6. 定年後も働くのが「ふつう」の時代?データで見るシニア家計のリアル
「定年を迎えたら、年金で悠々自適なセカンドライフを…」 かつて描かれていたそんな老後のイメージは、過去のものになりつつあります。
内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、60歳代後半(65~69歳)の就業率は53.6%にのぼり、実に半数以上が何らかの形で働き続けていることが分かっています。
なぜ、多くのシニアが働き続けているのでしょうか?健康維持や社会とのつながりといった目的もありますが、切実な理由の一つが「家計」の問題でしょう。
6.1 年金だけでは毎月「約4.2万円の赤字」
総務省の家計調査によると、65歳以上の無職夫婦世帯における1か月の実収入(主に年金)は約25.4万円。
それに対し、食費や光熱費などの消費支出に税金等の非消費支出を合わせた支出合計は約29.6万円となっており、毎月約4.2万円の赤字が発生している計算になります。
つまり、ごく標準的な生活を送るだけでも、足りない分は手元の預貯金を取り崩して補わなければならないのが、シニア家計のリアルな現状なのです。
6.2 物価高が老後の蓄えを圧迫する
さらに近年は、容赦ない「物価高」がシニアの家計を直撃しています。
2025年度の公的年金は前年比でプラス改定となったものの、消費者物価指数の上昇率(3.2%)には追いついておらず、実質的な年金の価値は目減りしています。
現役世代のように賃上げでカバーすることが難しい無職の高齢世帯にとって、この影響は深刻です。
6.3 老後の不安を減らす「2つの備え」
こうした時代において、ゆとりある老後を迎えるためにはどうすればよいのでしょうか。
一つは「健康なうちは無理のない範囲で長く働き、収入の柱を維持すること」です。
毎月数万円でも労働による収入があれば、貯蓄の目減りを抑えることもできるでしょう。
もう一つは、「現役時代からの計画的な資産形成」です。
貯蓄だけに頼るのではなく、新NISAやiDeCoなどを活用し、お金にも働いてもらう仕組みを早めに作っておくことが、これからの長寿時代を生き抜く強力な武器になるでしょう。
7. 【豆知識】年金の受給開始、いつが最適?「繰上げ」「繰下げ」の損得勘定
さて、老齢年金は原則として65歳から受け取れますが、受給開始時期を早めたり遅らせたりすることも可能です。
- 繰上げ受給:60歳から64歳の間に受給を開始する方法です。1カ月早めるごとに0.4%ずつ年金額が減額され、最大で24%(60歳0カ月から開始)少なくなります。一度選択すると生涯その減額率が適用されます。
- 繰下げ受給:66歳から75歳の間に受給を遅らせる方法です。1カ月遅らせるごとに0.7%ずつ年金額が増額され、最大で84%(75歳0カ月から開始)多くなります。この増額率も生涯続きます。
どちらが得かという問いに絶対的な正解はありませんが、一般的に繰下げ受給の場合、受給開始から約12年で繰下げをしなかった場合の総受給額を上回るとされています。
例えば70歳から受給を開始すると、82歳頃に総受給額が逆転します。
ご自身の健康状態や貯蓄額、ライフプランなどを総合的に考慮して、最適な受給開始時期を検討することが重要です。
8. まとめ:年金だけで「ゆとりある老後」は実現できるか?
生命保険文化センターの「2025(令和7)年度 生活保障に関する調査」によると、夫婦2人が「ゆとりのある老後生活」を送るために必要と考える生活費は月額平均39万1000円です。
一方で、「最低限の日常生活」には月額平均23万9000円が必要とされています。
記事で紹介したモデルケースのうち、最も受給額の多い「会社員同士の共働き夫婦(約31万円)」でも、ゆとりある生活には約8万円不足します。年金だけで豊かな老後を送るのは、簡単ではないのが実情です。
まずは「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」でご自身の年金見込額を正確に把握することから始めましょう。
その上で、在職老齢年金や繰下げ受給といった制度も理解し、自分に合った働き方や受給プランを考えることが大切です。
不足分を補うためには、新NISAやiDeCoなどを活用した計画的な資産形成を並行して進めていくことが、これからの時代に求められます。
9. 筆者からのコメント
老後資金計画を立てる際、見落としがちなのが介護費用です。
筆者は親の介護と看取りを経験しましたが、日常な費用・突然入院費などの負担の大きさもさることながら、何年分を備えておけばよいのかが見えにくいという点が最も不安でした。
生命保険文化センターの調査では、介護に要する一時的な費用の合計は平均74万円、月々の費用は平均8万3000円というデータがあります。
公的介護保険で自己負担は1〜3割に抑えられますが、施設利用時の食費や居住費などは全額自己負担となる場合も。
将来の安心のためには、ご自身の年金見込額をベースに資金計画を立てつつ、負担を軽減できる公的支援や助成の制度にアンテナを張っておくことが大切です。
また、いざという時に、親や自分の年金が振り込まれる口座が認知症によって凍結されてしまわないよう、事前の対策についても長期的な目線で今のうちから知っておくことをおすすめします。


