5期のキャッシュフローが語る、投資の山とその後

費用構造の正体を掴むには、損益計算書よりキャッシュフローを見たほうが早い。過去5期を並べる。

営業活動によるキャッシュ・フローは、2021年12月期から順に1,047億円、1,794億円、963億円、696億円、1,000億円。大きく振れながらも、毎期1,000億円前後は稼いできた。

問題は投資活動のほうである。▲673億円、▲1,263億円、▲2,476億円、▲2,478億円、▲1,114億円。2023年12月期と2024年12月期は、営業活動で稼いだ現金の2倍を超える金額を投資に出している。

設備投資額で見ると、695億円、1,308億円、3,154億円、2,149億円、799億円。2023年12月期がピークで、その規模は当時の売上高4,259億円の7割を超える。

この差額はどこから来たのか。財務活動によるキャッシュ・フローは、順に+990億円、▲231億円、+434億円、+1,122億円、▲87億円。長期借入金は2021年12月期末の1,083億円から2025年12月期末の3,122億円まで積み上がった。借りて設備を建てた、ということだ。

そして2025年12月期には投資が799億円まで落ち、財務活動も▲87億円に転じた。投資の山は越えている。

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出所:株式会社SUMCO 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:株式会社SUMCO 有価証券報告書をもとに筆者作成

建てた設備は、翌年から費用になって戻ってくる

投資が終われば楽になる、とはいかない。建てた設備は減価償却費という形で、その後の損益計算書に何年も乗り続けるからだ。

減価償却費の推移は、513億円、595億円、714億円、789億円、1,156億円。5期で2倍を超えた。2025年12月期の1,156億円は、同じ期の営業活動によるキャッシュ・フロー1,000億円をも上回る。

売上高4,096億円に対して減価償却費1,156億円。売上の3割近くが償却で消える構造になっている。同じ期の営業利益は13億円、経常損失は▲38億円、当期純損失は▲117億円だった。

収益性を業種の物差しに当てると、開きは一段とはっきりする。金属製品業種63社の営業利益率の中央値は5.3%、ROEの中央値は5.4%、売上総利益率の中央値は24.2%である。

2025年12月期のSUMCOは営業利益率0.3%、ROE▲2.0%、売上総利益率13.3%。どの指標も業種の真ん中を大きく下回る。自己資本比率も51.3%で、中央値61.3%に届いていない。

半導体材料はAIの恩恵を受ける最上流だ、というイメージと、この数字の並びには相当な開きがある。両方とも事実であり、そのどちらか一方だけを見ると判断を誤る。

建設仮勘定が減るとき、償却は増える

もう一つ、貸借対照表に将来を読む手がかりがある。建設仮勘定だ。

建設中の設備は建設仮勘定に計上され、この段階では減価償却されない。稼働してはじめて機械装置などへ振り替えられ、そこから償却が始まる。

SUMCOの建設仮勘定は、2021年12月期末の373億円から2023年12月期末に2,840億円、2024年12月期末には3,780億円まで積み上がった。そして2025年12月期末には1,234億円、2026年6月末には707億円まで減っている。

同じ期間に機械装置及び運搬具の純額は増えた。2025年12月期末の3,102億円から2026年6月末は3,263億円である。建設仮勘定から実際の設備へ、資産が移っているのが読み取れる。

SUMCOの償却負担はまだ増える余地がある

ここから言えることは単純だ。2024年12月期末に3,780億円あった建設仮勘定の多くは、すでに稼働資産へ振り替わった。その償却は、これから数年かけて損益計算書を通っていく。

会社は300mmについて先端品需要への対応力を強化すべく製造設備の高度化を進め、200mm以下については生産体制の再編成をはじめ効率化と収益改善に努めるとしている。前者は追加の投資を、後者は費用の削減を意味する。

投資の山は越えたが、費用の山はこれからも続く。利益の回復を待つ側からすると、この時間差をどう見積もるかが最大の論点になるだろう。

筆者コメント

業界内での立ち位置に照らすと、この会社の数字は妙な見え方をする。売上規模は大きく、AI関連という最も強いテーマの真ん中にいるのに、収益性の指標だけが業種の下位に沈んでいる。

装置産業では珍しいことではない。ただSUMCOの場合、その落差を作っているのが不振ではなく積極投資である点が独特だ。稼ぐ力が落ちたから利益が消えたのではない。将来の稼ぐ力を買いに行った代金を、いま払っている。

私が興味を持っているのは、この投資が結果的に正しかったかどうかを、どの数字で判定できるかという点だ。売上高でも営業利益でもない。投じた資本に対してどれだけの利益が返ってきたかで見るしかない。

そのためには、償却がひととおり乗り切った状態の利益水準を見る必要がある。建設仮勘定が707億円まで減ったいま、その状態にはかなり近づいている。

次の数期は、この会社にとって答え合わせの期間になる。株価の日々の振れよりも、原価率と減価償却費の推移を並べて追いかけることをおすすめしたい。

 

参考資料

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石津 大希