4. 【元銀行員の視点】繰上げ受給は「一度選ぶと戻せない」重い選択
繰上げ受給は、選択後に取り消しができません。60歳から始めた場合、生涯にわたって最大24%減額された年金が続きます。この「不可逆性」は、意思決定の前に十分な情報が必要な点です。
4.1 繰上げ選択は「加入期間を積む選択肢」と両立しない
繰上げ受給を始めると、任意加入や国民年金第1号としての追納で受給額を上乗せする選択肢が制約されます。加入期間が40年に届いていない場合、繰上げ前に任意加入で満額に近づけるほうが長期的には有利なケースもあります。
5. 「厚生年金だから繰上げは関係ない」とは言い切れない
厚生年金の繰上げ率は1.2%と少数派ですが、この数字は「特別支給の老齢厚生年金を除く」受給権者の集計です。60代前半に特別支給を受け取り、65歳で本来受給に切り替わるケースは繰上げに含まれません。
5.1 自分がどの支給パターンかを事前に確認
生年月日によって特別支給の対象になるかが変わります。ねんきん定期便やねんきんネットで、自分の支給開始年齢と選択肢を事前に確認することが重要です。
6. 受給開始年齢を、何で決めるか
実際に受給開始年齢を決める際の判断基準を整理します。
6.1 健康状態と平均寿命との対比
繰下げ受給と本来受給の生涯損益分岐点は、おおむね受給開始から11〜12年です。65歳から70歳まで繰下げた場合、81歳11か月ごろで本来受給を追い越します。平均寿命(令和6年簡易生命表で男81.09年・女87.13年)と自分の健康状態を照らして判断します。
6.2 65歳以降の就業計画と貯蓄水準
繰下げ待機期間中は年金を受け取れません。65歳以降も働くか、あるいは貯蓄で生活費を賄えるかで、繰下げの実現性が変わります。逆に、就業機会がない・貯蓄も少ない場合は、繰上げが現実的な選択肢になる場面があります。
6.3 配偶者との合算で世帯レベルの意思決定を
夫婦それぞれの受給開始年齢を組み合わせることで、世帯全体の年金月額を調整できます。一方が繰下げ、他方が本来受給といったハイブリッド設計も選択肢です。
7. まとめ|「早く受け取る」より「増やして受け取る」時代へ
令和6年度末の繰上げ率は国民年金23.2%・厚生年金1.2%と、制度で大きく異なる選択実態が明らかになりました。ただし全体的に繰上げ率は低下傾向、繰下げ率は上昇傾向にあります。「早く受け取る」から「増やして受け取る」への意識シフトが進む中で、自分の健康・就業・貯蓄を組み合わせた意思決定が求められます。
参考資料
- 厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「老齢基礎年金の繰上げ受給・繰下げ受給」
- 日本年金機構「老齢厚生年金の繰上げ・繰下げ受給」
- 日本年金機構「ねんきんネット」
- 厚生労働省「令和6年簡易生命表の概況」
中本 智恵