2026年7月も下旬となり、まもなくお盆休みを迎えます。

連休を利用して帰省し、久しぶりにご両親と顔を合わせる予定を立てている方も多いことでしょう。

離れて暮らす親の姿にふと「衰え」を感じ、将来の介護や実家の行く末、そして老後の生活費について、急に現実味を帯びて考え始めるのもこの季節ならではのことかもしれません。

また、今年の夏も厳しい暑さが続き、連日のエアコン稼働による光熱費の高騰や、生活必需品の値上がりなど、インフレの波は私たちの生活を直撃しています。これは現役世代だけでなく、限られた年金でやりくりをするシニア世帯にとって、さらにシビアな死活問題となっています。

本記事では、もうすぐやってくるお盆の帰省シーズンを前に、親世代のリアルな懐事情を知る手がかりとして、最新データをもとに「シニア世帯の貯蓄と家計収支の実態」へ焦点を当てます。

老後家計の厳しい現実を紐解きながら、2026年度(令和8年度)の年金動向も確認し、長生きリスクに備えるためのヒントを解説します。

1. この記事の3つのポイント

  •  2026年度の年金額は引き上げも、物価上昇に追いつかず実質目減り。高齢無職世帯の貯蓄額は減少(取り崩し)に転じている。
  •  75歳以上・二人以上世帯の平均貯蓄額は2392万円だが、介護費用は一人あたり約2300万円に及ぶ試算もある
  •  75歳以上・無職の二人以上世帯では、家計収支は毎月約2万7000円の赤字となっており、資産を長く維持する工夫が求められる
熊谷 良子

お盆の帰省は、親の暮らしぶりを直接確認できる貴重なチャンスです。

かつて私も、離れて暮らす家族の認知症介護と仕事の両立に直面し、慌てて実家の家計状況を整理した経験があります。

「冷蔵庫に賞味期限切れの食品が増えていないか」「郵便物が溜まっていないか」といった些細な変化が、介護の始まりのサインになることも。

お金の話題は切り出しにくいものですが、まずは親の体調や困りごとを聞くところから、少しずつコミュニケーションを深めてみてくださいね。

2. 2026年度の年金は増額も「実質目減り」の厳しい現実

老後資金を考える際は、まず最新の年金制度の動向を把握しておきましょう。

公的年金は、物価や現役世代の賃金動向を反映し、毎年度支給額が見直されます。

2026年度は、国民年金(老齢基礎年金)が前年度比1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%引き上げられました。

これで年金額の引き上げは4年連続となります。

2.1 2026年度(令和8年度)の最新年金額をモデル世帯でチェック

2026年度の公的年金改定情報1/6

2026年度の公的年金改定情報

出所:日本年金機構「令和8年分からの年金額等について」

  • 国民年金(老齢基礎年金・満額):月額7万608円(前年度比+1300円)
  • 厚生年金(夫婦2人分の標準的な年金額):月額23万7279円(前年度比+4495円)

※厚生年金は、平均的な収入(賞与含む月額換算45.5万円)で40年間就業した夫と、専業主婦の妻というモデル世帯を想定した支給額です。

今回の改定では前年の物価変動率が3.2%だったのに対し、年金額の引き上げ率は最大でも2.0%でした。

物価の上昇幅に年金額の増加が追いついていないため、実質的な購買力は低下している状況といえます。

3. 75歳以上世帯の平均貯蓄は「2392万円」だが…

年金だけで生活費を賄えない場合は、現役時代に蓄えた資産が重要になります。

総務省統計局「家計調査(貯蓄・負債編)2025年」によると、世帯主が75歳以上の無職・二人以上世帯における平均貯蓄額は2392万円でした。

3.1 貯蓄ゼロが約1割!平均額だけでは見えない「資産格差」

平均貯蓄額だけを見ると資産に余裕があるように感じるかもしれません。

しかし、平均値は高額な資産を保有する世帯の影響を受けやすいため、実態を把握するには中央値なども確認する必要があります。

J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査2025年」による70歳代・二人以上世帯のデータは次のとおりです。

  • 平均:2416万円
  • 中央値:1178万円
  • 金融資産非保有(貯蓄ゼロ):10.9%
  • 3000万円以上:25.2%

平均と中央値には大きな開きがあり、貯蓄ゼロの世帯が約1割ある一方、3000万円以上を保有する世帯は約4分の1を占めています。

同じ世代でも資産状況には大きな差があることがわかります。

4. 75歳以上シニア世帯は「毎月約2万7000円」の赤字

総務省「家計調査(家計収支編)2025年」によると、75歳以上の無職・二人以上世帯では、毎月平均約2万7000円の赤字となっています。

貯蓄額を示した「貯蓄・負債編」とは集計方法が異なるため、毎月この金額を貯蓄から取り崩していることを意味するものではありません。

ただし、多くのシニア世帯では、年間約32万円に相当する不足分を、貯蓄などで補っている状況がうかがえます。

老後資金を考えるうえでは、次の3つの点も踏まえておく必要があります。

4.1 「ゆとりある老後」を望むなら不足額はさらに増大

家計調査の赤字額は、あくまで平均的な生活水準を前提とした数字です。

生命保険文化センターの調査では、「ゆとりある老後生活」を送るためには夫婦で月額39万1000円が必要とされており、その場合は不足額がさらに大きくなります。

5. 介護費用は「一人2300万円」の試算も。親のお金で足りる?

家計調査の支出には、介護費用は基本的に含まれていません。

株式会社LIFULL senior(LIFULL介護)が2026年6月に公表した試算では、在宅介護を1年間行った後、有料老人ホームへ5年間入居した場合、介護費用は一人あたり約2295万6000円になるとされています。

特別養護老人ホームなどの公的施設を利用できれば費用を抑えられる可能性はありますが、民間施設を利用する場合は総額2000万円を超えるケースもあります。

また、同調査では、親世代の約6割が介護費用を準備しておらず、子世代の8割超は介護費用について親と話し合った経験がないと回答しています。

介護保険サービスを利用しても、所得に応じて1~3割の自己負担が発生するため、将来を見据えた準備や家族との話し合いが重要です。

5.1 75歳からの「後期高齢者医療制度」自己負担割合にも要注意

75歳になると後期高齢者医療制度の対象となり、医療費の窓口負担は原則1割です。

ただし、一定以上の所得がある世帯は2割負担、現役並み所得の世帯は3割負担となるため、医療費負担が家計に与える影響も考慮しておく必要があります。

6. 夫婦の老後資金は長引く「おひとりさま期間」まで見据えて

老後資金の計画を立てる際に気をつけておきたいのが「想定する期間の長さ」です。

厚生労働省の「令和7(2025)年簡易生命表」によれば、現在75歳の方の平均余命は男性で12.24年(約87歳まで)、女性で15.88年(約91歳まで)となっています。

また同統計によれば、0歳生まれの人が「90歳まで生存する割合」は男性26.7%、女性50.8%に達します。

出生者のちょうど半数が生存すると期待される「寿命中位数」で見ても男性84.13年、女性90.17年となっており、75歳を迎えてからも非常に長い期間を見据える必要があることがわかります。

ご夫婦の場合、どちらか一方が亡くなられた後も、残された配偶者が長期間「おひとりさま」として生活を続けるケースは一般的です。

そのため、80歳前後までを前提とした資金計画では不足する懸念があります。

また、配偶者が亡くなった後は、生活費が単純に半分になるわけではなく、家賃や光熱費などの「固定費」の負担割合が相対的に大きくなる傾向も、心に留めておきたい点の一つでしょう。

熊谷 良子

介護や医療にお金がかかる高齢期ですが、公的制度を正しく知ることで不安の軽減に繋がります。

例えば、同じ月に医療と介護の両方で高額な自己負担が発生した場合、負担をさらに軽減できる「高額介護合算療養費制度」という仕組みも。

また、いずれ訪れる「おひとりさま期間」や認知症リスクに備え、親が元気なうちに「家族信託」や「任意後見制度」を検討し、銀行口座が凍結されて生活費が引き出せなくなる事態を防ぐ工夫も視野に入れる必要があるかもしれません。

日々の公的データを分析していると、制度を知っているかどうかが老後の明暗を分けると強く感じます。

7. お盆の帰省がチャンス!親の「資産寿命」を延ばす家族会議を

長寿化が進み、さらに物価高という逆風が吹くこんにち、老後のマネープランは「手元の資産がいくらあるか」だけでなく、「その資産で何年間生活を支えられるか(=資産寿命)」という視点が極めて重要になっています。

医療や介護の自己負担については、1か月の支払いが上限を超えた場合に払い戻しを受けられる「高額療養費制度」や「高額介護サービス費」といった公的制度があります。

また、一定要件を満たすと老齢年金に上乗せされる「老齢年金生活者支援給付金」や「加給年金」なども存在します。これらを正しく理解し、活用する姿勢も「資産寿命」を守るうえで欠かせません。

今年の夏、お盆の帰省は、ただ懐かしい顔を合わせるだけでなく、将来に向けた大切な話し合いの場にする絶好の機会です。「親の年金や預貯金でどこまで介護や医療の費用をカバーできるのか」「足りない場合に家族がどう支援するのか」といったテーマは、直接顔を合わせているからこそ切り出しやすいものです。

平均的なデータや表面的な数字にとらわれることなく、ご自身のライフスタイルや親の健康状態に合わせて、収入を補い、制度を活用し、資産を守るための総合的な計画を立てていくことが、これからの高齢期を豊かに過ごすための第一歩となるでしょう。

熊谷 良子

長寿化が進むなか、親の「資産寿命」を守ることは、現役世代である私たち自身のライフ&キャリアを守ることにも直結します。

働き方が多様化している今、親世代のシビアなデータは決して他人事ではありません。

少額からでも新NISAやiDeCoを活用し、非課税の恩恵を受けながら長期・分散投資を行って、自分自身の老後資金の土台を築き始めることが重要です。

若いうちからお金と年金の正しい知識を備えておくことで、自分らしい生き方を諦めずに、老後に困らないための選択肢を広げていけるはずだと実感しています。

この夏の家族会議が、その第一歩となることを願っています。

参考資料