6. 社会保険の適用拡大が進む——「106万円の壁」はどう変わるか

ここまで見てきたように、厚生年金への加入期間の長さは受給額を大きく左右します。この構造に影響し得る制度改正が、2025年6月13日に成立した年金制度改正法(社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律)です。

厚生労働省によると、パートやアルバイトなど短時間労働者への被用者保険(厚生年金・健康保険)の適用拡大を進める一環として、賃金要件(月額8.8万円、年収換算で約106万円)は「令和7年6月から3年以内に廃止」する方向が示されています。

あわせて企業規模要件についても段階的な縮小・撤廃が予定されており、厚生労働省の公表資料では、従業員36人超の企業は2027年10月から、21人超は2029年10月から、11人超は2032年10月から、10人以下は2035年10月からと、対象規模を順次拡大していくスケジュールが示されています。

これらが実現すれば、これまで国民年金第1号被保険者や第3号被保険者として働いていた短時間労働者にも、厚生年金に加入する機会が広がることになります。

前述のモデルケースで見た「厚生年金中心」と「国民年金中心」の受給額の差は、将来的には多少縮小していく可能性があります。ただし、施行時期は幅を持たせた予定であり、廃止の具体的な期日はまだ確定していない点には注意してください。

7. 自分の老後資金を増やす——2026年12月からiDeCoの間口が広がる

制度の適用拡大は将来世代にとっての備えになる一方、すでに国民年金第1号被保険者期間が長い、あるいは厚生年金の加入期間が短かった人にとっては、今からできる自助努力も選択肢になります。

その一つが、2026年12月に予定されている個人型確定拠出年金(iDeCo)の制度改正です。運営主体である国民年金基金連合会や関連する発表によれば、現行60歳未満となっている加入可能年齢は「70歳未満」まで拡大される見込みで、老齢基礎年金などの受給を始めていない人であれば、60歳以降も掛金を拠出し続けられるようになります。

あわせて拠出限度額も見直され、自営業者などの国民年金第1号被保険者は月6.8万円から7.5万円へ、企業年金のある会社員などは企業年金と合算した限度額が月6.2万円まで引き上げられる方向とされています(第3号被保険者は月2.3万円で変更なしとされています)。

厚生年金の加入期間が短く、モデルケースで見た受給額が低い層ほど、60歳代以降も拠出を継続できる意味は大きいといえます。ただし、具体的な制度内容や施行日は今後の公式発表で変更・確定される可能性があるため、最新情報は厚生労働省や国民年金基金連合会の発表を確認してください。

8. まとめにかえて|自分の年金を「知る」ことが備えの第一歩

年金は、額面の受給額そのものに現役時代の働き方による大きな差があるうえ、実際に振り込まれる金額からは介護保険料や税金など複数の項目が天引きされています。

8月分と10月分で振込額が変わって見えるのも、多くの場合は年金額自体ではなく、天引きされる社会保険料や税金の確定時期のズレが原因です。

まずは、自分がどのモデルケースに近いのか、そして天引きされている項目の内訳がどうなっているのかを、届いた通知書や公的なツールで確認することから始めましょう。

制度は今後も見直しが続いていく見込みであり、その変化を踏まえたうえで、自分に合った老後の備え方を考えていくことが大切です。

9. 筆者からのコメント

熊谷 良子

自分の年金がどのくらいになりそうかを具体的にイメージするには、厚生労働省が公開している「公的年金シミュレーター」を使う方法もあります。

ねんきん定期便に記載されたQRコードを読み取るか、生年月日や年収の見込みなどを入力するだけで、今後の働き方を変えた場合も含めて将来の受給額を試算できます。

転職や退職、扶養に入るタイミングを変えた場合の見込み額を比べてみるだけでも、加入期間の長さが受給額に与える影響を具体的に把握しやすくなるでしょう。

今回紹介した5つのモデルケースはあくまで平均的な数字にすぎず、実際の受給額は本人の加入記録によって変わってきます。

社会保険の適用拡大やiDeCoの制度改正といったニュースを見聞きするたびに一喜一憂するよりも、まずは自分自身の数字を定期的に確認し、そのうえで働き方や資産形成の方針を見直していく方が、老後の家計管理としては現実的かもしれません。

参考資料