5. 5期のキャッシュフローが描く、投資を絞る海運会社の姿

装置産業という言葉は海運にもよく当てられる。船という巨大な固定資産を抱え、更新投資が重くのしかかるというイメージだ。

ところが過去5期のキャッシュフローを並べると、その姿はかなり違って見えてくる。

営業キャッシュフローは2022年3月期の2,264億円から、2023年3月期に4,560億円へ跳ね、以降は2,024億円、2,731億円、2,647億円と2,000億円台で推移している。

一方の投資キャッシュフローは▲58億円、▲467億円、▲663億円、▲1,261億円、▲351億円。最も大きかった2025年3月期でも、営業で稼いだ額の半分に届いていない。

設備投資額そのものも2025年3月期の1,334億円から2026年3月期は906億円へ絞られた。

そして財務キャッシュフローは5期すべてマイナスで、▲1,160億円、▲3,007億円、▲2,231億円、▲2,116億円、▲1,247億円と続く。稼いだ現金の出口が、投資ではなく財務側に置かれているのが5期通しての特徴だ。

重厚長大というイメージと、投資を絞りながら現金を外に出し続ける実際の資本配分。この2つは同じ会社の中で同時に成り立っている。

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出所:川崎汽船株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:川崎汽船株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

6. 自己資本比率76.9%と、使われていない負債余力

財務側の圧縮は、貸借対照表にも表れている。長期借入金は2025年3月期末の2,298億円から2026年3月期末には1,570億円へ減った。

株主還元の側も厚い。自己株式の消却額は2023年3月期に849億円、2024年3月期に557億円、2025年3月期に1,654億円で、3期の合計は3,000億円を超える。

結果として自己資本比率は76.9%に達した。海運業の中央値は47.5%で、その差はかなり大きい。配当性向も57.0%と、業種中央値の30.9%を上回る。

ここで一つ引っかかる点がある。前期のROE(自己資本利益率、株主の資本に対する利益率)は7.71%で、海運業の中央値7.56%とほぼ並ぶ水準だった。

営業利益率は8.26%で業種中央値6.96%を上回っているのに、資本の効率では中央値並みに落ち着く。分母である自己資本が厚すぎることの裏返しと読み取れる。

実質的に手元資金の厚い財務は、一般には好感されやすい。もっとも、負債をほとんど使わない構えが資本効率の観点で最適かどうかは、また別の論点だ。デットキャパシティ(負債をどこまで負えるかという余力)を遊ばせているのではないか、という問いは残る。

7. 筆者コメント

業界内での立ち位置に照らすと、この会社の姿はやや変わって見えてくる。

財務の厚みは同業の中でも上位にあるものが多い。自己資本比率も還元の水準も、中央値をはっきり超えている。

それでも資本効率の指標は中央値付近に沈む。相対で見た財務の強さと、相対で見た資本効率の平凡さが、同じ決算の中に同居している。

この二つを埋める手として選ばれてきたのが自己株式の取得と消却だろう。株数を減らせば1株当たりの数字は改善し、分母の自己資本も削れる。王道にして効く手ではある。

ただ、株数の圧縮は事業の稼ぐ力そのものを変えるわけではない。運賃市況の波と、持分法で乗ってくる合弁会社の損益。この二つが動くたびに利益の絶対額は振れる。還元の手厚さだけで会社の姿を測らず、稼ぐ力の側も並べて追いかける姿勢をおすすめしたい。

参考資料

8.1 免責事項

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石津 大希