5. 働くシニアなら知っておきたい「在職老齢年金、65万円の壁」を解説
「長く働きたいけれど、働きすぎると年金が減らされてしまうのでは?」 シニア世代が就労を検討する際、多くの方が懸念するのが「在職老齢年金」の制度です。
在職老齢年金とは、60歳以上の人が働きながら受け取る厚生年金について、ひと月あたりの給与(標準報酬月額など)と年金(基本月額)の合計額が一定の基準(支給停止調整額)を超えた場合、超えた分の半額の年金が支給停止(減額)される仕組みです。
厚生労働省の発表によると、令和8年度からはこの「支給停止調整額」が「65万円」へと引き上げられました。
つまり、ひと月あたりの「給与と年金(厚生年金)の合計」が65万円を上回らなければ、年金が減らされることはありません。多くの方にとって、この基準額は十分に余裕のある金額といえるでしょう。
過度に「働き損」を恐れることなく、ご自身の体力や希望に合わせた働き方を選ぶことが可能です。
ただし、給与水準が高い方や、現役時代と変わらない条件で働き続ける方は、この「65万円の壁」を超える可能性があるため、働き方と年金の受け取り方を総合的にシミュレーションしておくことが重要です。
実は、在職老齢年金の制度で「支給停止」となった分の年金は、後からさかのぼって受け取ることや、将来の繰り下げ受給で増額させることができません。
「働き損になるくらいなら、年金をもらわずに受給開始年齢を繰り下げよう」と考える方も多いのですが、この場合でも「もし受け取っていたら減額されていたはずの年金額」は、繰り下げ増額の対象外となってしまうという落とし穴があります。
働き方と年金の受け取り時期は、ご自身の給与見込額と照らし合わせて早めに計画を立てておきたいですね。
6. 平均所得575万円の違和感。「平均値」と「中央値」から見える高齢者のリアルな家計
ニュースなどで「日本の平均所得」という言葉を聞き、「自分の家計とはかなり違うな…」と感じた経験はありませんか。
厚生労働省の「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」のデータを見ると、その感覚のズレの理由と、高齢者のリアルな生活状況が浮かび上がってきます。
同調査によれば、2024(令和6)年における全世帯の1世帯当たり「平均所得金額」は575万2000円でした。この数字だけを見ると、比較的余裕のある暮らしをイメージするかもしれません。
しかし、所得の低い世帯から高い世帯へと順番に並べた際に、ちょうど真ん中に位置する世帯の所得額を示す「中央値」は「451万円」です。
平均値よりも約124万円も低い金額となっています。さらに、平均所得金額である575万2000円を下回る世帯の割合は、全体の61.5%にものぼります。
これは、一部の高所得世帯が全体の平均値を大きく引き上げていることを意味しており、多くの世帯にとっては、平均値よりも「中央値の451万円」の方が、より実態に近い数字といえるでしょう。
なお、高齢者世帯(※)の平均所得金額は336万1000円で、全世帯の平均と比べて大きく下回ります。
貯蓄や家計管理の目標を立てる際に、こうした「平均データ」を見て焦る必要はありません。ご自身の世帯の状況に合わせた、無理のない資金計画を立てることが何よりも重要です。
※高齢者世帯:65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯
7. 筆者からのコメント
データを見るときは「平均値」だけではなく、「中央値」や「最頻値(一番多い層)」もあわせて確認するクセをつけると、よりリアルな実態が見えてきます。
特に貯蓄額や所得のデータは、ごく一部の富裕層が平均値を押し上げてしまうため、「自分たちは平均以下だ…」と落ち込む必要はないでしょう。
他人と比べるのではなく、自分たちのライフスタイルにいくら必要かを把握し、雇用保険や年金制度をフル活用して「自分たちらしい老後」をデザインしていくことが大切です。
8. 公的支援の活用がカギ。申請制度を理解して豊かなセカンドライフを
還暦を過ぎ、定年退職を迎えた後も、これまでの豊富な経験を活かして働き続けるシニア世代が増加しています。
60歳代、70歳代になっても働くことが当たり前になりつつある現代において、今回ご紹介したような公的な給付金を賢く最大限に活用する視点は、これまで以上に重要性を増すでしょう。
老後の資金計画を立てる際、多くの人は預貯金をどう活用するかや、投資による「資産形成」といった自助努力に目を向けがちです。
もちろんそれらも大切ですが、国や自治体が提供している支援制度に常にアンテナを張り、自身が対象となる権利を確実に利用していくことも、同じくらい重要な「生活防衛」の手段といえます。
「長く働く」という前向きな選択を経済面から支えてくれる公的制度。
その仕組みを正しく理解し、適切なタイミングで申請することが、これからの長いセカンドライフをより豊かで安定したものにするための、確かな一歩となるはずです。


