3. 「医療費と介護費はいくら見ておく?」60代夫婦が老後資金の計画を組み直すまで|ファイナンシャルアドバイザー・橋本優理

年金収入で毎月の生活は回っているのに、医療費と介護費だけは金額の見当がつかない。60代以降のご相談では、この一点が引っかかって計画が前に進まない、というお声をよくいただきます。ここでは、60代の方からのご相談をもとにした一事例として、読めない支出を計画に織り込むための整理の仕方をご紹介します。

3.1 生活費のめどは立ったのに。「医療費と介護費だけ、計画に入れられない」

退職金や企業年金を受け取り、毎月の生活費のめどが立った方でも、病気や介護は「いつ、いくら」が読めません。そのため、貯蓄全体を漠然と残しておく形になりがちです。相談の場では、次のような声を耳にします。

60代のお客様
年金で生活費は賄えそうなので、預貯金と国債は当面使う予定がありません。ただ、この先の医療費や介護費にどれくらいかかるのかが分からず、いくら手元に置いておけば安心なのか判断できないままになっています。夫婦二人分となると、なおさら見当がつきません。

読めない支出があると、貯蓄のどこまでが「使えるお金」なのかを決めきれず、計画づくりが止まってしまいがちです。このご相談では、医療費・介護費として夫婦で数百万円規模という目安をお示ししたところ、「保有している国債をその費用に充てる」という考え方がしっくりきた、と受け止めていただけました。おおよその目安でも数字が入ると、計画は具体化しやすくなります。ただしこの金額はあくまで一つの目安であり、実際にかかる費用は健康状態や必要になる介護の内容によって大きく変わります。

3.2 【ファイナンシャルアドバイザー・橋本優理が回答】読めない支出に「枠」を用意し、資産の役割を住み分ける

橋本 優理
多くの世帯の保険加入相談を担当してきましたが、老後病気になってしまってから医療費負担が難しくなり、保険に加入したいという方も少なくありませんでした。
しかし、病気になってからでは保険への新規加入は難しくなります。
日本の公的医療保険制度を理解した上で、毎月最高でいくら医療費がかかるか、入院時の費用はどの程度かを、調べておくことが大切です。
公的制度を知っておけば、医療費を具体的に想定でき、対策もしやすくなります。

3.3 ポイント1:医療費・介護費の目安を先に置き、支出計画に組み込む

必要なのは新しい商品を買うことではなく、いま持っている資産に役割を割り振り直すことです。まず取り組みたいのは、ご夫婦それぞれに見込まれる費用の目安を数字で置き、将来の支出シミュレーションに組み込むことです。読めない支出を「読める前提」に置き換えるだけで、貯蓄のうちどこまでが手をつけられないお金なのかがはっきりします。なお、医療費や介護費の自己負担は、公的医療保険・公的介護保険の負担割合や自己負担の上限にかかわる仕組みによって変わり、要件や金額、適用の期限は改正されることもあります。金額を思い込みで置かず、加入している健康保険の窓口やお住まいの自治体の介護保険担当窓口などの公的窓口、または専門家に必ずご確認ください。

3.4 ポイント2:その枠を、値動きの影響を受けにくい置き場所で確保する

目安を置いたら、その枠をどこに確保するかを決めます。このご相談では、すでに保有していた国債を医療費・介護費の枠として位置づけ直しました。値動きで目減りすると困るお金ですので、預貯金や国債のように使いたい時期に見通しを立てやすい形で確保し、ほかの資金と目的別に住み分けさせておきます。どの商品がこの役割に合うかは、必要になりそうな時期や手元に置きたい金額によって変わります。

3.5 ポイント3:残った余剰資金は、目的に合わせて長く持つお金として考える

医療・介護の枠と生活費を確保したうえで残る部分の置き場所も考えていきます。円預金だけに置いた場合、物価の上昇や為替の動きによって実質的な価値が目減りする可能性があります。通貨や資産を分けて持つことを前提に、債券と保険のどちらがご自身の目的に合うかを比べて選ぶ、という考え方もあります。どちらか一方が優れているというものではなく、必要な保障やお金を使う時期によって適した形は変わります。

なお、運用に回す部分には元本割れや為替変動のリスクがあり、外貨建ての商品は受け取る時期の相場によって手取りが変わります。医療費・介護費として取り分けた枠は、値動きの大きい商品には置かないこと。この線引きを崩さないことが、計画を作り直す際にもっとも大切な点です。

ここでご紹介したのは一事例であり、必要な備えの金額も前提条件も、健康状態や家族構成、資産の状況によって一人ひとり異なります。公的医療保険・公的介護保険や税制にかかわる制度は改正されることがあり、要件・金額・期限はご自身の状況で変わります。実際の判断にあたっては、健康保険の窓口やお住まいの自治体・年金事務所などの公的窓口で最新の情報をご確認のうえ、専門家に個別にご相談ください。

参考資料

橋本 優理