社名に「紡」の字を残しながら、業種の区分は電気機器に置かれている会社がある。日清紡ホールディングス(3105)だ。繊維から出発した会社が、いつのまにか別の顔で稼ぐようになった例と言っていい。では、いまの利益はどこから出ているのか。2026年8月の株価の往復とあわせて見ていきたい。
※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。
- 2026年12月期上期は営業利益302億円で前年同期比+64.4%。会社が据え置いた通期予想210億円を、上期だけで上回った
- 株価は2026年8月6日に2,495円まで上げたのち、8月26日は2,131円。直近時点のPERは33.28倍、PBRは1.05倍
- 前期の営業利益は無線・通信176億円と不動産126億円が支え、マイクロデバイスは▲55億円だった
1. 2,400円台まで上げた株価が2,100円台へ戻るまで
直近1カ月の値動きは、上げと下げが一往復した形になった。
2026年7月28日の終値は2,170円。翌29日には2,074円まで下げ、これが1カ月で最も低い水準となった。
そこから8月上旬にかけて水準が切り上がる。上期決算の開示日にあたる8月6日は2,495円で、1カ月の中では最も高い終値をつけた。
ところが8月半ばに流れが反転する。8月17日の2,455円から18日は2,318円、19日は2,139円と、2営業日で300円超を吐き出した。
この下げは材料をひとつに絞れる動きではない。決算を受けて短期間に織り込まれた期待の巻き戻しや、市場全体の地合いが重なった可能性がある。
その後は2,100円前後での小動きが続き、8月26日の終値は2,131円。前営業日の2,119円からわずかに上げた水準で、1カ月の起点とほぼ同じ場所に戻ってきたことになる。
2. 上期の営業利益が、据え置かれた通期予想を上回った
数字を確認しよう。2026年12月期上期は売上高2,724億円で前年同期比+7.0%、営業利益302億円で+64.4%、経常利益325億円で+71.0%、中間純利益215億円で+87.8%だった。
会社の説明によると、増収の主役は無線・通信事業だ。ソリューション、特機、マリンシステムが好調に推移した一方、不動産事業は分譲の規模が縮小して減収となった。営業利益も不動産の減益を無線・通信の増益が上回った形である。
ここで目を引くのが通期予想との関係だ。会社は通期予想を売上高5,110億円、営業利益210億円、経常利益215億円、当期純利益100億円で据え置いている。
つまり上期の営業利益302億円は、通期の会社予想210億円を単独で超えている。1株当たり配当の予想は36円で変わらない。
ただし、この伸び率をそのまま受け取るのは早い。1Qの営業利益は203億円で前年同期比▲4.6%だった。上期が302億円ということは、2Q単体では99億円ということになる。
そして前年同期の数字を逆算すると、前年の1Qが212億円、前年の上期が184億円。前年の2Q単体は営業損失だった計算になる。今回の64.4%増という伸びには、前年の落ち込みの裏返しという面がある。
会社が通期予想を動かしていないのは、下期の不動産事業やマイクロデバイス事業の前提を控えめに置いていることの反映と読み取れる。上期の実績を当てはめれば、下期は営業赤字を見込む計算になるからだ。
3. PER33倍台という数字の分母に何が入っているのか
8月26日時点のPER(株価収益率、株価が1株当たり利益の何倍かを示す指標)は33.28倍、PBR(株価純資産倍率、株価が1株当たり純資産の何倍かを示す指標)は1.05倍である。
電気機器の銘柄としてPER33倍台は高い。成長期待が乗っている水準にも見える。
もっとも、分母を確かめておく必要がある。会社が置いた通期の1株当たり当期純利益の予想は64円02銭だ。株価2,131円をこの数字で割れば、たしかに33倍台になる。
先に見たとおり、その通期予想は上期の実績が単独で超えてしまっている水準である。分母が控えめに置かれていれば、倍率は自動的に高く出る。
PERの高さがそのまま期待の高さを意味するとは限らない。ここは分けて考えたいところだ。
一方でPBRは1.05倍と、純資産をわずかに上回る位置にとどまる。同じ株価が、利益基準では高く、純資産基準では控えめに映る。この二つの物差しのねじれが、いまのこの銘柄の見え方をつくっている。
4. 筆者コメント
印象的なのは、同じ1カ月の中で株価が高い水準と低い水準を一往復し、結局ほぼ元の場所に戻ってきたことだ。
上期の数字そのものは強かった。それでも株価が居場所を変えなかったのは、市場が伸び率の中身を見ているからではないだろうか。
1Qは減益で、上期は大幅増益。この落差は事業が急に強くなったことよりも、前年の四半期ごとの凹凸が効いていることを示す。四半期の伸び率を単独で切り取ると、この種の会社は読み違えやすい。
加えて、会社が通期予想に手をつけていない。上期の実績と会社の見通しが乖離したまま置かれている状態は、投資家にとっては判断材料が足りない状態でもある。
伸び率ではなく、四半期ごとの利益の絶対額を並べて見る。この会社を追うなら、そういう地味な手順を踏むことをおすすめしたい。
