好決算を出した銘柄の株価は、そのまま素直に上がっていく。そう思いたくなる場面は多い。ただ実際には、決算直後にいちど跳ねてから、じわじわと元の水準へ戻っていく形も珍しくない。メルカリ(4385)の直近1カ月は、まさにその形をたどった。過去最高を更新した通期決算と、その後の株価。二つを並べて眺めてみたい。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

この記事の3つのポイント
  • ①2026年6月期通期は売上収益2,292億円(前期比+19.0%)、営業利益439億円(同+57.7%)で過去最高を更新した
  • ②株価は8月6日に1日で1割超上昇して8月7日に5,030円をつけたのち、8月18日には4,473円まで戻し、8月19日は4,750円となった
  • ③2027年6月期の会社予想は売上収益+20.0%に対して営業利益+1.9%。利益の源はいまのところ日本の事業に大きく偏っている

決算後にいちど5,000円台、そこから戻して迎えた8月19日

1/2

出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

まず、直近1カ月の株価をたどっておきたい。起点となる7月21日の終値は4,567円だった。そこから7月24日には4,250円まで下押しし、この1カ月ではもっとも低い水準をつけている。

空気が変わったのは8月上旬である。8月5日の4,410円から8月6日は4,921円へ、1日で1割を超える上昇となった。通期決算の受け止めが素直に出た局面と読み取れる。

勢いはそのまま翌日に続き、8月7日には5,030円と、この1カ月でもっとも高い水準に達した。7月24日の底からは2割近い切り上がりである。

もっとも、そこからは上げ幅を吐き出す展開が続く。8月18日の終値は4,473円で、8月7日からは1割強の下押しとなった。決算で跳ねた分をほぼ返した形といってよい。

そして8月19日、株価は4,750円へ切り返した。前日比では+6.2%と大きい。1カ月を通してみれば、起点の4,567円に対して+4.0%の上昇にとどまる。値幅は荒いが、方向としては小幅な上昇圏という整理になる。

直近時点のPBR(株価純資産倍率)は5.73倍。1株当たり純資産の5倍台という値付けで、将来の利益に対する期待が相応に価格へ織り込まれている水準といえるだろう。ボラティリティ(株価の日々の値動きの激しさ)が高いのも、その期待部分が大きいことの裏返しだろう。

売上収益+19.0%、営業利益+57.7%。過去最高を更新した通期決算

では、株価を動かした決算そのものを見ていこう。2026年6月期通期の売上収益(IFRS)は2,292億円で前期比+19.0%、営業利益は439億円で同+57.7%だった。当期利益は354億円で同+35.6%、1株当たり当期利益は214.74円である。

会社の説明によると、売上収益とコア営業利益はいずれも過去最高を更新し、期初に置いた業績予想も達成した。増益を伴うトップラインの成長という方針を掲げていた期であり、その狙いどおりに着地したことになる。

中身の主役はMarketplaceだ。同社によれば、当期のGMV(流通取引総額)は前年同期比+14.7%の1兆2,856億円となり、2023年6月期以来となる二桁成長へ回帰した。安心・安全な取引環境の構築を中心にコア体験の強化を進めたことで、お客さま数・単価・頻度がバランスよく成長する基盤が固まったという。

結果として、Marketplaceのコア営業利益は429億円(前年同期比+40.6%)となり、期初のガイダンスを大幅に上回って着地した。ここは推測を挟む必要がない、会社自身が説明している増益の中身である。

注力領域として名前が挙がっているのが越境取引だ。エンタメ・ホビーカテゴリーの強い需要を捉え、GMVは1,122億円まで積み上がった。Marketplace全体のGMVに対して約9%を占める規模である。駿河屋との提携で取扱在庫を広げ、新たにグローバルアプリの提供も始めたとしている。

この売上収益と営業利益から逆算すると、通期の営業利益率は19.2%になる。情報・通信業の営業利益率の中央値が8.4%であることを踏まえれば、同じ業種区分に並ぶ会社の平均像とは水準がはっきり違う。フリマアプリという言葉から受ける身軽な印象と、この利益率は素直につながる。

売上+20%予想に対して、営業利益予想は+1.9%という段差

ただ、同時に開示された来期の絵は、少し違う顔をしている。2027年6月期の会社予想は、売上収益2,750億円で+20.0%、営業利益450億円で+1.9%である。

増収率はほとんど落ちない見通しなのに、利益はほぼ横ばいで置かれている。前期が+57.7%の増益だったことを思えば、この段差は目に付く。

会社が予想を保守的に置く癖を持っているのかどうかは、外から断定できない。それでも、稼いだ利益を次の成長へ先に投じる姿勢が数字の形として表れている、とは読み取れる。越境取引やグローバルアプリのような、まだ規模が小さい領域を伸ばす局面ならなおさらだ。

株価が8月7日の5,030円から8月18日の4,473円まで下押しした背景には、この温度差が意識された可能性がある。もっとも株価は決算材料だけで動くわけではなく、相場全体の地合いやバリュエーションの調整でも振れる。単一の理由に決めつけるのは避けたい。

8月19日の+6.2%という切り返しも同じで、材料と値動きを一対一で結び付けて解釈しないほうがいい。1カ月を通してみれば+4.0%であり、決算をはさんだ往復のなかに落ち着いた、という整理が実像に近いだろう。

身軽なアプリ企業という印象と、総資産7,266億円の実像

ここで、損益計算書からいちど目を離してみたい。2026年6月期末の総資産は7,266億円で、自己資本比率は18.9%である。

情報・通信業の自己資本比率の中央値は66.9%だ。同じ業種区分のなかで、メルカリのバランスシートは明らかに異質な形をしている。

キャッシュの流れも独特だ。当期の営業活動によるキャッシュ・フローは▲95億円だった。2023年6月期は▲358億円、2024年6月期は▲433億円、2025年6月期は▲119億円で、利益は出ているのに営業キャッシュ・フローはマイナスが続いている。

理由は資産側にある。営業債権は2025年6月期末で2,547億円まで積み上がり、前期の1,954億円から大きく増えた。債権の増加は営業キャッシュ・フローを押し下げる。決済と与信を自社で抱えるビジネスを組み込んだ会社の姿が、ここに出ている。

その資金は借入で支えられている。2025年6月期末の有利子負債は流動741億円と非流動1,167億円をあわせて1,909億円。当期の財務活動によるキャッシュ・フローは+734億円で、資金調達が続いていることが確認できる。

つまり、アプリひとつで完結する身軽なプラットフォームというイメージと、与信を抱えた金融会社に近いバランスシートが、同じ会社のなかで同時に成立している。営業利益率19.2%という高いマージンも、自己資本比率18.9%という薄い資本も、どちらも本当の姿だ。

ちなみに配当はゼロで、来期予想も無配で置かれている。稼いだ利益を還元に回す局面には、まだ入っていない。

筆者コメント

なぜ、過去最高の決算を出した会社の株価が、その1週間あまりで高値から1割強も下げるのだろうか。

答えの半分は、決算そのものではなく、決算と同じ日に出た来期の絵にあるのだろう。増収率は落ちない、しかし利益はほぼ横ばい。この形は「稼いだ分を次に回す」という意思表示でもある。

ただ、投資家の側から見ると、その投資が何年で戻ってくるのかは決算短信からは読み切れない。だから期待の織り込みが毎回やり直しになる。

私は、この銘柄の株価が決算のたびに大きく振れるのは、利益の絶対水準よりも「いつ利益を出す選択をするのか」が毎回問われているからだと考えている。増益率が高い期の翌年に横ばい予想が置かれる、という並びはその典型だ。

株価の値幅そのものを追いかけるより、会社がどのタイミングで利益を出す選択をしたのか、そこを決算資料で確かめる見方をおすすめしたい。