すると母は、「みんな通る道だからね。」と同調してくれた後に、「でも1歳なんて、まだ子育て始まってもいないから。物理的にも経済的にも、大変なのは思春期を迎えてからだからね」とバッサリ。

この「まだ子育て始まってもいない」という一言に、筆者は少しカチンときてしまいました。まだ子育てが始まってもいないなら、乳首が切れたり乳腺炎に罹ったりしながらも頑張っていた授乳はなんだったのか。まだ子育てが始まってもいないなら、離乳食をなかなか食べてくれない中でレシピや食べさせ方を試行錯誤していた日々はなんだったのか。夜泣き対応によって寝不足になっていたあの毎日は…。

母からすれば、たしかに筆者が経験しているのは長い子育てにおける最初のたった1年間です。この先の子育て人生において待っているさまざまなことに、今後挫折したり苦しんだりしないように、あらかじめ助け船を出してくれていたのでしょう。

しかし、それでもここまで悩んだり泣いたりしながら必死にやってきて、ようやく1歳を迎えられて今があります。そんな状況の中での「まだ子育て始まってもいない」という言葉によって、これまでの頑張りが否定され、踏みにじられたような気分になってしまいました。これは気の置けない実母だったからこそ、余計にそう思ってしまったのかもしれません。

涙が出た「懐かしく思う時がくるよ」「お母さんが倒れないようにね」

誤解のないように言いますが、子育て経験者から言われる言葉のほとんどは、勉強になり、励まされ、勇気をもらえるものばかりです。

生後4カ月だった子どもと電車に乗っていた時、子どもがグズりだしたために慌てて立ち上がってあやしていた筆者を見て、そばにいたおばさまが言ってくれた「お母さん、今は本当に大変だと思うけど、いつか『あの頃が懐かしい』と思う時がくるわよ」という言葉。

子どもの看病で毎日ヘトヘトになっていた時に、子どもがもう大きいという小児科の受付の方から「看病って本当に大変ですよね。私も経験ありますけど、自分が倒れちゃうこともあるから。お母さんこそなるべく栄養つけてたくさん寝てくださいね!」という言葉。子育ての大変さをわかってくれる人生の先輩方が言ってくれたこれらの言葉は、本当に涙が出るほど嬉しいものでした。

自分が通ってきた道だからこそ、いろいろとその先の苦労や大変さを教えてくれる子育て経験者の言葉。言う方は励ましや助言のつもりでも、言われた方の当事者からすると産後のメンタル不安も相まって「今の頑張りを否定されてる?」「そんなこと言われても、自分にとって今はすごく大変なのに」とネガティブに受け取ってしまうこともあります。

将来、同じように自分が第一子や乳児を育てている人に何かを言う側になった時、経験者だからこその何気ない言葉で傷つけてしまうかもしれないことを忘れないようにしたいと思います。

富士 みやこ