「年金はいつから受け取るのが得か」——この問いは老後設計の要ですが、実際には国民年金と厚生年金で選択の傾向がまったく異なります。

厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金(基礎のみ・旧国年)の受給権者では繰上げ率23.2%・繰下げ率2.4%、老齢厚生年金では繰上げ率1.2%・繰下げ率1.9%。「4人に1人が繰上げの国民年金」と「本来受給が9割超の厚生年金」というコントラストです。

この記事では、両制度での選択率の違いと、その背景・意思決定への活かし方を整理します。

この記事では、以下の記事の内容も引用・参考にしています。

【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説
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ココがポイント
  • 国民年金(基礎のみ・旧国年)の繰上げ率は23.2%、繰下げ率は2.4%
  • 老齢厚生年金の繰上げ率は1.2%、繰下げ率は1.9%と、国民年金と対照的
  • 70歳時点では繰下げ率が上昇。繰上げ率は低下傾向、繰下げ率は上昇傾向

1. 国民年金では約4人に1人が繰上げを選択

まずは制度別の選択率を確認します。

1.1 国民年金の繰上げ率23.2%は「昔からの慣行」の名残

「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、国民年金(基礎のみ・旧国年)の受給権者では、令和6年度末で繰上げ率が23.2%、繰下げ率が2.4%です。約4人に1人が60〜64歳のうちに繰上げ受給を選んでいる計算です。

ただし、この繰上げ率は低下傾向にあります。かつては就業機会の不足から早めに受給を始める人が多く、繰上げが「標準的な選択」に近い状態でしたが、就業寿命の延伸と繰下げのメリット周知で、徐々に変化しています。

1.2 厚生年金は繰上げ・繰下げともに少数派

一方、老齢厚生年金(特別支給を除く)の受給権者では、繰上げ率が1.2%、繰下げ率が1.9%にとどまります。合計しても3.1%で、96.9%が「本来受給(65歳から受給開始)」を選んでいる計算です。

厚生年金加入者は60代前半も働いているケースが多く、繰上げ受給の必要性が国民年金加入者より低いことが背景にあります。

繰上げ・繰下げ選択率(令和6年度末)/0

繰上げ・繰下げ選択率(令和6年度末) 受給開始年齢の選び方は、制度によって大きく違う 繰上げ 本来受給(65歳から) 繰下げ 国民年金 基礎のみ・旧国年 23.2% 74.4% 2.4% 厚生年金 老齢厚生年金 96.9% 1.2% 1.9% 国民年金は約4人に1人が繰上げ。厚生年金は96.9%が65歳からの本来受給

出所:厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

2. 70歳時点では繰下げ率が上昇

70歳の受給権者に絞って見ると、繰下げの選択が増える傾向が見えます。

2.1 70歳国民年金受給権者の繰上げ10.1%・繰下げ5.5%

令和6年度末で70歳の基礎のみ受給権者を見ると、繰上げ率は10.1%、繰下げ率は5.5%となっています。繰上げ率が全体の23.2%より低いのは、繰上げ率の低下傾向が世代別に反映されているためです。繰下げ率は全体の2.4%より高く、5.5%となっています。

2.2 70歳厚生年金の繰下げ率4.2%、5年超繰下げも2万7983人

70歳の老齢厚生年金受給権者では、繰上げ率が0.7%まで下がり、繰下げ率は4.2%まで上昇。特に令和2年の年金制度改正で導入された「5年超の繰下げ(75歳まで)」を選んだ厚生年金受給権者は、令和6年度末で2万7983人に達しています。

繰下げでどれくらい増えるのか、そして何に注意すべきかは、LIMOの記事「【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説」から要点を引用して確認しておきましょう。

年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、66歳から75歳までの間で受給を遅らせることができます。1ヶ月遅らせるごとに受給額が0.7%増額され、70歳まで遅らせれば42%、75歳まで遅らせれば最大84%増額されます。増額された年金は一生涯続きます。ただし、「手取りの目減り」や「加給年金の喪失リスク」を考慮して判断する必要があります。

出所:【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説

70歳時点の繰上げ・繰下げ選択率の推移/0

全体と「70歳の受給権者」で比べた選択率 令和6年度末。70歳に絞ると繰上げは減り、繰下げは増える 全体 70歳の受給権者 繰上げ率 国民年金 23.2% 10.1% 厚生年金 1.2% 0.7% 繰下げ率 国民年金 2.4% 5.5% 厚生年金 1.9% 4.2% ※ 繰上げ率・繰下げ率とも同じ縮尺で描いています 5年超の繰下げ(75歳まで)を選んだ厚生年金の受給権者は2万7983人

出所:厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」をもとにLIMO編集部作成

3. 選択率の差が生まれる3つの背景

国民年金と厚生年金で、なぜここまで選択傾向が違うのでしょうか。

3.1 加入者の職業構成の違い

国民年金第1号被保険者には自営業・フリーランス・農業従事者・無職の方が多く、就業寿命の見通しや退職金の有無が厚生年金加入者と異なります。60歳以降の収入源が不足する場面では、繰上げ受給が現実的な選択肢になります。

3.2 65歳時点の年金水準の違い

老齢基礎年金(25年以上)の平均月額は6万円で、単身世帯の生活費(月14〜15万円)と比べて不足感が大きくなります。厚生年金の平均15万円台と違い、「早く始めても暮らしを守れるほど厚みがない」ため、繰上げの意思決定が働きやすい面があります。

3.3 制度周知と情報アクセスの差

厚生年金加入者は勤務先で年金制度の情報に触れる機会が多く、繰下げのメリット(1年8.4%増)を認識しやすい状況です。一方、国民年金第1号被保険者は自分から情報を取りに行く必要があり、周知格差が選択に反映されるケースがあります。

中本 智恵

繰上げは一度選ぶと戻せません。手元の預貯金であと何年しのげるかを先に出してから、受給開始年齢を決める順番をおすすめしています。