2026年7月15日、厚生労働省は「2025(令和7)年国民生活基礎調査」の結果を公表しました。生活意識を「苦しい」と答えた世帯は55.4%(前回2022年調査は51.3%)に上昇しています。一方で相対的貧困率は15.0%と、前回の15.4%からわずかに低下しており、「所得の水準」と「暮らしの実感」がずれている状況がうかがえます。
「住民税非課税世帯」という言葉は、給付金や医療・介護費の負担軽減とセットで語られることが多く、家計へのインパクトが非常に大きい区分です。ところが、自分がその境界線のどちら側にいるのかを正確に把握している人は決して多くありません。
非課税かどうかを分けるのは「前年の所得」ですが、判定の入り口には全国共通のルールと、自治体ごとに金額が異なるルールの2種類があります。さらに同じ所得水準でも、給与収入なのか年金収入なのか、扶養している家族がいるのかによって、目安となる年収は大きく変わります。
本記事では、総務省や自治体の公表資料をもとに住民税非課税世帯の判定条件と収入ボーダーラインを整理し、境界線付近で起こりやすい「働き方の落とし穴」、そして自分の課税状況を確実に確認する方法までを順に見ていきましょう。
なお、住民税非課税世帯の判定基準や優遇措置に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。
【住民税非課税世帯】給与・年金の収入基準《ボーダーラインはいくら?》知っておきたい5つの優遇制度!制度の基本とファクトを網羅した完全ガイド
【2026年最新】「住民税非課税世帯」を対象とした「優遇措置」8選 《年金・給与》年収いくらで該当するのか境界線も見ておこう「収入ゼロでも給付金が届かない?」5つの盲点を徹底解説
1. 記事を読むとわかる3つのポイント
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【判定の入り口】非課税になる条件は3つ。うち所得基準だけは市区町村ごとに金額が異なる。 -
【年収の目安】神戸市の例では、単身で給与のみなら年収110万円以下、65歳以上で年金のみなら155万円以下(2026年度課税分)。 -
【境界線の罠】わずかな収入増で優遇が外れ、手取りの伸びが鈍化する「崖」が存在する。
2. 住民税が非課税になる3つの条件
まず押さえておきたいのは、住民税が非課税になる入り口が複数あるという点です。生活保護を受けているかどうかだけで決まるわけではなく、実務上は次のいずれかに当てはまるかどうかで判定されます。
- 生活保護法による生活扶助を受けている
- 障害者、未成年者、寡婦またはひとり親のいずれかに該当し、前年の合計所得金額が135万円以下である
- 前年の合計所得金額が、居住する市区町村の定める基準額以下である
このうち1と2は全国どこでも共通の条件です。一方、3の所得基準額は市区町村が定めるため、同じ収入でも住んでいる地域によって課税・非課税の結論が変わることがあります。
また見落とされがちなのが、収入のうち何が判定に含まれるかという点です。遺族年金や障害年金は所得税法などにより非課税所得と位置づけられており、いくら受け取っていても住民税の判定に用いる合計所得金額には算入されません。「年金を受け取っているから対象外だろう」と自己判断で確認をやめてしまうのは早計で、判定に入る収入と入らない収入を切り分けることが第一歩になります。あわせて住民税非課税世帯で受けられる優遇制度と制度の基本構造を押さえておくと、自分が確認すべき制度の範囲がはっきりします。
3. 【神戸市の例】住民税非課税の所得基準はどう計算する?
3つ目の条件である「市区町村の定める基準額」は、実際にどのような計算式で示されているのでしょうか。ここでは兵庫県神戸市が公表している基準を例に確認します。
注意したいのは、末尾の21万円は同一生計配偶者または扶養親族がいる場合にのみ加算される点です。単身世帯であれば「35万円+10万円=45万円」が基準となり、合計所得金額が45万円以下であれば課税されません。
同一生計配偶者とは、納税者と生計を一つにする配偶者のうち前年の合計所得金額が58万円以下の人を指します(2026年度課税分の基準)。扶養する家族が1人増えるごとに基準額が35万円ずつ上がる構造で、世帯人数が判定に直結します。
4. 【神戸市の例】給与・年金収入別の非課税年収ライン
計算式は「所得」ベースで示されていますが、家計で意識するのは通帳に入ってくる「収入」の金額でしょう。所得は収入から必要経費や給与所得控除・公的年金等控除を差し引いて計算されるため、同じ所得45万円でも、収入の種類によって年収の目安は変わります。
4.1 単身世帯の場合(合計所得金額45万円以下)
- 給与収入のみの場合:年収110万円以下
- 年金収入のみの場合(65歳以上):年収155万円以下
- 年金収入のみの場合(65歳未満):年収105万円以下
4.2 配偶者や扶養家族がいる場合(合計所得金額101万円以下)
- 給与収入のみの場合:年収166万円以下
- 年金収入のみの場合(65歳以上):年収211万円以下
- 年金収入のみの場合(65歳未満):年収171万3334円以下
同じ「非課税」でも、単身の給与収入110万円と、65歳以上・扶養1人の年金収入211万円では、金額に100万円前後の開きがあります。65歳以上の年金収入で基準が高くなるのは、公的年金等控除(最低110万円)が給与所得控除(最低65万円)より手厚く設定されているためです。年金・給与別の非課税年収ラインと8つの優遇措置を突き合わせると、自分の世帯がどの数字を見るべきかが整理しやすくなります。
なお、これらはあくまで神戸市の基準に基づく目安です。前述のとおり所得基準額は自治体ごとに異なるため、居住地の金額は市区町村の公表資料で確認してください。
4.3 【注意】2026年度税制改正で「所得税」の控除額は引き上げに
2026年度(令和8年度)税制改正により、所得税では基礎控除が58万円から62万円へ、給与所得控除の最低保障額が65万円から74万円へ引き上げられました。原則として2026年12月1日に施行され、2026年分以後の所得税に適用されます。
ただし、この記事で扱っている個人住民税の非課税判定には、まだこの改正は反映されていません。住民税は所得税より1年遅れて改正が反映されるうえ、住民税の基礎控除43万円や非課税限度額の算式(35万円・10万円・21万円・32万円)は今回変更されていないためです。上記の神戸市の金額は、2026年度課税分(2025年中の所得で判定)の基準としています。
一方、2027年度以降の住民税では給与所得控除の引き上げが反映される見込みで、非課税ラインの年収目安が動く可能性があります。年度をまたぐ判断をする場合は、最新の市区町村の公表資料を確認してください。
4.4 【シミュレーション】単身・給与収入115万円の場合、住民税はいくらかかる?
単身世帯の非課税ライン(給与収入110万円以下)を、わずかに超えてしまった場合の住民税額を試算してみましょう。社会保険料控除などはないものと仮定します。
- 給与収入:115万円
- 給与所得(給与収入-給与所得控除65万円):50万円
- 住民税の基礎控除:43万円
- 課税所得(所得割の対象):50万円-43万円=7万円
この課税所得に、住民税の所得割の税率10%を掛けると7000円になります。なお税率10%の内訳は自治体によって異なり、一般の市町村は市町村民税6%+道府県民税4%ですが、政令指定都市である神戸市は税源移譲により市民税8%+県民税2%となっています(合計は同じ10%です)。さらに、所得税と住民税の控除額の差を埋めるための「調整控除」が2500円差し引かれるため、所得割額は約4500円です。
これに、所得や税額にかかわらず定額でかかる均等割が加わります。神戸市の場合は市民税3400円(うち400円は認知症「神戸モデル」負担額)+県民税1800円(うち800円は県民緑税)+森林環境税1000円で、合計6200円です。したがって住民税の年額は、およそ1万1000円という試算になります。
年収がわずか5万円増えただけで、非課税から一転して年間1万円強の住民税が発生する計算です。実際の税額は自治体ごとの均等割額や社会保険料控除などの適用状況によって前後します(社会保険料を支払っていれば所得割はゼロになることもあります)が、「境界線のすぐ外側」で起こる負担増のイメージとして参考にしてください。


