3. NANDフラッシュ専業ゆえのボラティリティ——市況の波が株価を揺らす
キオクシアは、もとは東芝のメモリ事業が独立した会社で、NAND型フラッシュメモリ(データを保存する半導体)の専業に近い事業構造を持ちます。以前この会社の業績を分析した際にも触れましたが、メモリは価格が需給で大きく上下する「コモディティ(汎用品)」であり、同社のROE(株主資本利益率)は直近でも、2年前の▲44%から足元の約+52%まで振れました。稼ぐ力の振幅が極端に大きいのが特徴です。
この事業特性は、株価のボラティリティ(変動の激しさ)にもそのまま表れます。上場からまだ日が浅く、値動きが軽い銘柄であることに加え、メモリ専業ゆえに世界の半導体市況やAI投資の思惑にストレートに反応します。今回のように、同業の米サンディスクが急落すれば、事業構造が似ているキオクシアも連想売りを浴びる。多額の有利子負債を抱え、まだ無配であることも、市況が逆回転したときのリスクとして意識されやすい点です。好況期の華やかな利益に目を奪われず、この振幅の大きさを前提に見ておく必要があります。
4. イズミダの視点:AIブームでも半導体株は一斉に売られる——値決めの怖さ
私はかつてテクノロジーアナリストとして半導体産業を追いかけてきましたが、今回のキオクシアの急落は、株式投資の本質を鋭く突いています。多くの人は「AIブームなのだから半導体株は上がるはずだ」と考えます。しかし現実には、AI相場の中心にいる銘柄ほど、いったん潮目が変わると一斉に、そして大きく売られる。今回、エヌビディアもサンディスクもキオクシアも同じ日に急落したのは、個々の会社の善し悪しではなく、半導体・AIというセクターそのものからマネーがサッと引いたからです。ファンダメンタルズと需給は、必ず分けて考えなければいけません。
そのうえで、予想PER4倍台という数字の読み方です。私がいつも言うように、株式投資は「なんでも鑑定団」と同じで、大事なのは値決めです。予想PER4倍台は、一見すると破格の割安に見えます。しかしこの数字は、来期に利益が約9倍へと爆発的に膨らむという、市場のかなり強気な前提を織り込んで初めて成り立つものです。前提が正しければ割安、崩れれば割高——同じ株価が、メモリ市況の行方ひとつで、まったく違う顔になる。コモディティであるメモリの市況は、いつか必ず反転します。そのとき、いま市場が置いている強気の前提は下方修正され、予想PERは一気に切り上がる。つまりキオクシアは、超サイクルという細い綱の上を渡っているような株です。数字が「安い」ことに安心するのではなく、その安さがどれだけ大きな前提に支えられているかを見る。7月31日の第1四半期決算で、会社がその前提に見合う勢いを示せるのか——そこが、これからのキオクシア株を見るうえで一番の注目ポイントです。
泉田 良輔
著者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。LIMO&ファイナンス編集長。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。2026年6月に専門家と実務家が情報発信をする金融経済ニュースサイト「LIMO&ファイナンス」を立ち上げ編集長に就任。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年6月26日