利益はどこで生まれているのか。地域別に見えた段差
連結の数字だけでは、この会社の稼ぎ方は見えてこない。地域別の内訳に降りてみよう。2025年6月期の開示では、報告セグメントはJapan Region、US、その他に分かれている。
Japan Regionの売上収益は1,498億円で、連結売上収益の77.8%を占める。営業利益は348億円、営業利益率は23.3%だ。前期比では売上収益が+8.5%、営業利益が+13.7%と、規模を保ちながら利益を伸ばしている。
一方のUSは売上収益364億円で、構成比は18.9%。営業利益は7億円、営業利益率は2.0%にとどまる。その他は売上収益64億円、営業利益3億円という規模である。
売上の2割弱を米国が担っているのに、利益はほぼ日本から出ている。この非対称が、いまのメルカリの収益構造そのものだ。日本の利益率23.3%と米国の2.0%という段差は、同じ会社が二つの異なる事業ステージを同時に走らせていることを示していると読み取れる。
メルカリの米国事業、4期かけて赤字が消えた道筋
米国の営業損益を時系列に並べると、別の景色が見えてくる。2022年6月期は▲121億円、2023年6月期は▲87億円、2024年6月期は▲52億円、そして2025年6月期に7億円の黒字へ転じている。
4期かけて赤字が消えた、という言い方はできる。ただし、その道筋は素直な成長ではない。2025年6月期の米国の売上収益は前期比▲16.6%で、規模を縮めながら損益を整えた形だ。
同じ期の日本が増収増益だったことと並べると、対比はいっそう鮮明になる。伸ばして黒字にしたのではなく、絞って黒字にした。この違いは、次の局面で米国が再び増収へ向かえるのかという論点に直結する。
会社が越境取引とグローバルアプリを注力領域に挙げているのは、この論点への回答の一つと考えられる。日本の在庫を海外の需要につなぐという設計であれば、米国単体の売上規模を追わなくても越境で稼ぐ道が開ける。
ROE30.5%の裏側と、利益剰余金がまだマイナスだった事実
資本効率の側からも見ておきたい。2025年6月期のROE(自己資本利益率)は30.5%だった。情報・通信業の中央値である11.1%と比べれば、際立って高い。
ただ、ROEの高さは自己資本の薄さと表裏の関係にある。同期の自己資本比率は18.3%で、分母が小さいぶん比率は跳ねやすい。事業の稼ぐ力と、資本構成が生む増幅効果は、分けて見ておきたいところだ。
その意味で目を向けたいのが営業利益率だ。19.2%というマージンは、資本構成の影響を受けない事業側の指標である。ここが厚いからこそ、薄い資本でも高いROEが成立している。
もう一つ、見逃せない数字がある。利益剰余金は2025年6月期末の時点で▲30億円だった。2021年6月期は▲461億円、2022年6月期は▲558億円で、過去の累積損失をようやく埋め切る手前まで来ていたことになる。
直近通期に354億円の当期利益を積み上げたのだから、この節目はすでに越えたと考えられる。無配が続いてきた理由の一つは、こうした資本の履歴にあったのだろう。
言い換えれば、この会社は「高い資本効率」と「還元原資が整い始めたばかりの資本」を同時に抱えている。ROEの数字だけを取り出して資本効率を評価しないよう気をつけたい局面だ。
筆者コメント
営業利益率19.2%と自己資本比率18.9%を並べて見ると、この会社の性格が立ち上がってくる。
マージンはソフトウェア企業のもの、バランスシートは与信を抱えた金融会社のもの。二つの顔が一枚の決算書に同居している。日本と米国の利益率の並びを重ねれば、同居はさらに際立つ。
そこに利益剰余金の履歴という時系列を足すと、見え方がまた変わる。累積損失をようやく埋めたところで、次の投資局面に入る。還元より先に成長を選ぶ順番は、この履歴からすれば自然だ。
私にはこの会社が、成長の途中というより、二つの事業モデルを一つの器で回す実験の途中にみえる。実験の成否は、利益の増減率よりも、営業債権の残高と地域別の利益の並びに先に出るだろう。
決算のたびに増減率だけを拾うのではなく、この二つを一緒に追っていく見方を試してみてほしい。
参考資料
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石津 大希
