年内に110万円の非課税枠を使い切りたいと考えて、12月に入ってから生前贈与の手続きを検討し始める人は少なくありません。

しかし、贈与契約書の日付を12月31日にしていても、実際の入金が翌年にずれ込んでしまうと、税務署から「今年の贈与」と認めてもらえないおそれがあります。

年末は金融機関の窓口や振込にも通常とは違うタイムラグが生じやすく、駆け込みでの手続きには特有の注意点があります。

この記事では、年末の生前贈与で見落としやすい「着金日」の考え方と手続きのスケジュール、贈与を進めるうえで押さえておきたい基本ルール、遺留分トラブルを避けるための注意点について解説します。

1. 12月31日ギリギリの贈与はなぜ危険か「年内着金」の落とし穴

まず、なぜ年末の駆け込み贈与に特有のリスクがあるのかを確認していきます。

1.1 判断基準は「契約日」ではなく「財産が実際に渡った日」

財産を取得する時期については、書面による贈与では契約の効力が発生した時、書面によらない贈与では実際に履行があった時とされています。

現金を銀行振込で贈与する場合、契約書を12月31日付で作成していても、実際の振込・着金が年をまたいで翌年になってしまうと、贈与が完了したのは翌年だと判断されるおそれがあります。

「贈与契約書の日付さえ整えておけば年内の贈与として扱われる」という思い込みは危険で、実際にお金が動いた日が重視される点をおさえておく必要があります。

1.2 年末は金融機関の窓口・振込にタイムラグが生じやすい

多くの金融機関では、年末の窓口営業は12月30日ごろまでとなり、12月31日から1月3日前後は休業となります。

他行宛ての振込についても、当日扱いで着金する時間帯が平日より短く区切られていることが多く、受付時限を過ぎると着金が翌営業日以降にずれ込みます。

年末年始の詳しい営業スケジュールは金融機関や年によって異なるため、利用している銀行の公式サイトでその年の最新情報を確認することが欠かせません。

こうしたタイムラグを踏まえると、遅くとも12月20日前後までには振込手続きを終えておくと、年をまたぐリスクを避けやすくなります。

年末駆け込み贈与のスケジュール目安1/3

年末駆け込み贈与のスケジュール目安

出所:国税庁「相続税法基本通達(財産取得の時期の判定)」、三菱UFJ銀行「年末年始の窓口・ATMのご案内」をもとにLIMO編集部作成

2. 年内贈与で最低限おさえておきたい基本ルール

年末の駆け込みであっても、贈与そのものの基本ルールを外すと、非課税枠が使えなくなったり、将来の相続税の対象になったりします。

2.1 贈与の証拠を残す

110万円以下の贈与で申告が不要な場合でも、贈与契約書を作成し、現金の手渡しではなく銀行振込で記録を残しておくと、後から贈与の事実を確認しやすくなります。

未成年の子や孫への贈与では、契約書に親権者が代わって署名する一方、通帳や印鑑は受け取った本人の名義で管理し、本人が使える状態にしておくことが大切です。

受け取った側の名義口座であっても、贈与した側が通帳や印鑑を管理し続けていると、「名義預金」とみなされ、将来の相続税の対象になることがあります。

2.2 「毎年同じ形」の贈与は避ける

毎年同じ時期に同じ金額を贈与し続けると、当初から決まった総額を分割して渡す「定期贈与」とみなされ、まとめて課税される可能性があります。

また、110万円の非課税枠は贈与する側ではなく、受け取る側1人が1年間に受け取った合計額に対して適用される点にも注意が必要です。

複数の人から贈与を受ける場合は、合計額が110万円を超えていないかを受け取る側で確認しておく必要があります。

生前贈与で最低限おさえておきたい基本ルール2/3

生前贈与で最低限おさえておきたい基本ルール

出所:国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合」をもとにLIMO編集部作成

3. 遺留分を侵害しない範囲にとどめる

年末に急いで贈与額を決める際、見落とされやすいのが遺留分への配慮です。

民法では、兄弟姉妹以外の相続人に「遺留分」という最低限の取り分を保障しており、直系尊属のみが相続人である場合は相続財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1が遺留分の割合となります。

特定の子や孫だけに偏った生前贈与を続けると、将来の相続の際に、他の相続人から「遺留分侵害額請求」を受け、親族間のトラブルに発展する可能性があります。

贈与額を決める際は、非課税枠を使い切ることだけを優先せず、他の相続人の取り分にも配慮したバランスを意識することが望まれます。

和田 直子
年末は「今年中に贈与を終わらせたい」という気持ちが先に立ち、手続きが後回しになりがちです。

ただ、贈与は形を整えることよりも、実際にお金がきちんと動いた記録を残すことのほうが重要です。

契約書を作ってひと安心するのではなく、振込が着金するところまで見届けて、はじめて年内の贈与が完了したと考えるくらいの余裕を持ったスケジュールをおすすめします。

特定の家族だけに偏った贈与を急ぐと、後々のトラブルの種にもなりかねないため、非課税枠を使い切ることだけを目的にしないことも大切です。