。

木材以外に森林から得られる産物を、林業の世界では「特用林産物」と呼びます。

今回は林野庁が令和8年6月に公表した「令和7年度森林・林業白書」をもとに、この特用林産物がどれくらいの産出額を生んでいるのかを見ていきます。

この記事の3つのポイント
  • 令和6年の特用林産物の産出額は2437億円で、前年の2306億円から5.7%の増加
  • 「栽培きのこ類生産」が9割超の2323億円。品目別ではぶなしめじが574億円で最多
  • 「薪炭生産」は71億円、「林野副産物採取」は43億円

1. 「特用林産物」とは何か

まず、言葉の定義から確認しましょう。

白書によると特用林産物とは、森林原野を起源とする生産物のうち一般に用いられる木材を除いたものの総称です。食用きのこ類、樹実類や山菜類、漆や木ろうなどの工芸品の原材料、竹材、桐材、木炭、森林由来の精油や薬草・薬樹など、多彩な品目で構成されています。

つまり「木材以外に森林から得られるもの」を幅広くまとめた概念といえます。

日常生活の中で、私たちは思いのほか特用林産物に触れています。きのこ類はもちろん、栗やくるみといった樹実類、たけのこやわらびなどの山菜、漆器に使われる漆、七輪で使う木炭、竹製のざるや箸。いずれも森林由来の産物です。

2. 産出額は2437億円、9割超がきのこ

では、その産出額はどれくらいなのでしょうか。

林野庁の資料によると、令和6(2024)年の特用林産物の産出額は2437億円でした。内訳は次のとおりです。

  • 栽培きのこ類生産:2323億円
  • 薪炭生産(薪、木炭等):71億円
  • 林野副産物採取(樹実類、山菜類、漆等):43億円

栽培きのこ類が全体の9割以上を占めており、特用林産物の産出額は事実上「きのこの生産額」といってよい構成になっています。

前年の令和5年は2306億円でしたので、1年で131億円、5.7%の増加です。増加分のほとんどは栽培きのこ類(2199億円→2323億円)によるもので、薪炭生産は72億円から71億円へ、わずかに減っています。

なお、国内の林業産出額は令和6年で5713億円(前年比160億円、2.9%増)です。白書は特用林産物の産出額が林業産出額の約4割を占めると記しており、木材生産と並ぶ大きな柱であることがわかります。

3. 品目別ではぶなしめじが最多の574億円

栽培きのこ類の中身を、品目別に見てみましょう。

  • ぶなしめじ:574億円
  • 生しいたけ:558億円
  • まいたけ:368億円

最も多いのはぶなしめじの574億円です。前年は生しいたけが562億円で1位、ぶなしめじが534億円で2位でしたので、令和6年に順位が入れ替わったことになります。

生産量の面では、令和6年のきのこ類全体で43万5000t(前年比0.2%減)とほぼ横ばいでした。品目ごとの動きには差があり、まいたけが前年比2.4%増、えのきたけが2.7%増となった一方、乾しいたけは13.4%減と大きく落ち込んでいます。

きのこ類は国内需要の88%が国内で生産されており、輸入依存度が低い食材です。一人当たりの年間消費量は令和6年度に3.3kg(前年度比3.1%増)となりました。

4. なぜきのこが突出しているのか

きのこ類が圧倒的な比率を占めている理由は、その生産形態にあります。

現在流通しているきのこの多くは、菌床栽培という方法でつくられています。おがくずなどを固めた菌床に菌を植え付け、温度や湿度を管理した施設内で育てる方式です。天候に左右されにくく、年間を通じて安定的に出荷できます。

いわば「工場のように生産できる林産物」であるため、他の特用林産物と比べて生産量を伸ばしやすいのです。

これに対して、山菜の採取や木炭の生産は、季節や自然条件に依存し、担い手の高齢化も進んでいます。林野副産物採取が43億円、薪炭生産が71億円という金額にとどまっているのは、こうした事情が背景にあります。

なお、きのこの生産者戸数は令和6年で約2万戸(前年比5.0%減)と減少が続いています。そのうち約1万戸を占める原木しいたけの生産者は、高齢化の進行や原木調達の難しさから10年間で半減しました。

5. 価格は本当に安定しているのか

スーパーのきのこ売り場は、他の野菜と比べて価格の変動が小さいと感じたことはないでしょうか。

その背景も、菌床栽培という生産方式にあります。屋外で育てる野菜は、天候不順や台風、猛暑によって収穫量が大きく変動し、価格が跳ね上がることがあります。一方、施設内で温度と湿度を管理して育てるきのこは、こうした影響を受けにくい構造になっています。

ただし「常に安定している」とまではいえません。令和6年の乾しいたけは、生産者の減少や秋季の天候不順などから生産量が前年比13.4%減となり、価格は1kgあたり5766円(前年比27.3%増)まで上昇しました。白書はこれを昭和58(1983)年以来の高値と記しています。

コスト面の圧力も強まっています。白書は、燃油・電気代に加えて、きのこ生産に用いる原木やおが粉の価格高騰により、生産資材の安定的・効率的な調達が困難な状況となり、経営に影響が生じていると指摘しています。栽培きのこ類の産出額が増えた要因のひとつも、価格の上昇でした。

家計にとってきのこが比較的頼りになる食材であることは変わりませんが、「天候に強い」ことと「価格が動かない」ことは同じではない、という点は押さえておきたいところです。

6. 山村地域を支える収入源として

特用林産物には、金額以上の意味があります。

木材は植えてから収穫まで数十年を要しますが、きのこや山菜は毎年収入が得られます。この「短いサイクルで現金収入が得られる」という性質が、山村地域の暮らしを支えてきました。

また、きのこの菌床やほだ木には木材が使われます。木材生産と特用林産物生産は、原料の面でもつながっているわけです。生産者のなかには、菌床やほだ木に国産材を使っていることをマークで表示する取り組みも進められています。

近年は、産地のブランド化や機能性に着目した新商品開発、デジタル技術を使った栽培管理といった動きも広がっています。国の食料・農業・農村基本計画(令和7年4月閣議決定)では、令和12(2030)年のきのこ類の生産量を47万tと設定しています。

7. 木炭や漆にも光が当たる可能性

金額としては小さい薪炭生産(71億円)や林野副産物採取(43億円)ですが、需要が消えたわけではありません。

木炭の国内生産量は長期的に減少傾向で、令和6年は前年比6.4%減の1万6000tでした。それでも飲食店や茶道では根強い需要があり、電力なしで使えることから災害時の燃料としても活用されています。国産木炭の品質の高さを評価して海外市場への参入を目指す動きもあります。

近年注目されているのは、木炭を土壌改良材として農地に施用する「バイオ炭」です。分解されにくい炭素を土壌に貯留する効果があり、気候変動の緩和にもつながることから、J-クレジット制度で温室効果ガスの排出削減活動としてクレジット化が可能になっています。

一方、アウトドア需要などで増加傾向にあった販売向けの薪は、令和6年の生産量が前年比1.0%減の6万2000立方メートルとなりました。竹材の生産量も前年比2.2%減の88万束です。

漆は、伝統工芸品の修復や文化財の保存に欠かせない素材です。令和6年の国内生産量は1.8t(前年比8.5%増)で、国内消費量31.2tに対する自給率は5.7%。文化庁が国宝・重要文化財建造物の保存修理に原則として国産漆を使う方針としていますが、その理想的な修理周期での年平均使用量である約2.2tにも届いていません。

こうした品目は、生産量こそ限られるものの、代替がききにくいという特徴を持ちます。産出額の大小だけでは測れない価値がある分野といえるでしょう。

8. まとめにかえて

今回は、林野庁「令和7年度森林・林業白書」から特用林産物の産出額を確認しました。

  • 令和6年の特用林産物の産出額は2437億円、前年比5.7%増
  • 栽培きのこ類生産が9割超の2323億円。品目別最多はぶなしめじの574億円
  • 薪炭生産は71億円、林野副産物採取は43億円
  • 乾しいたけは生産量が13.4%減、価格は昭和58年以来の高値に

なお、特用林産物の産出額は「令和5年度森林及び林業の動向」までは農林水産省「特用林産基礎資料」に基づいて算出されており、現在は「林業産出額」がベースになっています。過去の記事や資料と数字が一致しない場合は、統計の出所をご確認ください。

いつも食卓に並ぶきのこが、実は2000億円規模の林産業を支えています。次に手に取るときは、そんな背景も思い出してみてください。

9. 【執筆者コメント】山のそばで暮らしていても、見えていなかったこと

私は群馬県に住んでおり、家の周囲は山に囲まれています。そのため、きのこや山菜、木炭がまとめて「森林から得られる産物」として扱われることには、あまり違和感がありませんでした。

意外だったのは、その内訳です。2437億円のうち9割超が栽培きのこ類で、その多くは施設のなかで温度と湿度を管理してつくられています。特用林産物という言葉から山の風景を思い浮かべていたのですが、金額の大半を占めていたのは、むしろ工場に近い生産現場でした。

品目別の順位も目を引きました。ぶなしめじが574億円で、生しいたけの558億円を抜いて1位。差は16億円ほどで、売り場で受ける印象とは必ずしも一致しないようです。

一方で、山側の数字は厳しいものでした。原木しいたけの生産者は10年で半減し、木炭の生産量も減少が続いています。漆は自給率5.7%で、文化財の修理に必要とされる量にも届いていないとのことでした。金額の小さい品目ほど、代わりがききにくい性質を持っているように見えます。

きのこは天候に左右されにくいとされますが、乾しいたけが昭和58年以来の高値になったのは、生産者の減少や原木の調達難が重なった結果でした。供給が安定していることと、価格が動かないことは別なのだと考え直した点が、今回いちばんの収穫でした。

参考資料

中沢 新