6. コラム:長引くインフレと「年金改定」のギャップ。ついに減少に転じたシニアの預貯金
家計全体の貯蓄額が過去最高を更新する中で、年金で暮らすシニア世帯には厳しい逆風が吹いています。
最新の「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年」によると、二人以上世帯の平均貯蓄現在高は2059万円となり、比較可能な2002年以降で初めて2000万円の大台を超えて過去最高を記録しました。
これは、給与アップや新NISA制度の拡充、あるいは株高を背景とした「リスク資産への資産の組み替え」が進んだことが要因とみられています。
その一方でで世帯主が65歳以上の「高齢無職世帯」の平均貯蓄額は2,494万円となり、前年から66万円(2.6%)の減少となりました。同世帯の貯蓄減少は実に6年ぶりのことです。
貯蓄の内訳を詳細に確認すると、家計全体では定期性預貯金から通貨性預貯金や有価証券へ資産を移す「組み替え」が進んでいるのに対し、高齢無職世帯では有価証券が小幅に増加したものの、定期性預貯金と通貨性預貯金の双方が減少(預貯金全体で116万円減)しており、明らかな「預貯金の取り崩し(デキュムレーション)」の動きが確認されています。
6.1 物価上昇と年金引き上げのズレ
この高齢無職世帯における貯蓄減少の背景には、終わりの見えないインフレに対して年金の増額が追いついていない現実があります。
実際、2025年平均の消費者物価指数(CPI)は前年比で3.2%上昇しました。
これに対し、この物価高を反映して改定された翌2026年度(令和8年度)の公的年金の引き上げ率は、国民年金(基礎年金)が+1.9%、厚生年金(報酬比例部分)が+2.0%にとどまっています。
マクロ経済スライドの発動で、年金は実質目減り
少子高齢化に伴い給付水準を自動調整する「マクロ経済スライド」が適用されるため、インフレの伸びがそのまま年金額に反映されるわけではなく、実質的に年金は「目減り」しているのが実態です。
この物価上昇と年金改定率のギャップこそが、シニア世帯の生活費を圧迫し、貯蓄の取り崩しを加速させている最大の要因となっています。
現役世代であれば、大企業を中心に5.37%(※)に達した高水準の賃上げやボーナス増、あるいは副業や就業時間の調整といった手段で収入を増やす対応が可能です。
実際に、現役の勤労者世帯の年間収入が前年比4.3%増加したのに対し、主な収入源が年金に限定されやすい高齢無職世帯の年間収入はわずか1.5%増にとどまりました。
この収入増の選択肢の差が、そのまま生活防衛的な貯蓄の取り崩しという形で直撃したのです。
さらにインフレ下においては、預貯金のまま置いておく資産の実質的な価値(購買力)そのものも目減りしてしまいます。
「人生100年時代」を迎え、老後の大切な資産を守るためには、ただ貯蓄を維持するだけでなく、インフレに負けない計画的な「資産の出口戦略(活用・取り崩し)」を事前に描くことが、これからのシニア世代にとって極めて重要な課題となっています。
※2026年春季労使交渉・大手企業業種別妥結結果(加重平均)
7. まとめにかえて
今回は公的年金の受給額の実態や、シニア世帯の家計収支について解説しました。
公的年金のみで老後生活を完全にカバーすることが難しい昨今、「NISA」という言葉をニュースなどで耳にしたことをきっかけに、資産運用に興味を持つ方も増えています。
実際、私の相談窓口でも「NISAの銘柄選定はどうすればいいか」といったご相談や、50歳代〜60歳代の方からの「退職金を運用に回すべきか迷っている」というご相談を多くいただきます。
状況を整理し、ご案内を終えた後にお客様から「本当に助かりました」と安堵のお言葉をいただく瞬間が、私にとって一番のやりがいです。
現場で多くの方を見てきて明確に感じるのは、「お金が貯まる人(資産を築ける人)」はとにかく決断と行動がスピーディーだということ。
そして、多くの方が口を揃えて「もっと早く(投資を)やっておけばよかった」と後悔されています。
金融商品にはさまざまな種類がありますが、大切なのは「保障と運用のバランス」を自分に合わせて最適化することです。
ご自身のライフプランに合った資産形成を「少しでも早く」始めることが、将来の大きな安心へと繋がっていきます。
8. 監修者からのコメント
公的年金制度の仕組みや家計の現状を把握した上で重要となるのは、「知る」ことから「行動する」ことへのシフトです。
家計の赤字を補うためには、現役時代からの資産形成だけでなく、リタイア後も長く働き続ける選択肢や、保有資産を有効活用する視点が不可欠になります。
変化の激しい経済環境をしなやかに乗り切るために、早めの段階からライフプラン全体を見直し、柔軟な備えを整えていけたら良いですね。
参考資料
奥田 朝
