ユニクロ・GUを展開するファーストリテイリング(9983)の2025年8月期は、売上収益3兆4,005億円、当期純利益4,330億円といずれも過去最高を更新し、株主資本利益率(ROE)は約20.2%に達しました。4年前の2021年8月期のROEは約16.4%でしたから、もともと高かったROEをさらに引き上げたことになります。

しかも、その中身を見ると「財務レバレッジ(借金の活用度)はむしろ下がっているのにROEが上がる」という、極めて質の高い改善が起きています。

本記事は株価やバリュエーションではなく、業績の中身と、ROEを分解して見える「稼ぐ効率」の変化に焦点を当て、2021年8月期と2025年8月期を比べて読み解きます。

1. 過去最高益、ROEは16.4%→20.2%へ

2025年8月期は、売上収益が前期比8.7%増の3兆4,005億円、営業利益が同12.7%増の5,643億円、当期純利益が同16.4%増の4,330億円と、大幅な増収増益でした。当期純利益はこれで5期連続の過去最高更新となります。ROEは約20.2%で、日本を代表する企業のなかでも突出して高い水準です。伊藤レポートが最低ラインとして掲げたROE8%、長期投資家が優良企業の目安とする12%を、いずれも大きく上回っています。

けん引役は、海外ユニクロ事業です。国内ユニクロが成熟する一方、グレーターチャイナ(中国本土・香港・台湾)や東南アジア、そして北米・欧州で出店と収益性の向上が進み、成長の主役が海外に移っています。円安による海外利益の押し上げも追い風となりました。

2. ROEを分解する——デュポン分解で2021年8月期と2025年8月期を比べる

ROEの変化を理解するには、3つの要素に分解する「デュポン分解」が有効です。

ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ

決算短信の実額(総資産・自己資本=親会社所有者帰属持分)と売上収益・純利益から計算すると、次のようになります。

  • 2021年8月期:純利益率 約8.0% × 総資産回転率 約0.87回 × 財務レバレッジ 約2.37倍 = ROE 約16.4%
  • 2025年8月期:純利益率 約12.7% × 総資産回転率 約0.91回 × 財務レバレッジ 約1.74倍 = ROE 約20.2%

分解すると、ROE改善(16.4%→20.2%)の主役がはっきりします。最大の要因は、売上高純利益率の大幅な改善(8.0%→12.7%)です。コロナ禍からの回復に加え、高収益な海外ユニクロの比重が高まり、値上げや商品構成の見直しによる粗利率の改善も進みました。総資産回転率は0.87回から0.91回とほぼ横ばいです。

3. 財務レバレッジは下がったのにROEが上がった理由——「稼ぐ力」の改善

ここで注目すべきは、3つ目の財務レバレッジです。こちらは2.37倍から1.74倍へと、大きく低下しています。財務レバレッジの低下は、単独ではROEを押し下げる方向に働きます。それにもかかわらずROEが16.4%から20.2%へ上昇したのは、売上高純利益率の改善が、レバレッジ低下によるマイナスを打ち消して余りあったからです。

財務レバレッジが下がったのは、同社が稼いだ利益を着実に自己資本として積み上げたためです。自己資本比率はこの間に約44.5%から約58.9%へ上昇し、手元には潤沢な現金を抱える、より保守的で強固な財務体質へと変わりました。ここが、ファーストリテイリングのROE20.2%の「質」の高さを物語っています。

借金という「てこ」を効かせてROEを高く見せているのではなく、むしろ財務を健全化させながら、本業の稼ぐ力(利益率)そのものでROEを引き上げている。これは、企業のROEとして最も理想的なかたちの一つです。デュポン分解を使えば、同じ「ROE20%」でも、それが借金による見かけ倒しなのか、稼ぐ力に裏打ちされた本物なのかを見分けられます。ファーストリテイリングは、まぎれもなく後者です。

4. イズミダの視点:デュポン分解が映す「本物の高ROE」と、株主資本の複利

私はかつて証券アナリストとして数多くの企業のROEを見てきましたが、「レバレッジを下げながらROEを上げる」という芸当ができる会社は多くありません。多くの企業は、ROEを高く見せたいとき、つい借金を増やして財務レバレッジに頼りがちです。しかしそれは景気が良いときは効いても、不況になれば重い足かせになる諸刃の剣です。

ファーストリテイリングは正反対で、財務をむしろ健全化させながら、海外ユニクロという成長エンジンの利益率改善で堂々とROEを20%まで引き上げました。私がいつも「デュポン分解で稼ぐ力の質を見抜け」と言うのは、まさにこういう違いを見極めるためです。

そして、この高いROEこそが、長期投資における最強のエンジンになります。ROEとは、株主資本を年何%で複利運用しているかを示す指標でもあります。ROE20%を維持できれば、稼いだ利益が株主資本を雪だるま式に膨らませ、企業価値は複利で成長していく。実際、同社の利益剰余金はこの数年でほぼ倍増しました。ウォーレン・バフェットが好むような、高いROEを長期にわたって維持できる「クオリティ・グロース(質の高い成長)」の代表格だといえます。

もっとも、装置産業ならぬ店舗ビジネスゆえに海外出店には資金が要り、市況や地政学、為替の影響も受けます。問われるのは、海外ユニクロの成長をどこまで続け、この20%という高いROEを維持できるか。稼ぐ力に裏打ちされた「本物の高ROE」を今後も守れるか——そこが、これからのファーストリテイリングを見るうえで一番の注目ポイントです。

参考資料

泉田 良輔