「年収」は生活のゆとりを測る尺度の一つですが、データを見る際には、一人の稼ぎを示す「個人の年収」と、家族の収入を合算した「世帯年収」の2つの概念を区別して考えることが大切です。

例えば、国税庁の「令和6年分 民間給与実態統計調査」によると、働く人「個人」の平均給与は478万円です。

一方、厚生労働省の「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」では、「1世帯あたり」の平均所得金額は575万2千円、中央値は451万円とされています。

今回は、平均より少し上で「ゆとりがある層」というイメージを持たれる方も多い「年収600万円台」のお金事情について、実態を深掘りしていきます。

熊谷 良子

ニュース等でよく見る「平均値」は一部の高所得者に引き上げられがちですが、「中央値」はデータを順に並べた真ん中の額。

つまり、私たちの肌感覚に近いのは「中央値(451万円)」の方なのです。

ご自身の家計と比較する際にお役立てください。

1. この記事の3つのポイント

  •  個人の年収600万円台は上位7.6%だが、月の手取りは30万円台後半と意外にシビア。
  •  世帯年収600万円台は、平均貯蓄1000万超でも負債を引いた「純貯蓄」は少なく余裕なし。
  •  物価高への家計防衛策として、資金を預貯金から新NISAなどの「投資」へ回すトレンドが鮮明に。

2. 日本に「個人」で年収600万円台を稼ぐ人はどれくらいいる?

そもそも、一個人として年収600万円台を稼ぐ人は日本にどれくらいいるのでしょうか。

国税庁の同調査(令和6年分)の給与階級別分布によると、個人の給与が「600万円超700万円以下」の人の割合は、全体の「7.6%」です。男女別に見ると、以下のようになります。

  • 男性: 10.3%
  • 女性: 4.0%

「たった7.6%しかいないの?」と思うかもしれませんが、これより上の「年収700万円超」の層(全体の十数%程度)と合わせると、年収600万円以上を稼ぐ人は全体の2割強となります。

全体の平均給与(478万円)を大きく上回り、上位20%圏内に食い込むことを踏まえると、やはり限られた上位層と言ってよいでしょう。

ちなみに、現在年収600万円台が多い業種としては「情報通信業」(平均給与約662万円)などが挙げられます。

3. 年収600万円の「手取り額」の目安は?

「年収600万円」と聞くと、毎月自由に使えるお金がたくさんあるように思えますが、額面がそのまま手元に入るわけではありません。

年収からは、所得税や住民税、健康保険や厚生年金といった社会保険料が差し引かれます。扶養家族の有無などで変動しますが、一般的に年収600万円の「手取り額(可処分所得)」は、額面の約75〜80%程度、金額にして約450万〜480万円前後が目安となります。

これを12カ月で割ると、ボーナスを考慮しない単純計算で月の手取りは「30万円台後半」です。決して少なくはありませんが、住宅ローンや教育費が重なる現役世代にとっては、意外と余裕を感じにくい金額かもしれません。

熊谷 良子

手取りが意外と少ない背景には日本の「累進課税」があります。

実は年収600万円台後半は、所得税の税率が10%から20%へと一段階上がるボーダーラインに位置する層でもあります。

額面が上がっても税や社会保険料の負担感が増しやすい、まさに「壁」の年収帯と言えるのです。

4. 共働きなどで到達する「世帯年収600万円台」の家計のリアル

一個人として年収600万円に到達するのは限られた層ですが、夫婦共働きなどで収入を合算し、「世帯年収」として600万円台を確保している家庭は決して珍しくありません。

では、「世帯年収が600万円台」となっている家庭は、どれくらい貯蓄し、負債を抱えているのでしょうか。総務省「家計調査(貯蓄・負債編)-2025年」から、勤労世帯(二人以上の世帯)のデータをみていきます。

年収600万円台世帯の「貯蓄・負債事情」2/4

年収600万円台世帯の「貯蓄・負債事情」

出所:総務省「家計調査(貯蓄・負債編)-2025年」(第8-2表)をもとに筆者作成

4.1 世帯年収600万~650万円世帯(平均年収:622万円)

  • 平均貯蓄額:1252万円
  • 平均負債額:840万円(うち「住宅・土地のための負債」782万円)
  • 純貯蓄額(貯蓄-負債):412万円

4.2 世帯年収650~700万円世帯(平均年収:672万円)

  • 平均貯蓄額:1356万円
  • 平均負債額:1154万円(うち「住宅・土地のための負債」1013万円)
  • 純貯蓄額(貯蓄-負債):202万円

どちらの階層も世帯の貯蓄額は1000万円を超えていますが、大部分を占めているのが住宅ローンなどの負債です。

貯蓄から負債を差し引いた「純貯蓄額」を見ると、「世帯年収600万~650万円世帯」で412万円、「世帯年収650万~700万円世帯」では202万円と大きく目減りします。

マイホーム購入等による負債額が大きく、結果的に純貯蓄額が世帯年収の半年分にも満たない水準になっているのがリアルな姿です。

熊谷 良子

「負債ばかりで不安…」と思うかもしれませんが、住宅ローンには「住宅借入金等特別控除(ローン控除)」があるため、金利以上の節税効果が出るケースも多いです。

とはいえ、手元の「純資産(貯蓄-負債)」を把握しておくことは万が一の備えとして必須。年に一度は我が家のバランスシートを作ってみましょう。

5. ボーナスの使い道も「預貯金」から「投資」へシフト

このように手取りや純貯蓄が伸び悩む中、生活者はどのようにお金と向き合っているのでしょうか。

終わりの見えない物価高などを背景に、「預貯金」だけでなく「投資(資産運用)」へとお金をシフトさせるトレンドが鮮明になっています。

三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社が2026年6月に公表した「夏のボーナスの使い方に関する実態調査」によると、5年前と比べて「特に増えた使い道」の最多は「投資」で60.8%にのぼり、預貯金(21.1%)の約3倍となりました。

さらに世代別で見ると、30代の79.7%、40代の71.1%が「投資が増えた」と回答しています。現役世代がこの変化を牽引しており、もはや投資は一部の人のものではなく、家計防衛のためのスタンダードな選択肢になりつつあることがうかがえます。

6. 非課税で効率よく増やす「NISA」の基本をおさらい

新NISAの仕組みを理解!4/4

新NISAの仕組みを理解!

出所:金融庁「NISAを知る」

投資に踏み出す第一歩として、多くの方が活用しているのが「NISA(少額投資非課税制度)」です。通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかりますが、NISA口座で運用して得た利益は非課税になります。

2024年の制度改正により、新NISAでは非課税保有期間が「無期限」となり、生涯で利用できる非課税保有限度額も1800万円へと大幅に拡充されました。制度は主に以下の2つの枠で構成されており、目的や運用スタイルに応じて併用することも可能です。

  • つみたて投資枠(年間上限120万円): 長期の積立に適した一定の投資信託が対象。リスクを抑えながらコツコツ着実に資産形成を進めたい人向け。
  • 成長投資枠(年間上限240万円): 個別株式や幅広い投資信託などが対象(最大1200万円まで)。積極的に資産の成長を目指したい人向け。

途中で資金が必要になった場合は商品を売却でき、その分の非課税枠は翌年以降に再利用できるため、ライフステージの変化にも柔軟に対応できますよ。

7. 「想定外」に備えたマネープランを!

「年収600万円台」と聞くとゆとりある生活をイメージしがちですが、データが示す通り「純貯蓄額」は決して多くはありません。

教育費や住宅ローンの支払いが落ち着いたとしても、やがて自分自身のリタイア後の暮らしが待っています。

仮に「50歳前後で世帯の貯蓄が1200万円以上あった」としても、近年の厳しい退職金事情や物価高を考慮すると、老後生活が安泰かどうかは微妙なところです。

私たちに求められるのは、今現在の「年収」の額面に一喜一憂することなく、世帯全体の手取り額と将来の負債を正確に見極める姿勢です。

「子育てやローンが落ち着いた50歳代以降に一気に貯蓄する」という発想もありますが、収入減や病気といった想定外のリスクを考慮すると、なるべく早いうちから「資産運用」を視野にいれることをおすすめします。

預貯金と「資産運用」にバランスよく振り分けて保有することは、効率よくお金を育てていく第一歩です。「人生100年時代」を見据えた資産形成をスタートするのに、早すぎることはありません。

熊谷 良子

資産運用を考える際、「72の法則」をご存知ですか?

「72 ÷ 金利(利回り)= お金が2倍になる年数」という計算式です。

例えば新NISAなどを活用し年利3%で運用できたとすると、24年(72 ÷ 33= 24)で元本が倍になる計算に。

非課税メリットと複利効果をいかし、時間を味方につけるのが老後対策の最大のコツです。

参考資料

8.1 【ご参考】貯蓄とは

総務省の「家計調査」[貯蓄・負債編]によると、ゆうちょ銀行,郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構,銀行及びその他の金融機関(普通銀行等)への預貯金,生命保険及び積立型損害保険の掛金(加入してからの掛金の払込総額)並びに株式,債券,投資信託,金銭信託等の有価証券(株式及び投資信託については調査時点の時価,債券及び貸付信託・金銭信託については額面)といった金融機関への貯蓄と,社内預金,勤め先の共済組合などの金融機関外への貯蓄の合計をいう。