人生100年時代といわれる現代では、60歳を過ぎても元気に働き続ける方が増えています。
セカンドライフを充実させるためには、健康はもちろんのこと、お金の計画も非常に大切です。
老後の生活を支える大きな柱は「公的年金」ですが、それだけでは少し心もとないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
結論から言うと、これらの給付金や手当は、待っていても口座には振り込まれません。しかも「自分はどれが対象なのか」は、年金の受け取り方や60代の働き方によって一人ひとり変わります。今回は2人のモデルケースをもとに、具体的にいくら差がつくのかを見ていきましょう。
実は、公的年金以外にも、私たちの暮らしを支えてくれる国の制度が存在します。
しかし、これらの多くは自分から手続きをしないと受け取れない「申請主義」が基本であり、しかも該当する制度は人によって異なります。
この記事では、65歳で年金を受け取り始めるAさんと、60代前半で働き方に迷うBさんという2つのモデルケースをもとに、年金や雇用保険に関連する給付についてわかりやすく解説していきます。
※本記事で紹介するモデルケースは、制度をわかりやすく説明するためのシミュレーション事例です。実在の人物や事例ではありません。
1. この記事の3つのポイント
-
厚生年金加入20年以上で65歳未満の配偶者等がいると「加給年金」が年額24万3800円+特別加算で上乗せされる -
60代の働き方(再雇用継続・転職・完全リタイア)次第で「高年齢雇用継続給付」「再就職手当」「高年齢求職者給付金」のどれが対象になるかが変わる -
モデルケースで試算すると、知らずに見逃した場合に数十万円単位の差が出ることもある
2. モデルケース①:65歳のAさんの場合|年金に上乗せされる2つの給付金
Aさんは65歳、厚生年金に38年間加入し、3歳年下(62歳)の妻と2人で暮らしています。妻は専業主婦で、厚生年金の加入期間はありません。
このようなAさんのケースでは、老齢年金に上乗せされる「加給年金」と「老齢年金生活者支援給付金」という2つの制度が関係してきます。
2.1 「加給年金」はAさんの場合いくら上乗せされる?
「加給年金」は、厚生年金に20年以上加入していた方が65歳になった際、生計を維持している「年下の配偶者」や「子ども」がいる場合に加算される制度で、いわば年金版の「家族手当」のような役割を持っています。
Aさんは厚生年金加入期間が38年(20年以上)あり、65歳到達時点で65歳未満の妻がいるため、加給年金の対象になります。
加給年金の支給条件について
- 厚生年金加入期間が20年(※)以上ある人:65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)
- 65歳到達後(もしくは定額部分支給開始年齢に到達した後)に被保険者期間が20年(※)以上となった人:在職定時改定時、退職改定時(または70歳到達時)
(※)または、共済組合等の加入期間を除いた厚生年金の被保険者期間が40歳(女性と坑内員・船員は35歳)以降15年から19年
ただし、妻自身が老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上あるもの)を受給する権利を持つ状態になると、加給年金は支給停止されます。Aさんの場合も、妻が65歳になり自身の年金を受け取り始めるタイミングで加給年金は終了する点に注意が必要です。
Aさんが受け取れる加給年金額の目安
配偶者を対象とした「加給年金」の年金額(2026年度の年額)は24万3800円です。月額に換算すると、約2万300円が年金に上乗せされる計算になります。
さらに、老齢厚生年金を受給中の人の生年月日により、3万6000円から17万9900円の特別加算額が上乗せされます。仮にAさんが上限に近い特別加算を受けられる世代だった場合、加給年金の合計は年額42万円超、月換算で3万5000円ほどになる可能性もあります。
なお、妻が65歳になり加給年金が終了したあとは、一定の要件を満たせば、今度は妻自身の老齢基礎年金に「振替加算」という形で一定額が引き継がれます。
2.2 「老齢年金生活者支援給付金」はAさんの場合、対象になる?
「老齢年金生活者支援給付金」は、老齢基礎年金を受給している方のうち、所得や世帯収入が一定基準以下の場合に支給される制度です。
老齢年金生活者支援給付金の対象となる条件
- 65歳以上の老齢基礎年金の受給者
- 同一世帯の全員が市町村民税非課税
- 前年の公的年金等の収入金額(※1)とその他の所得との合計額が昭和31年4月2日以後生まれの方は80万9000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は80万6700円以下(※2)である
※1 障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれない
※2 昭和31年4月2日以後に生まれた方で80万9000円を超え90万9000円以下である方、昭和31年4月1日以前に生まれた方で80万6700円を超え90万6700円以下である方には、「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される
Aさんのように厚生年金に38年間加入してきた場合、老齢厚生年金の水準が比較的高くなるため、この所得基準を上回り対象外となるケースが多いのが実情です。一方で、老齢基礎年金のみを受給している方や、厚生年金の加入期間が短い方は対象になる可能性があるため、確認しておく価値があります。
老齢年金生活者支援給付金の基準額はいくら?
2026年度、老齢年金生活者支援給付金の給付基準額は月額5620円で、前年度より3.2%増額されました。この基準額をもとに、保険料納付状況等により給付金額が算出されます(下記①と②の合計額)。
給付額の具体的な計算方法
- ①保険料納付済期間に基づく額(月額) = 5620円 × 保険料納付済期間 / 被保険者月数480月
- ②保険料免除期間に基づく額(月額) = 1万1768円× 保険料免除期間 / 被保険者月数480月
※保険料免除期間に乗ずる金額は、毎年度の老齢基礎年金の額の改定に応じて変わります。
加給年金は厚生年金にしっかり加入してきた方ほど対象になりやすい一方、老齢年金生活者支援給付金は逆に年金水準が低めの方向けの制度です。「自分はどちらのタイプに近いか」で確認すべき制度が変わるので、思い込みで判断せず、年金事務所で自分のケースを確認するのが一番確実です。
3. モデルケース②:63歳のBさんの場合|60代の働き方で変わる3つの給付
Bさんは63歳、60歳の定年後は再雇用制度で同じ会社に勤めていますが、契約更新のタイミングで「このまま働き続けるか」「転職するか」「そろそろリタイアするか」を考えているところと仮定します。
Bさんがどの道を選ぶかによって、対象になる雇用保険関連の給付金は変わってきます。
3.1 選択肢1:再雇用継続で賃金が下がった場合「高年齢雇用継続給付」
高年齢雇用継続給付は、60歳以降も働き続ける人の賃金低下を補うための給付金です。60歳時点と比べて賃金が一定割合以上下がった場合に支給されます。
高年齢雇用継続給付の支給条件
- 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者
- 支給条件:賃金が60歳到達時の75%未満となった状態で働き続ける場合
Bさんの場合、60歳到達時に月30万円だった賃金が、再雇用後は月22万円ほどに下がったとします。この場合、60歳到達時の75%未満という条件を満たすため、高年齢雇用継続給付の対象になります。
高年齢雇用継続給付の支給率
- 支給額:最高で賃金額の10%(※)相当額
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は15%
支給率は賃金の低下幅に応じて段階的に決まる仕組みで、下がり方が大きいほど上限の10%に近づきます。Bさんのケースのように賃金が大きく下がった場合は、月2万円前後の上乗せになる可能性があります(10%の場合。正確な支給率は上記の早見表で確認できます)。
ただし、老齢年金を受給しながら厚生年金に加入して高年齢雇用継続給付を受け取る場合、在職による年金の支給停止に加え、最大で標準報酬月額の4%(※)に相当する金額が年金から支給停止となる点も押さえておく必要があります。
※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たす人は6%
3.2 選択肢2:転職して早期に再就職した場合「再就職手当」
Bさんがいったん退職し、雇用保険(基本手当)を受給しながら転職活動をした結果、早期に再就職が決まったとします。この場合に関係してくるのが「再就職手当」です。
再就職手当の支給条件
- 対象者:雇用保険受給資格者で基本手当の受給資格がある人
- 支給要件:基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の3分の1以上あり、一定の要件に該当する場合に支給
再就職手当の給付率は?
- 所定給付日数の3分の1以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の60%」
- 所定給付日数の3分の2以上の支給日数を残して就職した場合は「支給残日数の70%」
仮にBさんの基本手当日額が6000円、所定給付日数150日のうち100日を残して再就職できたとすると、100日は所定給付日数の3分の2以上にあたるため給付率は70%になり、再就職手当は「6000円×100日×70%=42万円」という試算になります(あくまで仮定の金額です)。
なお、再就職手当を受け取った後、再就職先で6カ月以上働き、かつ再就職後6カ月間の賃金が離職前より低い場合は「就業促進定着手当」の対象となることもあります。
3.3 選択肢3:65歳で完全にリタイアした場合「高年齢求職者給付金」
Bさんが65歳の誕生日を機に完全にリタイアし、その後に失業状態となった場合は「高年齢求職者給付金」の対象になります。
高年齢求職者給付金の支給対象と条件
- 対象者:高年齢被保険者(65歳以上の雇用保険加入者)で失業した人
- 支給要件:離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上あり、就職の意思と能力を持って求職活動をしているにもかかわらず就職できない状態にあること
高年齢求職者給付金の給付額
- 被保険者であった期間が1年未満:30日分の基本手当相当額
- 被保険者であった期間が1年以上:50日分の基本手当相当額
Bさんは60歳以降も継続して雇用保険に加入してきたため、被保険者期間1年以上の要件を満たします。仮に基本手当日額が6000円だとすると、50日分=30万円が一時金としてまとめて支給される計算です。65歳未満が受け取る失業手当は4週間ごとに分割して給付されますが、高年齢求職者給付金は一括支給される点が大きな違いです。
同じBさんでも、再雇用継続・転職・リタイアのどれを選ぶかで対象になる給付が全く変わります。「もらえる金額」だけで働き方を決める必要はありませんが、選択肢ごとにどの制度が使えるかを知っておくと、いざというときの判断材料になります。
4. 監修者に聞く:モデルケースと自分の状況を照らし合わせるときの注意点
AさんとBさんのケースはあくまで一例であり、実際の金額は加入期間や賃金水準、生年月日によって一人ひとり異なります。まずはご自身の状況がどちらのケースに近いかを整理したうえで、年金事務所やハローワークで正確な見込み額を確認することをおすすめします。
あわせて押さえておきたいのが、2026年4月から在職老齢年金の基準額が51万円から65万円に引き上げられる点です。厚生労働省の試算では、この見直しにより新たに約20万人が年金を全額受給できるようになる見込みとされています。銀行の窓口でも、「年金が減らされるのが嫌だから働き控えようかな」と悩む方に多くお会いしてきましたが、今回の引き上げで年金を減らされずに働ける範囲が広がるため、Bさんのように働き方を迷っている方には選択肢を見直す良いきっかけになると思います。
今回ご紹介した制度はいずれも申請主義です。「自分は対象外だろう」と思い込まず、公的な給付金だけに頼らない資産形成もあわせて考えながら、まずは窓口で自分のケースを確認してみてください。
5. まとめ
今回は、65歳で年金を受け取り始めるAさんと、60代の働き方に迷うBさんという2つのモデルケースをもとに、申請しないと受け取れない公的給付金について解説しました。
年金に上乗せされる「加給年金」「老齢年金生活者支援給付金」、そして働き方の選択によって変わる「高年齢雇用継続給付」「再就職手当」「高年齢求職者給付金」は、どれも該当するかどうかが人によって大きく異なります。
これらの制度に共通しているのは、待っているだけでは支給されず、ご自身で要件を確認し、手続きを行う必要があるという点です。
まずは自分がAさん・Bさんのどちらのケースに近いかを整理し、該当しそうな制度がないか年金事務所やハローワークで確認してみてはいかがでしょうか。
参考資料
- 日本年金機構「か行 加給年金額」
- 日本年金機構「加給年金額と振替加算」
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度について」
- 日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金の概要」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
- 日本年金機構「年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整」
- 厚生労働省「再就職手当のご案内」
- 厚生労働省「離職されたみなさまへ<高年齢求職者給付金のご案内>」
- 日本年金機構「在職老齢年金制度が改正されました」
筒井 亮鳳

