5. 売上の構成と利益の構成が一致しないポートフォリオ

ここからは事業の中身に入る。前期にあたる2025年12月期のセグメント別の数字を並べると、この会社の姿がはっきりしてくる。

売上高の柱は無線・通信で2,518億円。連結売上高の50.1%を占める。営業利益は176億円で、前期比では2.3倍に膨らんだ。

次に大きいのがマイクロデバイスの624億円だが、こちらは営業損失▲55億円。ブレーキが577億円で営業利益33億円、精密機器が554億円で29億円と続く。

そして目を疑うのが不動産だ。売上高は179億円で連結の3.6%にすぎないのに、営業利益は126億円。営業利益率は70.6%に達する。

残る繊維は売上333億円に対し営業利益0.98億円で、社名の由来である事業が利益にはほとんど寄与していない。化学品は売上97億円で営業損失▲0.56億円、41億円の減損損失も計上した。

売上構成で見れば無線・通信とマイクロデバイスとブレーキが上位に並ぶ。ところが利益構成で見ると、無線・通信と不動産の2つで大半が説明できてしまう。

電気機器という業種区分から想像される姿と、実際に利益を出している場所。この二つは同じ会社の中で並んで存在している。

もう一つ、設備投資の配分を重ねると別の絵が出てくる。

前期の設備投資額は、営業損失を出したマイクロデバイスが57億円。営業利益176億円を稼いだ無線・通信の51億円を上回っている。

一方、126億円の営業利益を出した不動産の設備投資は3.38億円にとどまる。ブレーキは38億円、精密機器は31億円だった。

稼いでいる事業に資金が向き、稼いでいない事業から引くという単純な配分にはなっていない。マイクロデバイスは減価償却費52億円を上回る投資を続けており、赤字のまま設備を更新している状態と読み取れる。

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出所:日清紡ホールディングス株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:日清紡ホールディングス株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

6. ROE5.0%という結果に表れるポートフォリオの重さ

過去5期を振り返ると、この構成の重さがそのまま数字に出ている。

2021年12月期の営業利益は217億円、当期純利益は248億円、ROE(自己資本利益率、株主の資本に対する利益率)は10.2%だった。

そこから2022年12月期に営業利益154億円、2023年12月期に124億円と落ち、2023年12月期は297億円の減損損失を抱えて当期純損失200億円へ沈んだ。

戻りは2024年12月期からで、営業利益165億円、当期純利益102億円。前期の2025年12月期は営業利益264億円で前期比+59.2%、当期純利益139億円で+35.5%まで回復した。

それでも前期のROEは5.0%にとどまる。分類上の同業である電気機器の中央値7.37%を下回る水準だ。営業利益率も5.26%で、中央値6.67%に届かない。

収益性の土台も薄い。前期の売上総利益率は23.4%で、電気機器の中央値29.8%を下回る。

財務側も同様だ。前期末の自己資本比率は43.0%で、中央値62.2%との差は大きい。

赤字のセグメントと、利益率70%の不動産が同じ連結に入っている。全体としての資本効率は、そのどちらでもない平均値に落ち着く。事業の入れ替えが進まないかぎり、この平均値からは抜け出しにくい。

7. 筆者コメント

この会社の位置づけが変わろうとしているのが、いまの姿ではないかと思う。

繊維から電子部品へ、そして無線・通信へ。稼ぐ場所は明らかに移ってきた。前期のセグメント利益の並びは、その移動が完了に近づいたことを示している。

だが移動が済んだあとに残る問いは別だ。稼がない事業をいつまで抱えるのか、抱えるならその理由は何か。減損を出した事業が連結の中に居続けることのコストは、損益計算書の一行では見えにくい。

不動産が支えている利益についても同じことが言える。土地から生まれる収益は安定するが、そこに成長を求めるのは筋が違う。

事業の顔が変わりつつある会社を追うときは、連結の増減率よりもセグメントの入れ替わりに目を向けてほしい。伸びている事業と、抱えられている事業を分けて数えるところから始めたい。

参考資料

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石津 大希