3. 65歳以上の無職夫婦世帯、毎月の家計収支は?
老後のお金について具体的にイメージするため、総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の家計収支を見てみましょう。
毎月の収入
- 収入合計:25万4395円
- うち社会保障給付(主に年金):22万8614円
毎月の支出
- 消費支出:26万3979円
- 非消費支出:3万2850円
- 支出合計:29万6829円
この世帯の場合、ひと月の収入は25万4395円、その約9割の22万8614円を公的年金などの社会保障給付が占めます。一方で支出の合計は29万6829円。そのうち社会保険料や税などの「非消費支出」が3万2850円、いわゆる「生活費」にあたる消費支出が26万3979円でした。
この夫婦世帯の場合、毎月約4万2000円の赤字となり、貯蓄の取り崩しなどでカバーすることになるでしょう。
3.1 毎月4万2000円の赤字、平均貯蓄なら何年もつ?資産寿命を試算
では、この赤字を貯蓄で埋めていく場合、資産はどれくらいの期間もつのでしょうか。平均貯蓄額と中央値のそれぞれで計算してみます。
【無職夫婦世帯の平均貯蓄2494万円の場合】
2494万円 ÷ 4万2000円 = 約594カ月 → 約49年【中央値1777万円の場合】
1777万円 ÷ 4万2000円 = 約423カ月 → 約35年
赤字の補填だけで考えれば、平均でも中央値でも数十年分に相当し、65歳から100歳を超えるまでもつ計算になります。「毎月4万円の赤字」という数字だけを見て過度に不安になる必要はない、というのが一つの見方です。
ただし、この試算には介護費用、住宅の修繕費、医療費の自己負担増といった臨時支出が一切含まれていません。実際にはこうした支出が資産寿命を大きく縮めます。あくまで一定の前提を置いた目安の試算としてご覧ください。
3.2 貯蓄300万円未満の世帯(14.9%)だと、どうなる?
一方で、先ほどの分布データでは貯蓄300万円未満の世帯が14.9%存在していました。この水準で同じ赤字を補う場合を計算してみましょう。
300万円 ÷ 4万2000円 = 約71カ月 → 約6年
65歳から取り崩し始めると、71歳ごろには底をつく計算です。平均貯蓄の場合の約49年と比べると、その差は歴然としています。同じ「毎月4万2000円の赤字」でも、手元の貯蓄額によって意味合いはまったく異なるということです。
貯蓄が少ない世帯ほど、支出の見直しや就労の継続、公的な支援制度の活用といった対策を早めに検討する必要があります。あくまで一定の前提を置いた試算であり、実際の必要額はご家庭の状況によって変わります。
4. 2026年度の年金額はいくら?4年連続のプラス改定
公的年金額は、物価や現役世代の賃金を考慮して年度ごとに改定されるルールです。2026年度分は、法律の改定に基づき前年度より国民年金(基礎年金)1.9%、厚生年金(報酬比例部分)2.0%増額され、4年度連続のプラス改定となりました。
- 国民年金(老齢基礎年金(満額)):7万608円(1人分※1)
- 厚生年金:23万7279円(夫婦2人分※2)
※1 昭和31年4月1日以前生まれの老齢基礎年金(満額1人分)は月額7万408円(対前年度比+1300円)
※2 男性の平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)45万5000円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準
ただし上記はあくまでも「年金例」です。実際に支給される年金額は、現役時代の年金加入状況により個人差が出ます。
なお、年金額自体は国民年金1.9%、厚生年金2.0%増えていますが、「マクロ経済スライド」の発動により、実質的には目減りしている点には注意が必要です。マクロ経済スライドとは、公的年金被保険者(年金保険料を払う現役世代の数)の変動と平均余命の伸びに基づいて設定される「スライド調整率」を用いて、その分を賃金と物価の変動がプラスとなる場合に改定率から控除する仕組みです。
5. 国民年金・厚生年金の平均月額と男女差
厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2024年度末現在の平均年金月額は以下の通りです。
※厚生年金の被保険者は第1号〜第4号に区分されており、ここでは民間企業などに勤めていた人が受け取る「厚生年金保険(第1号)」(以下記事内では「厚生年金」と表記)の年金月額を紹介します。また、厚生年金の月額には国民年金(老齢基礎年金)部分が含まれています。
5.1 国民年金(老齢基礎年金):平均年金月額
〈全体〉平均年金月額:5万9310円
- 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
- 〈女性〉平均年金月額:5万7582円
5.2 厚生年金(国民年金部分を含む):平均年金月額
〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
国民年金のみを受給する場合は男性が6万円台、女性が5万円台、厚生年金(国民年金部分を含む)では男性が16万円台、女性が11万円台が平均です。
しかし、グラフから分かるように、受給権者の間で年金額には大きな個人差があります。ご自身の年金見込み額は「ねんきんネット」や「ねんきん定期便」で確認できます。
6. 「年金だけでは日常生活費もまかなえない」と感じる人は3割超
J-FLEC(金融経済教育推進機構)が2025年12月に公表した「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」では、60歳代・70歳代の二人以上世帯において、60歳代の32.6%、70歳代の30.6%が「日常生活費程度もまかなうのが難しい」と回答しています。
6.1 「年金にゆとりがない」と感じる理由
年金にゆとりがないと感じる理由としては、物価上昇や医療費・介護費負担の増加が上位に挙げられます。完全リタイア後の老齢年金世帯は、現役時代に比べて収入が減少するのが一般的です。そのため、家計への負担感は今後も増していくことが予想されます。
また、現役時代は毎月給料日があったものの、老後の年金は「偶数月に2カ月分まとめて支給」となるため、家計管理のサイクルも変化します。年金支給のサイクルに合わせ、日ごろの生活費のやりくりに工夫を加える必要があるでしょう。
監修者コメント
今回のデータで最も注目していただきたいのは、平均値2564万円に対して中央値が1777万円という約790万円の開きです。平均は一部の貯蓄が多い世帯に引き上げられるため、多くの方にとっては中央値のほうが実感に近い数字になります。
また、無職夫婦世帯の貯蓄が6年ぶりに減少に転じ、定期性預貯金が9.4%減る一方で有価証券が増えているという動きも見逃せません。物価上昇のなかで「現金のまま置いておくことのリスク」を意識し始めた世帯が出てきていると読み取れます。
ファイナンシャル・プランナーとしてお伝えしたいのは、平均や中央値と比べて安心したり落ち込んだりするのではなく、ご自身の貯蓄額と赤字額から「何年もつのか」を出してみることです。記事中の試算のように、同じ赤字でも貯蓄額によって資産寿命はまったく違います。数字が見えて初めて、取り崩し方や働き方の判断ができるようになります。

